第10話  「ヤリすぎなくらいが丁度いい!」


別々の学校に通っているため、毎日会えるわけではない。でも、週末は必ず会うようになった。


映画を見に行ったり、カフェでお茶をしたり、

時にはヒナタの家で一緒にご飯を作ったりもした。手をつないで街を歩くのも、もう当たり前になった。


ある週末、ヒナタの家に行くことになった。

ヒナタのお母さんには、遊園地の後、改めて恋人として紹介していた。

優しそうな笑顔で「素敵な彼氏さんね...笑」と言われた時は、少し照れくさかった。


夕食後、ヒナタの部屋で二人きりになった。


「……なんか、変な感じ……」


ヒナタがクッションを抱きしめながら言った。


「……そうだね。今までと、全然違う……」


俺は答えた。窓から見える夕焼けが、

部屋をオレンジ色に染めている。


しばらく、二人で他愛もない話をした。

昔の遊園地の話、学校であった面白いこと、

将来のこと……話は尽きない。


「……ねぇ、」


ヒナタが言った。


「……あのね、」


ヒナタは少し間を置いて、続けた。


「……あたし、あんたのこと、本当に……」


その後の言葉は、小さすぎて聞き取れなかった。

でも、ヒナタの気持ちは、十分に伝わってきた。夕焼けに染まったヒナタの頬が、ほんのり赤く染まっている。


俺は、ヒナタを優しく抱きしめ返した。

ヒナタの髪の香りが、優しく鼻をくすぐる。



……



数日後、いつものように下校途中、

駅までの道を二人で歩いていた。


いつもの風景、いつもの帰り道。

でも、繋いだ手だけが、今までと違っていた。

夕焼けが、二人の影を長く伸ばしている。


「……ねぇ、」


ヒナタがふと立ち止まり、俺を見上げた。


「……あのね、」


少し間を置いて、ヒナタは続けた。


「……最近、色々あったじゃない?」


「ああ、色々あったな。」


俺は苦笑いした。遊園地での告白、初めてのデート、ヒナタの家に行ったこと……確かに、短期間で色々なことがあった。


幼馴染として何度も行った家だけど、恋人として行ったのは初めてだった。その違いは、想像以上だった。


「……なんか、全部、ヤリすぎなくらい、ジェットコースターみたいだったよね。」


ヒナタはそう言うと、少し照れたように笑った。


「……だって、昔からずっと一緒にいたし、お互いの家にも何度も行ってるし、家族ぐるみで付き合いもあったし……なのに、急に恋人になったり、デートしたり、今までとは違うことが次々と起こって……本当に、ジェットコースターみたいに、展開が早かった。」


ヒナタはそう言いながら、俺の手を握った。

その手は、温かかった。


「……でもね、」


ヒナタは続ける。


「……全部、本当に、嬉しかった。幼馴染として過ごした時間も、もちろん大切だったけど……恋人として、こんな風にドキドキしたり、新しいことを経験したりするのも、すごく楽しい。全部、あたしにとって、大切な、新しい時間になった。」


ヒナタは、俺の手を握る力を少し強めた。


「……だからね、思うんだ。」


ヒナタは、真っ直ぐに俺の目を見つめた。

夕焼けが、二人の顔を赤く染めている。


「……幼馴染だった私たちにとっては、恋人として、これくらい、ヤリすぎなくらいが、丁度いいんだって。」


その言葉を聞いた瞬間、俺は全てを理解した。


ヒナタの気持ち、そして、俺たちの関係。

幼馴染という関係を超えて、恋人として新しい関係を築くためには、これくらいのスピード感、これくらいの変化が必要だったのだ。


「……ああ、本当にそうだな。」


俺はそう言うと、ヒナタを優しく抱きしめた。

ヒナタも、俺の背中に腕を回した。


夕焼けに染まった空の下、

二人はしっかりと抱きしめ合った。



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ヤリすぎなくらいが丁度いい! つちや あすか @asuka_s123

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