第10話:モンスター退治体験
老人ホーム……名前考えないのかな。名前を付けても他人から呼ばれない限り意味が無いからつけないのか、それとも終の棲家に名前は不要、生きているという証があればそれでいい、という事なんだろうか。とにかくこの場所にお世話になり始めて三日が経った。
その間にレベルアップ現象を何度か体験し、膝の痛みは完全にと言っていいほど無くなった。患っていた部分が楽になるというのはとても気持ちがいいものだ。
そして俺の能力みたいなものにも調査が入った。どうやら、俺が攻撃を加えたモンスターは100%魔石を落とす、という効果があるらしいぞ? というところまでは判明した。
同じパーティーになった、俺を発見してくれたシゲさんとスギさん、そしてタカさんの四人でパーティーを組んでしばらくダンジョンをうろうろしてみたが、一緒に居れば良いというものではないらしい。はっきり言えば俺が一撃を加えるかどうかで効果が明らかに変わる。それは間違いないようだ。
モンスターにも多少の違いはあるらしいが、ゴブリンを参考にするならゴブリンが魔石を落とすのは30%ぐらいの確率らしい。だが、俺が攻撃したゴブリンは100%魔石を落としてくれている。これを一日かけて検証した結果としてマツさんに報告すると、マツさんは少し考えた後、俺に相談を持ち掛けてきた。
「これは三郎さんに負担を強いる話かもしれませんが、三郎さんには頑張ってレベル上げをしてもらって、もっと上位のモンスターと戦えるようになってもらいたいですね。その為には装備の支給も大切でしょうし、確実に一発は殴れる状況、というのを作り出せる戦いの姿勢を組み込んでみてほしいのです。三郎さんの稼ぎでもしかしたらより楽に生活できるようになるかもしれませんからね」
あくまで俺の姿勢に任せるが、という前置きこそつくものの、マツさんはかなり俺に期待を寄せてくれているらしい。自分の特殊体質、いや持っている可能性のあるスキルのおかげなんだろう。30%から100%に変化してくれるというなら、パーティーの持ち帰る魔石の効率は純粋に三倍になる。それが強いモンスターであるなら強いほど、魔石の質も大きさも変わるらしい。つまり、期待大ってことだな。
強い装備を要求して確実に強いモンスターと戦えるようになるのも大事だろうが、まずは戦いというものに慣れる必要がある。他の人との連携もそうだ。俺一人で戦うのもまだ難しい段階で、それでも俺に一撃入れさせてくださいというのは体力も要求されるし、他の人の役割を邪魔しないように連携も考えなくてはいけない。
ここの人たちに比べればまだ赤子と言っても良いのだろう。俺のレベルアップをみんな待っててくれるのだから、率先して戦いを放棄するのは皆の期待を裏切る行為になる。そのため、この三日間ひたすらに疲れるまで戦い、相談し、そして確実に戦い切れるだけの強さを手に入れるために頑張った。
新しく貰った武器は、武器というより建材だった。少し重いが先のとがった槍代わりに、と鉄筋の支柱みたいなものに持ち手代わりの布を巻きつけた簡易槍、これが一番安くて硬くて使いやすくてコストも安く、もしも装備をそこに置き去りにして逃げ出すような形になっても問題ない、との事らしい。
一キログラムほどの槍を新しく手にしたということになる。槍を扱うコツは、突き刺そうとするよりもぶっ叩くという使い方のほうがやりやすいらしく、振り回して攻撃が当たっている間に他のメンバーが止めを刺すなり、自分で追撃を入れて倒すなり、色々と槍というものは応用が効くらしい。
防具代わりに分厚めの柔らかい服を着こんでいるだけで普通のゴブリンの攻撃は急所を狙われない限り問題はなかった。どうやら最初のレベルアップで防御力的な物も上がっているらしく、棍棒だけを持ったゴブリンや巨大ネズミは確実に倒せるようになった。
この三日でさらに四回ほどレベルアップを体験し、手に盛った槍も徐々に重さを感じなくなり始めた。毎日運動しているので結構も良く、持病であった高血圧もかなりマシになってきた。流石に薬はネットショッピングには無いだろう……なんて思っていたが、マツさんのネットショッピングの範囲は一般流通だけでなくいわゆる闇ルートでネットで買える商品もその範囲に入っているんだという。
「結局ネットで買えないものなんて人手ぐらいなんだよね。世の中あるところにはなんでもあるってことみたいですね」
と、半笑いで言っていた。最初の一日で稼いだ金額でひとまず一日分として血圧低下薬を売ってもらったが、二日目以降は体の調子がすこぶるよく、必要じゃなくなっていた。このままレベルアップを順調に続けて行けるかどうかは解らないが、この調子でもう少し頑張ろうと思う。普通のゴブリンや巨大ネズミぐらいなら一対一なら何とでもなるようになった。後はもっと格上のモンスターに対してどう戦っていけるか。そこが問題だろう。
マツさんには、そこまで根を詰めなくても大丈夫だし、今は成長の時だから焦って怪我をしたりすることのほうがよほど危ないとは言ってくれているものの、個人的には早く恩返しが出来てみんなが楽に暮らせるようによりもっと魔石を持ち帰られるように努力したいところである。
俺の第三の人生はここで存分に戦い、そして楽しみ、本当にお迎えが来るまで生き延びる事だ。それまでに出来る精一杯の事をしたい。それに、あのままボケて上下左右も解らないまま死ぬよりはこっちのほうが面白そうだ。頭もクリアになってきたし、こうやって冷静に考えることが出来るようになったのもレベルアップの恩恵だとすれば、世の中のすべての老人はレベルアップをしてボケ防止に役立つのではないか……そう考えるが、伝える方法がないか。
とりあえず、今日もゴブリンと巨大ネズミを頑張って百体は倒した。これで今日一日分ぐらいのみんなの飯代は稼げたと思う。もっと良いものを食いたいと思えば、その分頑張れという事だろう。頑張りが形として表せることになるならうれしい事だ。この老骨にもまだまだ働き場はある。明日はもう少し強い敵がいるほうに向かえるように意見を出してみるか。他の人に聞いて俺の実力でなんとかなりそうかどうかは判断してもらおう。慢心はよくないからな。
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