第14話:三層 2

 たどり着いた三層は、壁一面がぼんやりとした青白い光に覆われた、洞窟の続きだった。壁が光っている。それだけでも驚きだが、ちょっと歩いただけでこうも景色が変わるものかと圧倒される。これもダンジョンだから見られる光景なのだろう。光を反射している訳ではなく、壁そのものが光っている。光源はどうなっているんだろう?


「不思議じゃろ? みんな最初来た時はそうやってみとれるんだ」


 スギさんが周りに気を張りながら言う。シゲさんの行動を見て、自分が今ダンジョンの中に居るという事を忘れていたことに気づき、すぐさま周りを警戒する。どうやら入ったすぐでモンスターとの戦闘、とはならなかったようだ。


「ここでやられたことは? 」

「ワシが一回、うっかりやらかしたことがあってね。だからこうして三郎さんが意識を手放してても大丈夫なように警戒はしてるんよ」


 スギさんが盾を構えて答える。やはりトラウマになっているのか、それとも俺に同じ轍を踏まないませないためか、しっかりしていてくれたらしい。助かる。


 そのまま壁沿いに進んでいくと、少し距離を置いてゴブリン達の姿が見えた。弓持ちが二体。これがゴブリンアーチャーか。


「どうやって戦います? 」

「ワシが盾もって気を逸らせに行くからその間に近づいてやっちゃってくれ。初回だし確実に一発殴ることは考えんでええよ。まずは慣れるのが先だわ」


 スギさんの防御にかかっているということか。初顔合わせだから解らないことだらけだ。引き絞る矢の強さ、撃ち出される矢の速さ、どのくらいのダメージを負うことになるのか。それらを含めてまず一試合目ということだろう。まだまだおんぶにだっこの状態だが、せめて一匹はダメージを与えたい。


 スギさんが前に向かって走る。ゴブリンアーチャーは二匹ともスギさんのほうを向いてこちらには気づいていない。その間に近寄って殴る。まずはそこからだな。


 ゴブリンアーチャーが弓を引き絞る。射線を読んだのかどうかまでは解らないが、スギさんが盾を構える。そして発射。ゴブリンアーチャーの放った矢はスギさんの盾に吸い込まれていった。角度をつけて一本目の矢を受け止め、二本目は弾く。スギさんのファインプレイが俺の目を引くが、こっちはその間に近づく必要がある。


 二匹の内片方が、こっちが近寄っていることに気づく。二本目の矢をこちらに向かって撃つ準備を始める。あれが発射される前に近寄り切ってダメージを与えないといけない。先行するシゲさんが弓の弦を切る。これでゴブリンアーチャーは弓が使えなくなった。シゲさんは俺の到着を待ち、俺が一撃入れたことを確認すると止めを刺す。ドロップを確認する間もなく、スギさんの負担を早く下げるために二匹目へ向かう。


 二匹目は相棒がやられら事に気づいたのか、急におたおた始めた。どっちを狙うか考えているうちにシゲさんが駆け寄り、同じく弓の弦を切る。ここまでやれば後は安全な作業だ。ゴブリンアーチャーの背中に槍を突き立てると、シゲさんが止めを刺して戦闘終了。ゴブリンアーチャーは今まででは一番大きい魔石を落とした。


「何とかなったな」

「毎回これをやるのは結構骨ですね」

「慣れだよ慣れ。レベルアップすればこの短い移動でも息切れを起こす事は無くなってくるから、それまでの辛抱さね」


 タカさんが次のモンスターを探している間に感想戦。二匹相手ならさっきの手順で問題は無さそうだ、という事を話し合い、引き続き捜索に入った。ちなみに確率で弓そのものをくれることがあるそうだが、それほど高い価値を有している訳では無いらしい。ただ剣や盾よりは持ち運びやすいので、手持ちに空きがあれば持っていくのも有りなんだそうだ。


