第9話  「初めての……」


花火が終わり、遊園地は徐々に人が少なくなってきた。俺とヒナタは、手をつないだまま、駅に向かっていた。繋いだ手から伝わるヒナタの体温が、妙に意識させる。


「……ねぇ、」


ヒナタが口を開いた。


「この後、どうする……?もう遅いし……」


「どうするって……」


俺は言葉に詰まる。時計を見ると、既に夜の10時を回っていた。ヒナタの家の門限も近いだろう。


「……なんか、いつもと違うこと、したい、かな……でも、もう遅いし……」


ヒナタはそう言うと、俯いてしまった。その顔は、夕焼けに染まって、ほんのり赤く染まっている。


(いつもと違うこと……?)


その言葉に、俺の頭の中によからぬ想像がよぎる。


今まで友達としてしか見ていなかったヒナタの、

恋人としての姿を想像してしまう。


「……例えば、」


ヒナタは顔を上げずに、小さな声で言った。


「……明日、映画、とか……?」


「映画……?」


少し拍子抜けした。もっと、何か……例えば、二人きりの場所で……とか、そういうことを想像していたから。でも、よく考えれば、この時間から何かできるわけもない。


「うん……なんか、明日、

ゆっくりできる時間、あるかなって……」


ヒナタは、やっと顔を上げた。その瞳は、少し潤んでいるように見えた。


「……分かった。明日、映画、行こうか。朝、駅で待ち合わせでいいか?」


俺はそう言うと、ヒナタの手を少し強く握った。ヒナタは、嬉しそうに微笑んだ。


駅に着き、ヒナタを改札まで送ると、ヒナタは振り返って言った。


「……今日は、本当にありがとう。すごく、楽しかった!」


「ああ、俺もだよ。」


俺は答えた。


「……じゃあ、また明日。」


ヒナタはそう言うと、改札を通って行った。


翌日、約束通り駅で待ち合わせ、映画を見に行った。選んだのは、少し甘酸っぱいラブストーリー。


隣同士に座り、暗闇の中、時折肩が触れ合う度に、心臓がドキドキした。

映画の後、近くの公園を散歩した。夕暮れの光が、二人の影を長く伸ばしている。


「……ねぇ、」


ヒナタが言った。


「……手、繋いでも、いい……?」

「……ああ、もちろん。」


俺はヒナタの手を握った。昼間よりも、もっと強く、優しく。ヒナタの手は、やっぱり小さくて、温かかった。


繋いだ手を、ヒナタが自分の頬に寄せた。


「……あったかい……」


ヒナタはそう言うと、目を閉じた。

俺は、ヒナタの顔をそっと見つめた。その表情は、とても可愛らしく、愛おしかった。

我慢できずに、俺はヒナタの頬にそっとキスをした。


ヒナタは、うっすらと目を開けた。


「……ん……?」


眠そうな声で言った。


「……ごめん、起こした……?」

「……ううん……」


ヒナタはそう言うと、俺の肩にまた寄りかかってきた。

そのまま、しばらくの間、夕暮れの公園のベンチで、二人寄り添っていた。

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