第6話

 


 騒ぎになっていた。

 王と王妃の居室は城の最上階なので、城中の者がそれに気付いていたわけではないが、近習は皆騒ぎに叩き起こされていた。

 参謀ロシェル・グヴェンの姿もあった。

 ラファエルの姿を見て「お待ちください」と前を遮ったが、ラファエルは男の身体をぞんざいに押しのけて、部屋に入った。

 部屋の中は花瓶や調度品が床に散り、砕けている。

 王妃の激昂を恐れて誰も入れずにいたその部屋の中に、ラファエルは全く恐れず、入っていく。

 寝室に入ると、天蓋付きのベッドの側に蹲るその姿が見えた。

 足元に宝石箱が転がり、輝く宝石が散っている。

 血のように赤い宝石がついた首飾りを、ラファエルは拾い上げた。

 静かに、側のサイドテーブルにそれを置く。


「貴方なのですね」


 ラファエルは静かな、優しい声で話しかけた。


「【シビュラの塔】を発動させたのは」 


 いつもの隙の無い姿はどこにもない。

 髪を振り乱し、薄い夜着のまま、裸足で床に蹲った王妃が目を見開き、ラファエルの方を見た。

 大海のような、深い、青い、美しい彼の瞳が彼女を慈悲深い色で見つめている。

 かつてジィナイースは、ラファエル・イーシャの瞳を覗き込んで、想いを込めて見つめれば、君の瞳を誰もが好きになる、とその美しさを讃えたことがある。


 あれが臆病だったラファエルの、全ての勇気になった。


 敬愛して止まないジィナイースがラファエルをそう褒め称えてくれたことで、彼はどんな時でも自分を肯定し、信頼し、愛せるようになった。



「滅びの雨を降らせたのはあなただ」


 咎める色を少しも含まず、

 ただラファエルは優しい声で真実を紡いだ。



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