 我々の手荷物にも限界はあるし、ギリギリ一杯まで持ったところで戦闘、となると動きに不都合が出ることもある。そのギリギリを見極めて帰ってくるのも探索をする上で大事なことだと教えてもらった。やっぱり登山みたいだな、という感想が漏れる。最も、自分が登山した経験なんて、学生時代に近くの千メートルも無い程度の小山に登って下りる程度の経験しかないわけだが。


 ちなみにだが、タカさんは周りの危害をよこしてくるような対象を探知する能力に目覚めているらしい。おかげで非常に安全なモンスター探しが出来ている。こんな年寄りになっても探索者として覚醒することはあるらしく、年齢や性別、育ってきた環境や好きな落語などの判別なく、探索者として目覚める人は目覚めるらしい。


 タカさんもここに来るまではなんか嫌な空気を避けることが出来る、程度に考えていたらしいが、モンスターと明確に戦うようになって以来そのスキルに目覚めた、という事らしい。いわゆる探索能力にあたるんだろう。


 タカさんが多すぎるモンスターを避けて、自分達でも対処できる範囲のモンスター数のグループを探し出し、それを知らせてくれてそちらに向かう。俺がもっと強くなれればそれも対処できるようになると考えると、自分の責任は中々に大きいものであると言えるだろう。


 タカさんが二人組のゴブリンアーチャーとシールドゴブリンの二匹グループを見つけてこちらに戻ってくる。さっきよりも向こうの攻撃手段が少ない。これは多少楽が出来るはずだ。


 スギさんが盾を構えて前衛に立つ。スギさんの後ろにシゲさんがつき、相手の矢が飛んできたところで飛び出す構えだろう。俺は同じタイミングで飛び出してシールドゴブリンかゴブリンアーチャーのどちらかに攻撃、攻撃した方を優先的に倒す。どっちと言い切ることはできないのは実際飛び出してみなければわからないからだろうな。


「いくぞ」


 スギさんが盾を構えながらまっすぐに突撃していく。ゴブリンアーチャーはこちらに気づき、弓を引き絞って放つ。そのタイミングでシゲさんと俺が前に出て、シールドゴブリンの動きを抑える。シゲさんの斬撃を防いだシールドゴブリンは、その背面から近づく俺に対処できない。手持ちの槍代わりの鉄杭で背中から思いっきり刺す。シールドゴブリンはその痛みで盾を落とし、シゲさんがそのままシールドゴブリンを断ち切る。倒したことを確認しないままゴブリンアーチャーに相対する。


 ゴブリンアーチャーは二射目を俺に向けて引き絞っている最中だった。やべ、と思って急いで槍を引き抜こうと試みるが、なかなかシールドゴブリンから抜けない。その間に矢が放たれ、俺の肩口に刺さる。当たった! という感触が体から伝わる。しかし痛みはない。きっと弓を引き絞り切れなかったのだろうか威力は相当弱かった。肩に刺さってはいるものの、体の中に刺さったという体感はない。とりあえず矢を抜くが、血が付いていたりはしなかった。ただ服が破れたのが残念だ。ここでは服も貴重だというのに。


 よくもやりやがったなという気持ちも込めてゴブリンアーチャーの身体に槍を差し込む。ちょうど心臓辺りに刺さった槍をグリグリと動かし、確実なダメージにしていく。いったん離れたところでシゲさんがトドメの一撃を加え、ゴブリンアーチャーも、そしてさっき倒したはずのシールドゴブリンも後に魔石を残して消滅していった。


「三郎さん大丈夫かい、矢が刺さっていたけど」

「多分問題ないですね。矢を抜いたあとも確認しましたがただ刺さっただけで済んだようです」

「ならよかった。三郎さんが怪我したら戻るにも大変だからね」


 一つアクシデントがあったものの、ちゃんと戦えているという証明を一つ手に入れた。この調子で日々邁進していこう。今日は時間区切りでどこまで戦えるかの試験、ということなので報酬について考えずにこの階層に慣れていくことを優先していくぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 20:00 予定は変更される可能性があります

マツさんのゲル 大正 @taisyo_760

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画