第6話 チーム集合①



11月18日

コロラド州 デンバー


          ――オブライエン牧場





【21:59現在】


 愛車のトランザムを暴れ牛のごとく暴れさせ、USハイウェイの86号上を吹っ飛ばしてきたジュードは、定刻間際に集合地点へ文字どおりに滑り込んだ。


 排気量7リットルをフル発揮させたスピードに、愛車は横滑りしたままアスファルトをこすりあげ、雑地に突入!

 土砂を吹き飛ばしながら牧柵手前で急停車する。




「オホッ、ケホッ、ンン……」




 もうもうと立ち上がる砂塵を手でふり払い、軽くむせながら車外に降り立つジュード。その痩身が、前方から差し込まれる三つのヘッドライトに容赦なく照らし出される。


 続けざまに放たれる文句の銃弾を浴びずとも、ジュードには誰の仕業かは明らかであった。


「手ぶらで来いとは、どういう了見だ社長ボス?」

社長ボス。あんな説明で納得できるほど、自分の命は安くありませんっ」


 詰問調の声ふたつに、「ああ、まったくだ」とやけに実感を込める三つ目の声。


「せめて夜更けの呼び出しはナシにしよーぜ、ジュード。せっかくの特別な夜が・・・・・キャンセルだ」


 最後に近寄ってきたボーズ頭が、笑みを浮かべたまま、ガシリと力強く肩を叩いてくる。


 視界が揺れるほどの衝撃と、

 肩に食い込む指。


 それをジュードは厳めしい顔つきで人差し指を立てて迎え撃つ。




「――ひとり、100ドルアップ」




 報酬の上乗せを口にした途端、肩に置かれた不躾な手が、気色が悪いほど優しい手つきに変わって筋肉を揉みほぐしはじめる。

 別に現金なヤツと思わない。

 これまでの最高額が日給200ドルであったと思えば、遠慮を知らぬ社員の身にも、寛容の神くらい降りてこよう。


「ま、俺とお前の仲だしな」


 今度こそ、偽りなく親しみを込めた眼差しでボーズ頭が大きく頷く。

 まるで二十年来の親友であるかのように。


「それに経営者のツラさは俺にも分かる。よっぽどの事情があるってな――そういうこったろ?」

「さすがマブダチだ。理解が早くて助かる」


 年上の“親友”に冷めた言葉を掛けながら、ジュードは他二人の反応をうかがう。まずは、十代の名残を留める童顔の娘へ。


「クリス?」

「やらないとは云ってません。私はただ、プロとして詳しい状況の説明を求めているだけです」


 愛らしい顔立ちを拗ねた目顔で台無しにする彼女は、やけに事務的な口調で答える。


「悪いがもう少し待ってくれ。YDSから作戦概説ブリーフィングがあるはずだ。――それで、エンゲルは?」

「俺も仕事を断るつもりはない」


 長身のドイツ系イギリス人も生真面目に懸念を示すだけだ。


「ただ、作戦を練る時間もなく、装備も人任せにするのはプロの仕事じゃない」

「まったくだ」


 心の底から同意して、「だから」とジュードは近寄りエンゲルの分厚い胸板を叩く。


「ヤバいときは――また・・頼む・・


 社内で唯一、元SAS――世界屈指の英軍特殊部隊所属という“輝かしい経歴”を持つ男へ気軽な口調で言い残し、ジュードは正面奥の暗がりに佇む人影へと足を向けた。


 これで話しは済みだと。


 背後でマブダチがメンバーをなだめていることも織り込み済みで、ジュードの意識は、四人一組とひとりのはぐれ者が織りなす群影に集中する。

 ただし、先手を取るのは相手の鋭い一声。


「ギリギリだな」

「だが遅れたわけじゃない」


 悪びれもしないジュードの切り返しに、相手の機嫌が損なわれた様子はない。


「聞いたとおりの男だなジュード・マクラクラン。――ただ、髭は剃った方がいい」

「そうかい」


 またか、と不機嫌な声でジュードが応じると、四人一組の中からひとりが進み出る。

 力強い足取りに自信のほどがうかがえ、身長は百七十あるジュードを少し上回るくらい。そして口調の粗雑さは男だが、艶のある声は女のそれ。

 だがジュードがわずかに目を剥いたのは、別の理由によるものだった。

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【ロッキー山中の機密施設】と民間軍事会社スカーレス @sigre30

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