第3話 早坂爽

キュッキュ。バスケットシューズが床と擦れる音が体育館中に響く。

「ナイッシュー」


「やっぱり爽上手いよなー。何でこんな高校でバスケやってるのか不思議なくらいだよな」


「あー、前本人から聞いた話だと」


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「なぁ、爽。ここでバスケやってていいのか?爽の実力なら強豪校からの誘いもあったんじゃないか?」


唐突な質問でも爽は笑顔ですぐ答えた。

「だって練習ばっかじゃ女の子が可哀想だろ?」


「あれ?お前に彼女なんていたっけ?」


「なんて言ったって僕はみんなのアイドルだからね。部活動ばかりだなんてつまらないさ」


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「なんて事言ってたな」


「ちょっとそこの2人。練習中に何の話してるんですか」

2人の背後から女の子が話しかけた。


「すみません!すぐ戻ります!」


「相変わらずユイちゃんは厳しいねー、でも俺優しくされたい派だなー」


「これが学生コーチの仕事ですからね。爽先輩も注意してくださいよね」

彼女の名前は柊結衣。監督の娘というのもあってバスケ部の学生コーチをしている。しっかり知識もあり、彼女に助けられた場面も多くある。監督はまったくの素人のためほとんど彼女が指揮している。


「僕は女の子を相手で手一杯なんだ。ほら女バスがこっちを見てる。おーい、何かあったのかーい?」

そう言って女バスに行こうとする爽の首根っこを掴んで引っ張る。よく見る風景だ。


そんなある日の練習試合後

「完敗だったなー。さすが強豪校だわ」

笑って諦めている部員たち。


「感心してたらダメです。また明日から猛練習ですよ」

全員から溜息が溢れる。それもそのはず。2倍以上の点差をつけられ、頼みの綱の爽も調子が悪かった。本当に何もできなかったのだ。今日はいつもうるさい爽もなにも話さなかった。


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「皆さんお疲れ様でした」

マネージャーの挨拶におつかれーとバスケ部員が返した後ゆっくり帰る。ラーメンが食べたいやら足が疲れたやら話しながら。


「お疲れ、ユイちゃん」


「部長、お疲れ様です!そう言えば爽先輩を見かけないんですけどもう帰ったんですかね?」


すると少し困った顔をしながら答えた。

「爽ならあそこにいると思うよ」


教えてもらった場所に行ってみると本当にいた。

「1人で何してるんですか?」


「見てわからない?バスケの練習してるんだけど」


「練習後いつもここで練習しているそうですね。体育館で残ってやればいいのに」


「努力なんてカッコ悪いだろ?努力せずとも女の子の前では常に完璧でありたいのさ」


「嘘です」


「え?」


「そんなの嘘です。部長から全部聞きました」


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「部長、練習したいなら体育館使わせてあげたらいいんじゃないですか?」


「あー、爽は体育館ではやらないと思うよ」


「居残り練習なんてカッコ悪いとか?」


「違うよ、みんなのためさ」


「みんなの?」


「そうさ。この部で頭ひとつ抜けた爽が毎日居残り練習なんてしてみろ。周りの部員もやらなきゃいけない空気になる。もしやらない奴がいたとして、爽がそれだけ必死そうならユイちゃんもみんなに自主練するよう呼びかけるだろ?うちの部はバスケは好きだが本気で全国目指してやってるやつなんて爽くらいだ。だからみんなに迷惑かけまいと誰よりも早く体育館を出て一人公園で練習してるんだ」


「そんな」


「この話は他の奴には内緒だぞ。俺も自主練しようと公園に行った時たまたま会って教えてもらったんだ。今ではよく一緒に練習してるよ」


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「部長、そんなことまで話してたのか」


「私も練習に付き合います!ボール拾いでも動画でも何でもやります!一緒に全国目指しましょう」


「ありがとう、でもごめんねー。僕年下には興味ないんだよねー、それでもいいならよろしくね」


「うっざ、私だって先輩みたいなナルシスト大嫌いですから」


「あいつら仲良いなー、おーい、俺も混ぜてくれー」

それからは爽、部長、結衣の3人で練習することが増えた。


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ある日の昼休み


「すみません、爽先輩いらっしゃいますか?」


「あー、爽なら」


「ねぇねぇ萌ちゃん。今日こそ一緒にお昼食べようよ。僕の武勇伝、萌ちゃんにならいくらでも教えてあげるからさー」


「ちょっと先輩。昼はミーティングだって言いましたよね?早くきてください」

首根っこを掴み引っ張っていく。


「萌ちゃーん、ごめんまた今度ねー。

おいコーチよ、せっかく今日こそ萌ちゃんとランチできそうだったのに何てことしてくれたんだ」


「いや、どう見ても嫌がってたでしょうが。後今日のミーティング忘れた罰として明日から1週間昼休憩中校内ランですから」


「そんなぁ」


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練習試合


「よっしゃ、勝ったー」

喜びを分かち合いながらほっと息をつく。帰る準備をしたり、片付けをする。


「あれ?爽は?」

周りを見渡すと相手のマネージャーと話している。でもいつもと雰囲気が違う。いつもなら爽がグイグイ行き、キモがられて帰ってくる。でもその日はどちらかというとマネージャーの子が話しかけている。なんか、変な感じするな。


「爽先輩、早く帰る準備をしてください」

つい気になって声をかけてしまった。


「あー、悪いすぐ行く。ごめんね、またね」

そう言い残し片付けを始める。相手のマネージャーは少し残念そうな顔をしていた。


ミーティングが終わりいつもの公園で3人でバスケをしていた。その時もずっと気になっていたのでついに聞いてしまった。


「爽先輩、向こうのマネージャーさんと珍しくいい感じでしたけどどうでした?」


「今回はいつもと違う。その作戦の名はODHだ」


「ODH?」


「押してダメなら引いてみろ作戦だ」


「いや、そのまま言えよ。それでどうだったんですか?」


「もちろん大成功。連絡先を聞かれたよ」


「それで?」


「もちろん、断ったよ。だって今回はひたすら引くのみだからね」


「やっぱこいつバカだ」


「うん、バカだねー」

部長も思わず笑って言う


「なぬ!ならどうすればよかったんだ」


「相手のマネージャー美人だったのになー。普通に交換すればよかったのに。あーあ、これでまた先輩ぼっちですね」


「嬉しそうに言いやがって!今から交換してくる!」

すると走ってさっきの高校の方まで行った。


後日、聞いた話によると家まで着いていき連絡先の交換を迫ったところ、家までくるのはキモすぎると言われて追い払われたそうだ。






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