世、妖(あやかし)おらず ー徘徊姫ー

銀満ノ錦平

徘徊姫


夜、私は散歩をするのが好きです。


月明かりがいつも無機質な道路に照らされて特別な自分を演出できるステージになる。


そこを何の縛られることもなく、人の目線も気にせずに自由に動けるのがとても癖になる。 


流石に公共の場所というのは弁えてるので、裸になるとか、他人の家先に入ろうとするとかはにしなかった。


しなかったが車が来ないのを確認した後に、道の真ん中で軽く踊る動作をしたり、好きな漫画のシーンの真似事をしたりと開放感に目覚めてしまっていてそれを数カ月も続けてしまった。


ただこれを辞める切っ掛けができてしまった。


この切っ掛けさえ無ければ、まだ続けてたと思う。


例えば親に見られて注意されたとか警察に補導されてしまったとか…逆にそこまでされないと辞めないという今にして思えば変なプライドを持っていたと思う。


しかしそれ程までしないと辞める気がなかった深夜徘徊を辞めてしまう程の理由ができてしまった。


あれは、夏の…少し暑くなり、蝉も鳴きはじめた頃だった。


相変わらず深夜徘徊をしていた私は、少し気分転換にとある長い川沿いを歩くことにした。


川沿いは、多少整備されてるものの歩きにくいし石が疎らに置かれているから偶に足の裏に大きいのを踏みつけて痛い思いもしている。


それでも今日は、何故かこの川沿いを歩きたくなった。


川沿いに向かい歩いていると橋が見えた。


そこから見る川沿いはとても綺麗で、月がいい味を醸し出していた。


月の光が川に反射してそれはもう幻想的だった。


いつも陽が出てる時間に見るこの川沿いはただの川にしか見えなかったのに、コントラストが違うだけでここまで印象が、景色が変わるのかと人の脳というものはこういう感情を何故作り上げるのかと不思議でたまらなかった。


