第4話 早坂蓮

「やべ、来たぞ。おい、じゃんけんで負けた方が挨拶しに行こうぜ」


「おい、それはやべぇって」

本人に聞こえそうな声でヒソヒソと話す。

早坂蓮は死神と言われたヤンキー。そんな噂は町中に広がっている。そのおかげでたまに学校にヤンキーが来るくらいだ。窓際の1番後ろにある彼の席には誰も近づかない。


「はい、お前の負けー。早く行ってこいよ」


「クソ、、、蓮さんおはようございます。今日もいい天気ですね」


「あぁ?」


「失礼しましたー」

謝りながら走って逃げるたまにやる罰ゲーム。


「聞き返そうとしただけなのに逃げられちゃった。俺そんなに怖いのかな」

とボソッと言った。


*********************

昼休み


「あの子いっつも春休みになったら土いじってるよね。友達いないのかな」

女子たちが中庭にいる女の子を指差し笑っている。

それが気に食わず彼女の話が出るたびに女子たちの近くへ行く。そうすると黙るからだ。


そんなある日、昼休みに中庭を見てみると彼女がずっとウロウロして何かを探しているようだった。つい気になってしまい、階段を降りて中庭へ行き、声をかけた。


「な、何かあ、あったのか?」


「すみません、実はジョウロを探していて」


「ジョウロ?」


「はい、私メガネが壊れちゃってどこにジョウロがあるのかわからなくて」


「それならここに」

転がったジョウロを拾い彼女に手渡す。


「ありがとうございます」

何度も何度も頭を下げられ、蓮も満更でもなく笑顔になっていた。


「いつも思ってたんだけどさ、水をやる時は花や葉にじゃなくて根元にかけてあげた方がいいぞ」


「そうなんですか!?ありがとうございます」


「他にも...」

ありがとうと言われたのが嬉しくて自分の知っていることを色々教えているとチャイムが鳴った。


「教室に戻らねーと」


「あの!もしよかったら明日も来てもらえませんか?また色々教えて欲しいので」


「ああ、時間があったらな」


*********************

次の日の昼休み


窓から覗いていると今日もメガネをかけていなかったのを見て、中庭へ向かう。


「今日もメガネ忘れたのか?」


「あ、昨日の。はい、実は忘れっぽくて」


「はい、これジョウロ。水も入れたからかけてみな」

そう言いながらジョウロを渡して水やりを始める。


「あの、お名前の聞いてもいいでしょうか」


少し迷いながら答えた。

「2年の早坂硬だ」


「風紀委員長の!忙しい中手伝っていただきありがとうございます」


「お前は?」


「1年の相田美香です」


「そうか、何で一人で水やりしてるんだ?」


「あぁ、私園芸部なんですけど幽霊部員ばっかりで。前までは用務員さんも手伝ってくれてたんですけど腰を痛めてしまってからは1人で。」


「じゃあ俺がその幽霊部員連れてくるよ」


動き出そうとする蓮の手を掴み必死に止める。

「大丈夫です!私がやりたいだけなので」


「そうか。じゃあたまに俺も手伝ってやるよ。男手が必要な時があるだろうからさ」


「いいんですか?ありがとうございます、硬先輩」


「お、おう。早くやっちまおうぜ」


そこからはメガネをかけていないタイミングを見ては草引きや肥料を撒く手伝いをした。


*********************

そんなある日の家


「なぁ蓮。1年の女の子がいつも手伝ってくれてありがとうって言ってたんだけど何か知らないか?」


「...何もしらねぇよ」


*********************


それからは中庭を見ることがあっても行くことはなかった。嘘をついた罪悪感、本当は死神と言われ恐れられていることを知った時の彼女の顔を見るのが怖くて仕方なかったのだ。


そんなある日の昼休み

「早坂蓮先輩はいらっしゃいますか?」

今日の彼女はメガネをかけている。小さくなりながらもクラスの女子に声をかけていた。すると話しかけては来ずとも皆が視線をこっちに向け、それを見て彼女は歩いてくる。


「あの、今から中庭に来てもらえますか?」

そう言われ中庭までついて行った。色んな気持ちが頭の中でぐちゃぐちゃになり何を話せばいいかわからないまま中庭についた。


「早坂先輩、何で名前嘘ついてたんですか」


聞かれるだろうと思っていた。でも本当に何と答えたら良いのかわからなかったが正直に自分の思いをぶつけた。

「俺だってわかったらビビると思ったから。この学校に入って初めて自然に話せたのに、自分だとバレることで話せなくなるのが怖かったから」


「先日風紀委員長に聞きました。自分じゃないって。それと多分蓮先輩だって。私悲しかったです。それだけ信用されてなかったなんて」

今にも泣きそうになりながら必死に伝えていた。


「信用してなかったわけじゃないんだ。でも傷つけて本当にごめん」


「それだけじゃ許せません」


「本当にごめん。傷つけて騙した罰として、俺に出来ることなら何でもするから」


「わかりました。...じゃあ園芸部に入ってください」


「え?」


「園芸部に入ってまた一緒に花育てましょう」

花を背景にニコリと笑う彼女はとても綺麗だった。


そんな彼女を見て蓮も満面の笑顔で答えた。

「わかった」





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残念な三つ子イケメンも恋をする agasaokura @agasaokura

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