第8話  「沈黙と鼓動」



「 すき、......? 」


俺の言葉が、遊園地の喧騒の中に溶けていく。


観覧車のカラフルな光が、ヒナタの顔を照らし出す。赤くなっているのが、遠目からでも分かった。俺の顔も、きっと同じくらい熱く、赤いだろう。


ヒナタは俯き、長いまつ毛が影を作っている。


口元が小さく震えているのが見えた。


(まさか、本当に……?)


心臓が早鐘のように打ち始める。

今まで意識したことのなかったヒナタの仕草や表情が、走馬灯のように頭を駆け巡る。


遊園地でのはしゃぎっぷり、濡れたTシャツ越しに見えた身体のライン、そして、先ほどの切なそうな表情……。


沈黙が重くのしかかる。周りの音が遠く聞こえる。チュロスの甘い香りが鼻につく。


どれくらいの時間が経っただろうか。永遠にも感じられる静寂を破ったのは、ヒナタの小さな声だった。


「……ばか。」


顔を上げたヒナタは、少し涙目だった。でも、口角はほんの少しだけ上がっている。


「……そんなの、あたしが聞きたいくらいだったのに。」


(え……?)


予想外の言葉に、俺は言葉を失う。


「……だって、あんた、いつもあたしのこと子供扱いするし、エッチなことばっかり考えてるし……」


ヒナタの言葉に、ドキッとする。

確かに、濡れたTシャツのことで頭がいっぱいだった。でも、それはヒナタが好きだからこそ……。


「……でも、一緒にいると、すごく楽しいし、安心するし……。あたしが落ち込んでる時、いつも一番に気づいてくれるし……」


ヒナタの言葉は、途切れ途切れだった。

時折、言葉に詰まり、視線を彷徨わせる。


その様子が、嘘偽りのない、

ヒナタの本当の気持ちを表しているように思えた。


「……だから、その……好き、だよ……。あんたのこと……ずっと前から……」


ヒナタは、目を閉じた。

頬には、一筋の涙が伝っている。


俺は、ヒナタの手をそっと握った。

小さくて、温かい手。


「……俺も、ヒナタのこと……」


言葉に詰まる。どう表現すればいいのか分からない。ただ、ヒナタへの溢れる想いが、胸いっぱいに広がっている。


「……俺も、ヒナタのこと、好きだよ。」


やっとの思いで言葉にした。ヒナタは、ゆっくりと目を開けた。潤んだ瞳が、俺を見つめている。


その瞬間、遊園地の花火が打ち上がった。

夜空に大輪の花が咲き、二人を照らす。


ヒナタは、照れくさそうに笑った。その笑顔は、今まで見た中で一番綺麗だった。


(これで、終わりじゃない。これから、始まるんだ。)


花火を見上げるヒナタの横顔を見ながら、俺はそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る