第11話:マツさんの思惑
side:マツ
三郎さんが来て数日たった。彼の特殊能力はいわゆる対モンスターに対するドロップ運、というところだろう。私も探索者として何年か活動する間、いろんな才能や能力、スキルと出会ってきたが、対モンスターに対してだけ効果を発揮する、というケースは初めて見た。
スキルを鑑定する事は出来ないが、少なくともここにたどり着いた時点である程度の運があることは間違いない。少なくとも家族に捨てられたという話をそのまま信じた場合、彼の運勢というものはこのダンジョンやモンスターに対してだけ反応するだけなのだと考えていいだろう。
戦闘に参加するという条件はただその場にいるというだけでなく、何らかのアクションを起こすことが必要だという報告は聞いている。要するに一発でもダメージを与えておけばそれで参加したというアクションになるということになる。つまり、素早くモンスターを引き付けて一発入れてそのままメインアタッカーに任せるというサブアタッカー的なポジションが安全かつ確実だということになるな。
この三日で確実な戦果を得てきている。というか、彼が居るかどうかで収入の収支は今後大きなものになるだろう。
「マツさん、帰ったで」
シゲさん達が狩りから帰ってきた。シゲさんが挨拶に来たという事は三郎さんも無事に帰ってきたという事だろう。
「お疲れ様です。どうでした戦果のほうは」
「ばっちりですよ。やはり三郎さんが一発殴った相手はかならず魔石を落としますね。おかげで荷物も中々の量になりましたよ」
シゲさんからバッグを受け取る。中には大量の魔石。細かいが、かなりの量だ。普段なら二日分以上の荷物になるだろう。それを一日足らずで稼ぎ切ってきたことになる。これで三日分ぐらいの食糧は充分に得られる計算になる。最近少し赤字気味だったネットショッピングの残り金も徐々に減りつつあり、このままだと私も本腰を入れて魔石採集に本腰を入れる所だった。
他の入居者からは「マツさんにもしもの事が有れば明日の飯にも困る」という理由でここに固定されているが、本来はフィールドワークをしたいところなのが本音だ。適度に動かないと太ってしまうし、悩みどころだ。かといって、爺さん婆さんに護衛されつつ遠征をする、ということになるのだが。
「やはり三郎さんはこれからも必要になりますかねえ。やはり効率が違ってきますから」
「そうですなあ。次の狩りはもうちょっと強い相手に挑んでみても良いぐらいの成長をしていると思いますよ。より強いモンスターでも同じように利益を得られるなら、という条件になりますが気合入れて倒して魔石が無し、という今までに比べればこちらもやりがいがあるというものです」
「なるほど。三郎さん自身はどんな様子でしたか」
貰った魔石をネットショッピングの投入口に入れてその魔石でコーヒーを二つ入手するとシゲさんにも渡す。シゲさんは嬉しそうに受け取ると、早速蓋を開けて飲み始める。
「ふぅ、やはりコーヒーは良いですな。トイレが近くなるのが難点ですがこの深みはここに来るまでもう味わう事は無いだろうと諦めていましたよ」
「生活圏内では海外品は超高級品扱いらしいですからね。その点、過去の販売物リストの中にあるものとして入手できるのはこのスキルのありがたい所ですよ」
二人コーヒーを飲みながら今後の流れについて相談する。
「では、次回はモンスター密度の高い所か、強い所へ向かっても問題なさそう、ということですね」
「私たちにとっては今の相手は楽な所ですからね。三郎さんの実力が追いついてくればより確実な収入が見込めるかと」
「ただいま戻りました」
丁度三郎さんが帰ってくる。三郎は家がまだないのでこのゲルに寝泊まりしてもらっていた。後から入ってきたのはシゲさんが真っ先に報告をしてくる、という形で先に来たからであろう。
「お帰り三郎さん。どうですか、戦闘には慣れましたか」
「おかげさまで。体の調子も日々よくなってきましたし、もう少し相手が強くても何とかなりそうな気がしてきました」
三郎さんの腰の曲がりも真っ直ぐになってきた。五十代と言っても信じられる程度には若々しくなってきたように見える。これなら大丈夫かな。
「では、明日からはシゲさん達ともうちょっと強いモンスターと戦ってもらいましょう。魔石は強いほうがより質の高い魔石を落とします。三郎さんのその特性……おそらくスキルなんでしょうけど、それがあればみんなの生活が潤います。どうかよろしく頼みます」
「解りました、頑張ります」
そういうと三郎さんはまた新しい本を読み始めた。勉強熱心な人だ。どうやら人から必要とされるということになって色々と火が入ったらしい。やる気があることは良い事だ。ここに居る人たちは誰彼みなそれぞれ理由があってここに流れ着いた人たちだ。後ろ暗い過去もあるだろうがここでは気にしない。今、何をするか。それだけがあればみんないい。食事を作るだけでも、家を建てるだけでもいいが、やはり食費を稼ぐにも服を誂えるにも、ここでは私のネットショッピング頼りだ。
魔石集めの部隊は二つある。そして、今片方が帰ってきたところだ。もう片方は一泊分の準備をして少し深くへ潜っているところだ。流石に彼らについていくことはまだ三郎さんには難しいだろうが、同程度のレベルへ潜れるようになるまで支援を欠かさないようにしないとな。
しかし、考え事以外の仕事が欲しい。ここでの生活日誌と帳面をつけることぐらいが私の仕事。
「マツさん、夕飯久しぶりにお肉にしようと思うんだけど……あらシゲさん三郎さん、お帰りなさい」
美智恵さんが夕食の相談に来る。
「もうそんな時間ですか。そうですねえ、今日の取れ高を考えるに、久しぶりに牛バラでも使いますか? 」
「あら贅沢。これも三郎さんのおかげかしら」
「わたしはまだまだです。一人でも戦えるぐらいにならないといけないと思っています。皆さんは私よりお強いでしょうし、早く追いつかないと」
「まだ来て数日なんです。無理をしないでくださいね。三郎さんのおかげでこれから儲けさせてもらう予定ですから」
「精進します」
この調子なら大丈夫そうだ。三郎さんの更なるレベルアップとスキルの効果に期待して、今日の夕飯は奮発しよう。美智恵さんにちょっとだけ三郎さんの肉を多めにしてもらうようにそっと耳打ちしておくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます