第7話



 …………【ジィナイース】…………。



 フェリックスは呼び覚まされたように金の瞳を開いた。

 精霊の動きを捉える目を持つ竜である彼は、すぐに気付いた。

 自分の身体に寄り掛かってフェルディナントとネーリが眠っている。

 光だ。

 眠るネーリの身体に、優しく蔓を巻きつかせるようにして、光の花が咲いている。


 ……クゥ……。 ゆっくりと今も、次々と芽吹き、花咲いて行く。


 ネーリの身体に咲く花の蔓は、隣にいるフェルディナントの身体にもゆっくりと伸び、伝わって行った。

 まだ若い竜である彼には、初めて見る光景だった。

 でも、この光の花を、前にも見たことがある。

 自分がまだ幼いころ、自分はまだ神聖ローマ帝国の竜の森にいて、今ほど色んな人間に出会わなかった。限りある、皇帝の一族の者たち数人だけがそこにいた。

 ある時、優しい少女のような人に出会った。見慣れないので興味が生まれ、見ていると、その人は自分に笑いかけて、手を差し出して来てくれた。その手には、光の花が握られていて、自分にその花を贈ってくれたのが分かった。

 そんなことをしてくれた人は初めてだったので、別れることになった時、別れてはいけないような気になって、抗った。

 無力だった自分は別れの運命に抗えきれず、結局引き離されてしまったけど。

 その人が贈ってくれた光の花は、寂しがって顔を思い出すと、不思議なことに自分の側にいつでも咲いた。何度でも咲くので、そのうちに寂しがらなくていいんだと気づいた。

 あの人と自分は、精霊の紡ぐ光の道で、結び付いているということが分かった。


 ずっと昔にあったその出来事を、この夜にフェリックスは思い出した。

 光の道や、光の花は、今までも何度か見たことがあるけれど。

光の花が一斉に芽吹き、花開いていく。自分の周りにも光が広がっていく。

 ここまでの景色を見るのは初めてのことだ。

 だが初めて見るその美しい光景に、精霊の亜種である彼は感動し、すぐに理解した。


【ここにある運命は全てにおいて正しい】


 何一つ間違っていない。

 精霊たちがそう感じとっているのだ。


【この先の未来に何があっても、光の花を咲かせるものは】


 信じ抜いていい。

 精霊の世界に裏切りなどは存在しない。

 彼らは人や自然より、もっと厳格な決め事の中で動いている。

 だから、竜は裏切りを何よりも憎み、一度でも自分を裏切るものを決して許さない生き物だった。彼らの世界には裏切られることも、裏切ることも存在しない。

 フェリックスはじっと眠るネーリの顔を見つめた。

 彼の全てを信じよう。

 例えフェルディナントが彼を諫めても、ネーリが行うことがあるなら、自分はそれを信じる。そうすることが、必ずフェルディナントの行く道にもこの美しい光の花を咲かせるだろう。

 力あるものは、最愛の者を守り、幸せに出来るものだ。

 フェリックスは若く、絶望を知らない魂だった。

 彼は自分が力ある者だと、約束のように信じている。



【終】

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