第11話 一章エピローグ
夜明け、リューガスが率いる王都から派遣された援軍がようやくリブラム村に到着すると、彼らは目の前に広がる光景に息を呑んだ。
村の周囲には、大量の魔物の死骸が散乱している。黒く焦げた地面、深々と刻まれた爪痕、破壊された堀や防壁――すべてがここで繰り広げられた激闘の凄まじさを物語っていた。
「これだけの数……一体どうやって撃退したんだ……?」
無数の死骸はどれも訓練された兵士でも倒すのが容易では無い、恐るべき魔物ばかりだった。
「これほどの激戦で村が無事だなんて……信じられない。」
「いや、それだけじゃない。死者どころか、重傷者すら出ていないと聞いたぞ……」
次々と声を漏らす騎士たち。
彼らの顔には畏怖と困惑が混じっていた。
だが、次の瞬間、彼らの視線がさらに奥――村の外れに横たわる巨大な影に釘付けになった。
「……あれは……なんだ?」
そこに横たわっていたのは、両断されたシャドウベヒーモスの見上げるほど巨大な死骸だった。
漆黒の甲殻が朝陽を浴びて鈍く光り、その裂けた体から流れ出た体液が地面を黒く染めている。
「これが……シャドウベヒーモス……?」
「化け物だ……こんなものがここに現れたのか……!」
騎士たちは次々と声を上げ、目の前の現実に戦慄していた。
その巨体は彼らの想像をはるかに超え、わずかに残った瘴気の残滓すら、見る者に威圧感を与えた。
「どうやってこんなものを倒したんだ……?」
一人の騎士が震える手で剣の柄を握りしめながら呟いた。その声に、周囲の騎士たちも無言で頷く。
リューガスはその死骸の裂け目――鋭利に両断された断面に目を留めた。
「この切れ味……剣の一撃か?だが、普通の武器でこんなものを両断するなど……ありえん。」
彼は少しの間考え込んだ後、静かに村の広場に目を向ける。その視線の先には、異形の巨体がそびえ立っていた。
広場の中央に佇むのは、鈍色のフレームに黒鉄色の装甲をまとった威圧的な巨体。
それはまるで神話に出てくる巨人のように雄々しく立ち、朝陽を浴びて異様な存在感を放っていた。
その左右には、左に翼を広げた「ストームレイヴン」、右に鋭利な角を持つ「バスターブロウ」が配置され、まるで主を守護する従者のように寄り添っている。
「これが……村を守った兵器なのか?」
「兵器……生物……まるで神の化身のような……」
騎士たちは口々に言葉を漏らし、その異様な存在感に圧倒されていた。
リューガスは静かにその場に立ち尽くしながら、戦場跡とロボットを交互に見やった。
そして、意を決したように一言呟いた。
「サトウマコト……お前がどれだけの覚悟でこれを成したのか聞かせてもらおう。」
一方、エストゥールの部下たちは、ロボットの傍らに立つマコトを見つけるやいなや、興奮した様子で次々に詰め寄った。
「巨人や巨獣はどのようにして動いているのですか?」
「元素精霊召喚術を応用していると聞きましたが、一体どのような術式を使っているのですか?」
「この装甲材は何だ?どうやって加工したんだ?」
マコトは突然の質問攻めに戸惑いながらも、一つずつ丁寧に答えていった。
「動力には水の精霊を使っています。蒸気圧を管理する機構があって……」
「精霊の力をどうやって制御しているのですか?精霊は自然の具現で一般的には細かな制御は出来ないと知られていますが――」
「えっと、それは……」
次々と矢継ぎ早に投げかけられる質問に、マコトは一瞬困惑した表情を見せたが、それでも必死に説明しようとした。しかし途中で息切れしたように言葉を詰まらせる。
その様子を見たエストゥールが部下たちを一喝する。
「静まれ。お前達、英雄に無礼を働くでない。彼は疲れている、休ませてやりなさい。」
その一言で場の空気がようやく収まり、マコトは少しほっとした表情を浮かべた。
その夜、村全体で盛大な祝勝会が開かれた。
村人たちは次々とマコトに感謝の言葉をかけ、彼を囲む輪は途切れることがなかった。
「マコトさん、本当にありがとう!」
「あなたがいなかったらこの村はどうなっていたか……」
そんな中、鍛冶屋のベルトランがぶっきらぼうにマコトの肩を叩いた。
彼は不器用な口調で言葉を絞り出す。
「……大したもんだ。よくやった。」
その一言に、周囲の村人たちが一瞬沈黙し、次の瞬間、爆笑が広がった。
「おい!
「あいつがそんなこと言うなんて、次は天変地異が起こるんじゃないか?」
その言葉にベルトランの顔がみるみる赤く染まり、太い腕を組みながら低く唸るような声を上げた。
「おい……お前ら。勝手なことを言うんじゃない!このヤロウ!!」
ブンブンと丸太の様な腕を振って周囲を威嚇する。
その威圧感に、一部の村人たちは怯んだが、何人かは笑いながらさらに茶化す。
「いやいや、貴重な瞬間だ、こんな日が来るとはな!」
マコトはその光景を見ながら、自然と笑みがこぼれた。
祝宴が少し静まり空気が落ち着いた頃、マコトはリューガスとエストゥールの前に座り直し、真剣な表情で語り始めた。
「僕は、この村を守るために全力を尽くしました。ですが、このまま満足するつもりはありません。」
彼の声には強い決意が宿っていた。
リューガスが静かに促すように言った。
「その先に何を見ている?」
少し間を置き、マコトは深呼吸をして答えた。
「この村を守ることができたのは、僕に与えられた力と、ここで得た知識、そして村人たちの協力があったからです。でも、世界にはまだ多くの脅威があります。次に同じような危機が訪れたとき、その場に僕がいなければ誰が守るんですか?」
彼の言葉に、リューガスは真剣な眼差しで応じた。
「その覚悟がどれほどの重みを持つか、お前は理解しているのか?」
「はい。僕はこの元素精霊召喚術をさらに研究し、ロボットを更に進化させます。それがもっと多くの命を守る力になると信じています。」
エストゥールは目を細め、静かに頷いた。
「お主の決意、しかと聞いた。その道は険しいが、歩むに値する。しかもこれほどの戦果を成し遂げたのだ、最早王都の煩い重臣共も文句は言えまいて。」
その会話を聞いていたアイリスが、勢いよく立ち上がった。
「ちょっとーー待ったーーー!!」
彼女はマコトの前に立ちはだかると、鋭い眼差しで睨みつけて言い放った。
「マコト、あなたがどこに行こうと、私もついていくからね!」
その強引な宣言に、マコトは戸惑いを隠せなかった。
「いやいやいやいや、危険だよ。アイリスは村に残った方が――」
「黙って!」
アイリスは鋭い声で遮ると、真剣な目で続けた。
「一人で戦うとまた無茶するんだから!それに、私も鍛冶屋の娘として、ロボットをもっと強くする手伝いができる。それが私の役目!ご飯も作れるしね!」
その力強い言葉にマコトはしばらく押し黙り、やがて深いため息をついた。
「……分かった。でも、無茶はしないこと。それだけは約束してほしい。」
「当然!」
アイリスは満足そうに頷き、近くの村人たちに向けて大声で宣言した。
「これで決まりだからね!誰も文句はないわよね!」
ベルトランだけは渋い顔で唸っていたが、他の村人たちは皆笑いながら頷き、祝宴はさらに賑やかになった。
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廃れた魔法が最強だった件について 〜ロボットと共に異世界で無双する〜 十文字イツキ @jyumonji_1012
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