ただそんな難しいことなど分かるわけもなく、ただ綺麗な景色を眺めていた。


そして少し見惚れてたが時間も時間なので早めに川沿いに沿って歩くことにした。


月明かりが私と共に歩いているようで何かいつも以上に自分は特別な存在であんなに地球を照らしている月が私に付き合っていると思うようで。


少し上機嫌にステップなんかしながら歩いていた。


約数百メートルくらい歩いていたが、暑さが伴って流石に帰りたくなり、道を引き返すことにした。


目の前に人がいた。


中年くらいの男性で多分、ジョギングをしていたのだろう運動姿をしていた。


男性は私と目が合った瞬間、走る足を止め少し慌てたように引き返した。


私は、少し失礼だと憤慨はしたが、まぁ深夜に少し浮いた気持ちで歩いていたらそれが体の動きに出ていて引いてしまったのかと少し反省した。


引き返して先程の橋に戻り、帰る前にふとこの景色を目に残したいと思い再び橋から川と川に照らされた月の光を見ることにした。


それは始め見たときよりとても綺麗な月の光に照らされていたような気がした。


私は、再び見惚れてしまった。


川がいつも異常に綺麗に感じた。


夜なのに、月の光しか照らされていない深夜なのに。


川が日中より…鏡の様にこの現実の世界を映していた。


そして何故かそこに私が大きく映されていた。


まるでテレビカメラが私に近付いてそれがテレビに映るように。


そして私の姿は…







着物を着ていた。


まるで平安時代の姫様が着ていた様な上品な瑠璃色が輝いていて、水色…只の水色じゃなくなんというか透き通って触ったら崩れそうなそれはとても繊細な水色をしていた…。


頭部は長髪で前髪を半分に分かれていて、顔肌も白く化粧をされていた様な姿見をしていた。


おかしいのは…今日、歩きやすい様に上も下もジャージ服で着ていて、顔も化粧なんかしてないしそもそも私は短髪なので何故この姿になっていたかは今でもわからない。


そして私は、その時はその姿を見ても…その姿が何故か月明かりに照らされていた川にしっかりと映っていた事になんの違和感もなかった。


私は、その映された私でないはずの私をまるで恋をするように、とても強く見惚れていた。


見惚れながらその橋で舞っていた…らしい。


らしいというのはこの舞いを踊っている時の記憶がない。


どうやら、その舞っている私を誰かが目撃していたらしくその話は私がいつの間にか家に帰宅した翌日には知り合いにまで知れ渡るほどの話になっていた。


何でもあの川沿いには、平安時代に悲恋により川で身を投げた姫が月明かりがでる夜に踊りだすという話になっていた。


周りも生まれた頃からこの地元に住んでるのでそんな噂も歴史話も民話も聞いたことがなかったと疑問に思っていたが何故かそういう噂が日が進むに連れて広がっていった。


どこで私がそんな姿になったかは分からない。


ただ最低でも私が川沿いを引き返す時にはその姿になっていたんだと思う。


あのジョギングしている男性が姿をみて引き返したのもこれが理由だと今は思う。


私はそれ以降、徘徊するのが何故が怖くなってしまい今はしていない。


深夜徘徊を辞めてからその姫様も見ることはなくなった。


なんであんな姿になったかもわからないし、そんな昔話も聞いたこともないのに姫様の噂がすぐに広まったのかもわからない。


ただそれを目撃していた知り合いの一人は、


「とても綺麗だった。あの日、その姫姿をした人が舞っていた時は月明かりも相まって、見惚れてしまっていた。まるでその場所が神社の様な神聖な場所に見えてしまうくらいだった。」…と言っていた。


あと


「表情がその時だけは月明かりにずっと照らされていた様にハッキリ見えていた。涙を流していたようだった。」とも。


そんなのいきなり見たらそういう噂がすぐ立つんだろうなあと聞いてて思った。


しかしその後の事は誰も知らないらしい。


いつの間にか消えていたのだと。


私は、なんなんだ…と、聞きながら思っていた。


だってそれは私じゃない私だったのだから。


ただこれだけが完全に辞めた切っ掛けではなかった。


なぜなら、姿が変わるだけな上にただ舞って終わっていつの間にか家に帰るくらいなら別に自分屋周りには害はない。


無いどころか私の、もう一つの顔として受け容れようかと期待してしまう位にはほんとは浮かれていた。


浮かれていたのだが。


その噂が何故か再び周り始めていた。


私は辞めているのに何故かその姫様の姿をしていた川沿いを廻りながら舞っていたと。


私はそれを見ようかと悩んだが何故か怖さの方が勝ってその好奇心を抑えることにした。


あれは、私のもう一つの顔じゃなかった。


ならあの姫の様な姿は何なんだ?


もしかして取り憑かれた?


多分私にしか分からない恐怖心だったんだと思う。


周りの好奇心と対照的に怯えていた私と温度差が違っていたと思う。


そしてある日を境にその話もぱったりと消えた。


近所に住んでいた女性が死体で発見されたのだ。


橋の真下の川水に浮いていたらしい。


何故か、手首が何度も捻った様な異様な形になっており腰が相当折れていて、足も打撲後が相当ついていたらしい。


その女性は、周りにその噂を確かめたいと張り切っていたらしく私が徘徊を辞めた次の日からその女性が徘徊をしていたらしい。


そしてその日からその姫の舞が目撃されるようになった。


しかし私と同じ様にその姫の姿になってる間は記憶が無かったんだろう、その日以降は大学生で時間があったからか深夜徘徊を続けていたと。


だが話は広がり、周りの目撃者も増えど自分は何故か目撃出来ないと愚痴っていたらしくもう徘徊して一ヶ月近くは立っていた。


そして丁度私がその姿になっていた日の一ヶ月後に…その女性が水死体になっていたということだった…その日も月明かりが綺麗だったのは憶えている。


その話を聞いてそれはもう怖くなった。


浮かれていたことも後悔したしあの日に徘徊をやめて良かったとその時はほんと頭の中で言い聞かせ続けていた。


あの姫様は噂通りに悲恋で身投げしたのかは分からないが…最低でも踊り狂った挙げ句に身投げをさせてしまうナニかしらの存在だったのだと思ってしまって。


もし取り憑つく存在なら何故私だったのか…私があの月の光に照らされていて綺麗に輝いていた川に見惚れていたからだったのかそれともあの川沿いを歩いていたからなのか…それは、わからない。


ただその日以降はその目撃話も聞くことはなかった。


多分、その姫様は女性の身体を媒体にしてそのままその女性の身と共に成仏したのだろうと思う。


もしあの日に辞めてなかったらそれが私になっていたかと思うと…。


これが私が徘徊を辞めた理由である。


ただ、偶に家の周りで何か重いものを引きずる音が聞こえるときが来る。


今日も月が綺麗だ。






































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