第13話:三層 1

「三郎さん、今日は第三層へ行くべ」


 タカさんがそう言った。まだ三層には行ったことが無い。今までずっと一層か二層で戦い続けていた。一層ではゴブリン、ビッグラット、スライムが出現する。数は一から四匹の間で特定で決まってはいない。もし初日の最初に出会ったゴブリンが二匹以上だったら俺は命は無かっただろうな。


「ついに俺も三層へ行くのか。何が出るんだろう? 」

「三層からはゴブリンアーチャーって言うまあ、名前そのまんまだが弓を扱う奴が出てくる。一歩後ろから攻撃してくるからこいつが意外と厄介なんだ」

「後は一匹だけで行動してるけど、イノシシが出てくる。ライトボアって言うんだが、突進してきたらその時はワシの盾で防ぐから安心せえ」


 盾をガンっとなぐりながらスギさんが任せとけと言わんばかりのポーズを見せる。どうやら俺以外はみんな三層で活動してる経験があるらしい。ちなみに二層にはゴブリンに加えてソードゴブリンとシールドゴブリンが出て来ていた。


「俺も慣れてきたからな。ちゃんとダメージを与える役にも回れるように頑張らないとな」

「あんまり気張って怪我されたらいかんでね。ほどほどにせにゃいかんよ。まずは相手の動きをよく読んで相手のパターンを覚えるのが先やね」


 やる気が上がってきたところを諭される。空回りは良くないな、うん。ここは経験者の意見をよう聞いて動くのが大事だろう。それに俺の一番の仕事はどんな形でも良いから一発ダメージを与えることだ。いかに多くのモンスターを倒すことではない。それを忘れないようにしないとな。


 攻撃役のシゲさんはいつも通り深呼吸をすると、軽く頬を叩いて気を取り直す。


「さ、いこうか。三層はこっちだ」


 まだ二層の地図も大まかにしか覚えていないが、シゲさんの足取りは確かだ。きっと通い慣れた階層なんだろう。大名行列は昨日帰りの行列が過ぎ去ったばかり。週に一度、おそらく木曜日に出かけて、日曜日に帰ってくる。今日は月曜なのでモンスターは湧き過ぎたりもしておらず、静かなダンジョンに四人の足音だけが響く。


「アーチャーか……矢に注意ですね」

「あんまり力は強うないんで一発でやられる心配は無い。ただ、矢が刺さるのは間違いないんで、できるだけワシの後ろにいるか、できるなら……いや、初めての相手に無理はさせれんわな。後ろから矢をつがえるタイミングだけ気を付けておいてくれればいい」


 できるだけスギさんの後ろに隠れていることにしよう。俺の仕事は一発殴る。俺の仕事は一発殴る。よし、再認識した。後は三層に到着するまでの何回かの戦闘をこなせることが出来ればいい。


 そう考えていると、ソードゴブリン二匹とシールドゴブリン一匹の集団が現れた。ソードゴブリンは一匹が前へ出てきて、もう一匹はシールドゴブリンの後ろにいる。おそらく、シールドゴブリンに気を取られてる間に後ろから攻撃しようというつもりらしい。ゴブリンは装備が良くなると賢さもあがるんだな。こっちと似た戦法を取ってくる。


 シゲさんが向こうから躍り出てきたソードゴブリンと向き合い、剣を打ち合う。そのスキに俺が槍で一突きし、ソードゴブリンの姿勢を崩す。それを確認したシゲさんが打ち合いをやめ、少しだけ距離を取る。距離を取ったシゲさんを追いかけようとしたソードゴブリンに俺がもう一回攻撃を加えて、注意をこっちに引き付ける。


 ソードゴブリンの剣を持つ側の肩に槍代わりの鉄柱が刺さり、ソードゴブリンが剣を落とす。そのスキにシゲさんが肩口からバッサリとソードゴブリンを切り払い、ソードゴブリンは倒れて黒い粒子に変わっていく。


 一匹は片付いた。残り二匹。さっきと同じやり口でもう一匹のソードゴブリンをやり過ごすと、シールドゴブリンを全員で囲み始める。シールドゴブリンに武器は無い。あるのはそこそこの木材で作られた盾だけだ。盾を振り回して応戦してくるが、こっちも盾で防いでいるため背中はがら空きになる。


 俺の槍でシールドゴブリンの首元を攻撃して、脊髄に当たる部分に損傷を与えると、シゲさんが止めを刺してこれで戦闘終了だ。モンスターはちゃんと三つ魔石を置いて消えてくれた。今日もこの幸運スキルに問題はないらしい。幸運なのか豪運なのか激運なのかは解らないが、とにかく戦いに参加したモンスターが必ず魔石を落とすという現象が今日も問題なく発揮されているのをみんなで確認すると、再び三層に向かって歩き出す。


「三層へはどのぐらいかかるんだい」

「何事も無ければ一時間ぐらいかの。今日はモンスターも少ない日だしもう少し早くつけるかもしれねえな」

「三層からはおいしいモンスターも増えて来るけどその分危険も大きい。気を付けて行かんとな。後ダンジョンの見た目も変わるから見とれて油断せんようにせんといかんで」


 何度か三層へ通いなれているみんなはいいんだろうが、俺は初めてだ。三層はどんなところだろう。見た目も変わると言っていた。一層と二層は同じようなゴツゴツとした岩のダンジョンが続くが、三層はまた違った風景が見られるらしい。ちょっとだけ楽しみにしておこう。


 しばらくゴブリン達を相手にしながらみんなの後ろを歩いて進んでいく。念のため、帰り道が解るように目印みたいな形をしたオブジェクトを確認しながら進んでいくが、どうやらシゲさんはお手製のマップがあるらしく、マップを基にしてあっちこっちと指示し始めた。ちゃんと目印と方向が間違ってなければ進むのは難しくないようだ。


 先に言った通り、戦闘込みで一時間ほど進んだところで三層への道が見えた。ここを抜けると三層らしい。一層から二層へくる間には階段があったが、どうやら二層と三層の間は階段ではなく穴? 回廊? とにかく細めの道を通り抜けると行けるらしい。膝に負担がかからなくていい事だと思う。さて、三層はどんな雰囲気なのやら……

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