第12話:慣れ始め
ここにきて二週間。流石になじんできたし顔と名前が一致してきた。いつもパーティーを組んでいるシゲさん、スギさん、タカさんの四人で徐々に強いモンスターと戦うようにしている。今は棍棒だけではなく、剣を持ったソードゴブリン、盾を持ったシールドゴブリンとも対等以上に戦えるようになった。着実にレベルアップをしていると実感も有り、またモンスターがあとに残す魔石も、俺ならば100%持ち帰ることが出来るという事実を目にすることにより、無くてはならないとまで呼ばれるようになった。
ゴブリンも格や知能が高いほど良い装備をしているようで、向こうもパーティー戦を仕掛けてくるようになった。それぞれの役割についたゴブリン達との戦闘になり、それぞれのモンスターに一発ずつ殴りつけてから倒すような動きをする事を要求されていた。これはマツさんの分析と体験の結果であり、俺が一発殴るとそいつは魔石ドロップ確定モンスター……という事になるらしい。
後二十年若く知ってたら俺も探索者をやってたかもしれないな。そうマツさんにもそう言われたが、この能力はそれだけの効果があるらしい。ただ、モンスターは魔石以外にもドロップするものがあり、それは持っている剣だったり盾だったり様々なものだ。
が、この老人だらけのパーティーでそれらを持ち帰ることは難しく、よほどホームに近い所じゃない限りはその辺に捨てておくと、後は自然にダンジョンに吸収されていくらしい。ダンジョンの仕組みの中でそういう仕様だということは解ってはいるものの、実際にその場面に出くわしたわけではないので鑑賞してみたいところではある。
ともかく、この一週間でかなりレベルアップし、反復横跳びするにも跳躍するにも問題ない膝の強さと背中の真っ直ぐさを手に入れることが出来た。
マツさんのスキルについてもいくつか学ぶ点を見出すことが出来た。彼曰く、ネットスーパーで手に入れた商品のゴミや、モンスターが落とす装備なんかも価値ありとして回収することが出来るらしい。今のところはペットボトルや包み紙、それに注文した時に出てくる段ボールや、持って帰って来られるだけのゴブリンの装備品などが該当する。魔石に比べて運搬コストが良くないという理由であまり持ち帰れては居ないが、徐々に力がついてきたので持ち帰られるだけ持ち帰るようにしている。
もちろん重さが理由で持ち帰りが難しくなったら真っ先に捨てることになる代物なのでそれほどの数を持ち帰った事は無い。それに魔石に比べて体積比でも重量比でも効率が悪いらしく、今現在戦っているモンスターで比べれば魔石だけを回収するほうが効率が良いようだ。
重い荷物も段々軽く感じるようになってきている。探索者というものはこうやって身体能力を高めているらしい。次のレベルアップが楽しみになってきたな。
今日も背負った荷物の中に出来るだけの魔石が一杯と、ゴブリンの盾が一枚、そしてゴブリンの剣が二本。このぐらいなら重さを感じることも無い。魔石の数は数えていないが、昨日よりも少し多いぐらいだと思う。
「今日も豊作でええのう。これも三郎さんのおかげだわ」
スギさんが俺を持ち上げる。ここのところ毎日だ。
「そんなに言わなくてもいいよ。俺は出来ることをやってるだけだし、支給された装備の分まだ稼ぎ切っているようにも思えないし、みんなが生活する分だけ稼がないといけない。まだまだだよ」
「ワシらこれでも老人なんやから、あんまり頑張りすぎても何処かに無理が祟るだろうし、ほどほどにしとかなきゃいかんで」
「そうそう。出来る範囲で出来ることをする。その上でこれだけの成果を持って帰れてることだし、今日も良い感じに稼げたと思うわい」
それぞれのリュックには魔石がたんまりと溜まっている。これで全員の三日分の食糧ぐらいにはなるだろう。話では、魔石の大きさと質で金額に値する価値が決まるらしい。このあたりは弱いモンスターなので魔石の質もあまりよくない。その分重たいという事らしいが、それでも山として狩って帰ってこれたのは上々というところだろう。
ホームに帰るとまず、マツさんに戦果の報告と品物の確認。それらを片付けてから湯を借りる。湯を借りると言っても風呂があるわけではない。ユニットバスを丸ごと購入する事もできるが、ユニットバスに供給するための水も問題だしそれだけの湯を沸かせるだけの電力を用意するのが問題なので、今のところは湯を沸かして桶に一杯貰い、それを共有脱衣所で全身裸になり、隅々まで体を拭いて拭っていくぐらいしかできない。
ダンジョンという前線の真っただ中でたっぷりの湯を使ってゆっくりお風呂にはいるというのはあまりにも贅沢だろう。日々の垢を落とせるだけでも充分にありがたい事だ。
あちこちを拭いてスッキリすると、タオルを最後に出来るだけ綺麗に洗って干しておく。タオルは後で洗濯板と洗剤で綺麗にしてまた使う。流石に使い捨てのウォシュレットペーパーなどは使わないらしい。そういうところで節約していかないと、いざ食事するにも困るような有様になった場合を考えての処置だそうだ。
さすがに体を拭いた後のお湯は捨てる。ダンジョンにはなだらかだが傾斜があり、傾斜に沿って溝が掘ってある。最終的に何処かに行きついてそこに溜まっているんじゃないかとも思うんだが、それを確かめに行くためだけにダンジョン内をうろつくのは危険だ。とりあえずこの安全地帯から外にお湯が排出されていて、昔下水道が無かったころのように垂れ流しになっている、ということだろうか。
まあ上下水道も無いのでどうしてもそういうものはどうしても垂れ流しになる。トイレに関してもそうだ。年齢的にボットン便所が辛い歳にはなってきたが、安全地帯内にはトイレがちゃんと据え付けられていて、落とし紙としてトイレットペーパーも備え付けられている。
どうやらこのボットン便所、中にはモンスターであるスライムが落とし込まれていて、そのスライムが汚物を浄化してくれているらしい。汲み取りのたびに粉末を撒いていたのを思い出す。それの代わりであると考えればまあ納得もできなくはない。どうやらトイレットペーパーも一緒に消化してくれるらしく、みんなが毎日利用している割には匂いはそう強くない。昔に比べればこの辺も落ち着いたものだし、懐かしさすら感じるようになってしまった。やはり年だな。
よっこいせとまたがり終わって下を見ると、仄かな明りの隙間で煌めく己の出した物とトイレットペーパー、そして外へ上がってこれないように中で飼われているスライムと目が合ったような気がした。
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