第6話


 そして、時刻は20時に差し掛かりそうな頃。


 昨日とできるだけ同じ時間に向かうために明日以降の仕事も前借で残業をしているとあっという間に窓の外は真っ暗になっていた。


「っぁ――――もう、八時か」


 周りを見渡すとほぼ誰もいない。

 企画部と開発部の方はちらほらと明かりがついているが俺の所属する設計部の方は残りは俺一人。

 本来であれば春雨さんがいてもおかしくはないが今日の夕方からは支社の方へ出張の予定があり、今頃仙台で牛タンでも食べているはずだ。


「っててて……」


 流石に同じ姿勢で座っていたためか、首が痛み、一度背伸びとやらでストレッチをしていく。ギギギ、グギっと骨の鳴る音が聞こえどれだけ自分の体を酷使しているのかが露わになる。


 実際のところ、職場の方ではストレッチの時間や体操の時間を設けていはいるものの仕事柄避けることができる症状ではない。俺は俺でだいたいトレーニングに行くのが日課になっているからいいものの、忙しい部署の人やそういう習慣のない人にとってはもう職業病だ。


 最近は年配の社員が何人かぎっくり腰でリモートワークだし、通信部の方はもっと凄いと聞く。


「……どうしようかなぁ」


 なんて考えていると噂をすればなんとやら、で春雨さんからのライン通知がやってくる。


 アプリを開いてメッセージを確認すると


【牛タン、一枚で2000円】

【やばすぎ、これ凄くない?】


 と言った文言と大きな肉厚の牛タンが乗っている皿を片手で持ち上げ楽しそうに自撮りした画像が送られてくる。


「あの人は……」


 凄く美味しそうな牛タンにお腹が鳴り、思わず舌鼓を打つところまで騒々しそうになるがそれよりも写真の春雨さんの方。


「俺だって男だぞ」


 普段からはまるで男友達のように絡んできては色々とあることないこと言ってくるが、彼女はあくまで女性だ。

 スーツのワイシャツを開けさせ、下着の日も見たいのが薄っすら見えているし谷間もどうにか隠してほしい。たまに愚痴ってくる「今日もガン見された」とかはこういうところから来るって言うのを理解してほしいものだ。


 彼女らしいと言えばらしいが、俺も大学院生の頃は少し戸惑ったから何とかしてほしい。春にはまた新卒の子がやってくるし、今年はたまたま内田さんが配属されたからいいもののほぼ男のこの業界ではちょっと刺激が大きすぎる。


「って、キモいこと考えてる場合じゃないだろ」


 夜のテンションだったからか考えていたことを頭を振ってどこかへ飛ばし、いつも通りの返信を送る。


【はいはい。お土産待ってますよ】

【経費で買ってあげる】


 流石にそれはやめてくれ、と頭の中で呟きながら適当なスタンプを送ってスマホを閉じる。


 再び時計を確認すると20時を過ぎていて、ひとまず会社近くのレストランで時間を潰してから和奏のいるコンビニの方へ向かうことにした。




◇◇◇◇



「……ど、どうするべきか」


 と、意気込んだものの。

 ちらほらと降り続ける雪の中、俺はコンビニの入口手前で立ち止まっていた。


 時刻はすでに21時頃。

 昨日和奏と会った時間よりは1時間ほど早いが、あまり遅すぎると行き違いになるため狙った時間だったのだがここにきて問題発生だ。


 それはもう言わずもがな、このままずかずかとコンビニに入ってしまっていいものかというものだ。

 あくまでも和奏が仕事を終える時間よりは早く着たつもりなのもあって、彼女の勤務時間が普通にまだ1時間あった場合のことをあまり考えていなかった。

 それに加えて、このまま入って彼女がいなかった場合だ。

 今日も仕事があるとは言っていたものの何かの打ち合わせとかで別の場所に言っていたら他の店員さんに訊くことになるだろうし、そうすると問題は訊いてくる俺の存在だ。


 なんだかよく分からないスーツを着た雪塗れのおっさんが店長の和奏さんを訪ねてきた。


 って感じの状況、俯瞰的にヤバすぎる。

 もしも俺がバイトの店員だったら怪しんで警察呼んでいる姿が容易に想像できる。

 というか、そうするべきだ。当たり前だ。

 時間も時間だし、20代後半の女性を狙った不審な男。うん、絶対に通報する。


「こ、ここまでか」


 ここまできたら帰るわけにもいかないが、とはいえここで無策でカチコミに行くのも危ない。

 まさかないとは思うのだが、和奏が店員さんに色々と話をつけていたらなんて考えてしまったり。

 しかし、この状況ではそうもいかない。


 と、すると。

 やっぱりここはコンビニの外で張り込んでみるか、どうか。


「……さ、寒すぎるよな」


 外はすでに冷気に包まれ、温度は氷点下。

 北海道の真冬の夜、無理もない。

 しかし、詰んだ状況のためそうするほかない。


「――あの」


 そうやって甘んじて受け入れつつコンビニの前で立ち止まっていると、案の定コンビニの店内から一人中年の女性店員がやってきて、俺に向かって声をかけてきた。


「え、あはい⁉」


 想像はしていたものの、いきなりのことで思わず素っ頓狂な返事をすると彼女はぐぬぬと視線を鋭くし、単刀直入に訪ねてきた。


「あの、ですね? お伺いしてもよろしいですかね?」

「は、はい! もち、もちろん大丈夫ですよ!」


 まずい状況になってきたが、ここまできたら甘んじて受け答えるしか道はない。

 そうして目をつぶり、審判の時を待っていると……彼女はこれまた唐突なことを質問してきた。


「――もしかして。そのぉ……小山内さんという方でしょうか?」

「へ?」


 そう、そのまさかが起こったのであった。

 




あとがき

 本当はもっと長くしたいけど、あまり日を開けるのが怖いので投稿してます(笑)

 ですが、おそらく今週から忙しくなるので3日おき投稿になると思います……いつも読んでいただいて大変感謝していますがご理解宜しくお願いします;;

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仕事に疲れてコンビニに寄ったら、レジ打ちしていたのは疎遠の幼馴染だった。 藍坂イツキ @fanao44131406

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