第10話 決着の刻
戦場の中心で、シャドウベヒーモスの咆哮が響き渡る。四つの赤い瞳が戦場を睥睨し、棘毛が金属光を帯びて揺れるたびに瘴気が立ち込めていく。
ボロボロになったパワードスーツの中で、マコトは呻きながら立ち上がった。
全身の装甲は剥がれ、蒸気が各所から漏れ出している。シャドウベヒーモスの巨体が一歩ずつ近づくたびに、大地が震える。
「くそ……こんなところで……止まれるか!」
全力で拳を握りしめたマコトは、蒸気と精霊の力を最後まで振り絞りながら叫んだ。
「来い――
その叫びが戦場に響き渡ると同時に、空に雷鳴のような音が轟いた。
その声が響いた刹那、戦場の空気が一変した。
遥か空から風を切る轟音とともに、青白い閃光が舞い降りる。疾風のように旋回しながら現れたのは、鋭い翼を広げた猛禽型の新型サポートメカ、
漆黒の機体が風に溶け込み、その鋭い眼光がシャドウベヒーモスを睨みつけている。
エストゥールの部下たちがその姿を見て声を上げた。
「なんだ、あれは!? 稲妻が具現化したのか……? いや、違う……!」
「稲妻だと? いや、稲妻があんなふうに飛ぶものか!」
彼らの困惑する声が広がる中ストームレイヴンは風を切り裂きながらシャドウベヒーモスの頭部を狙い急降下。翼が鋭い刃のように空を切り裂き、真空の波動が巨獣の棘毛をかすめ飛ばした。
シャドウベヒーモスは不快そうに頭を振り上げ赤い瞳で猛禽型を追うが、ストームレイヴンの機動力はその巨体を遥かに上回る。
「すごい……あれが、マコトのとっておきなの……?」
防壁の上でアイリスが驚嘆の声を漏らした。
同時に、大地が大きく揺れた。
森の中から響く轟音とともに、巨大な影が突進してくる。筋肉質な四肢と鋭い角を持つ猛牛型サポートメカ、
村人たちがその姿を見て顔を引きつらせる。
「とんでもねえ魔物がもう一匹出てきたぞ! しかも、さっきの鳥みたいな奴よりさらにデカいんじゃねえか!?」
「今更こんなの、どうやって止めるんだ……!」
混乱する村人たちに向かって、アイリスが大声で叫ぶ。
「違う!あれは味方よ!マコトの……とっておき!」
村人たちは一瞬動揺を見せたが、アイリスの真剣な表情を見てあの巨獣達が味方だという事を悟る。
村人たちが戦慄する中、バスターブロウはその巨体を活かしてシャドウベヒーモスの側面に全力で体当たりを叩き込む。
轟音とともにシャドウベヒーモスが一瞬バランスを崩し、後ろ足をずらした。
そのままバスターブロウはターンし、同時にストームレイヴンもシャドウベヒーモスの怒りの眼差しを嘲笑うかのように縦横無尽に飛び回り、マコトの元に駆けつけた
「これが新しい力さ……! だが、まだ終わりじゃないぞ!」
猛禽型と猛牛型がマコトの両側に集まり、静かに整列する。マコトはパワードスーツの中で拳を握りしめ、再び声を張り上げた。
「
突如、猛禽型と猛牛型が分離し、それぞれのパーツが光の粒子に包まれながら形を変えていく。
ストームレイヴンの翼が背部ユニットに変形し、鋭い脚が両脚ユニットとして分離。スラスターを展開しながらスーツの脚部に装着される。
「
バスターブロウの巨大な胴体がスーツの胸部ユニットに変形し、猛牛の頭部が兜となる。
両腕ユニットが肩部から力強く装着され、最後に巨大な剣が形成される。
「
最後に剣が背中のスラスターから引き抜かれ、手に握られると同時に、全てのパーツが光を放ちながら完全に一体化する。
「これで……全てのパーツが揃った!」
合体を終えた姿を見て、アイリスが震える声で呟く。
「マコト、これが……あなたの新しい力……」
エストゥールもその姿に感嘆を漏らす。
「……廃れた筈の精霊の力でよもやこれ程の……サトウマコト、お主のもつ力は……!」
パワードスーツの力を完全に解放し、剣を構えたマコトは静かに前を向いた。
「行くぞ……これが俺の、俺たちの希望――
シャドウベヒーモスは、狂気に満ちた瞳をさらに赤黒く輝かせ、瘴気を纏いながら低く唸っていた。
だが、エレメンタルブレイサーを纏ったマコトは揺るがない。
スーツから蒸気が噴き出し、剣を構える腕に圧倒的な力が漲っていた。
「これが……エレメンタルブレイサーの力だ!」
脚部ユニットから蒸気と火花が放たれ、次の瞬間。
マコトは驚異的な速度でシャドウベヒーモスに突撃し、巨大な剣を振り下ろす。
「うおおおおおっ!!」
剣がシャドウベヒーモスの棘毛を裂き、分厚い皮膚をえぐり取る。
黒い体毛が火花を散らしながら飛び散り、獣が咆哮を上げた。
その声は地響きを伴い、村人たちを戦慄させた。
「まだまだだ!」
マコトは連撃を繰り出す。
剣を轟音と共に振りかざし、シャドウベヒーモスの足元を狙う。一撃ごとに地面が砕け、巨体がふらつく。
「奴に隙を与えるな!」とエストゥールが叫び、部下たちが魔法を繰り出す。
「裂けよ、蒼天。刃を纏い、全てを断つ風となれ――
「雷よ、天を駆ける一条の光となりて敵を穿て――
空から放たれる雷光の槍と風の刃がシャドウベヒーモスの体を切り裂き、強烈な電撃が巨体を包む。
だが、それでもその耐久力は揺るがない。
シャドウベヒーモスは怒りに震え、瘴気の波を広げる。
「なんてタフなんだ……!」
マコトが苦い表情を浮かべる。
次の瞬間、シャドウベヒーモスの様子が変わった。
その巨大な口が開き、全身の瘴気が渦を巻くように一点に集まる。
その場にいる全員が、ただならぬ気配を感じ取った。
「……まさか……瘴気を凝縮しているのか!」
エストゥールが驚愕の声を上げる。
シャドウベヒーモスの口から放たれたのは、黒紫色に輝く巨大な瘴炎球だった。
それは空間を焼き裂くように、恐るべき速さでマコトへ向かってきた。
「くっ……!」
マコトはギアブレイサーの全出力を開放し、防御態勢を取る。背部ユニットのスラスターが咆哮を上げ、巨大な剣を盾代わりに構える。
「耐えろ……耐えてくれ!」
だが、その瞬間だった。
ギアブレイサーの全ユニットが突然、機能停止に陥る。
蒸気が止まり、動力が完全に途絶えた。
「……動かない!? くそ!動け!動いてくれ――!」
マコトの異変を感じ取り、魔術師たちはすぐに動いた。
エストゥールが杖を突き上げ、力強い声で詠唱を始める。
「守護の光よ、虚無の闇を退け、砕けぬ障壁を築け――
エストゥールの周囲に広がった魔法陣が輝きを放ち、マコトの前に半透明の防御結界を形成する。
部下たちも次々に結界を重ねて支援する。
「頼むぞ、保ってくれ……!」
だが瘴炎球は、いくつもの結界を突き破りながら進んでくる。その威力に誰もが息を飲んだ。
「マコト!」
アイリスが悲鳴を上げる。
瘴炎球がマコトの目の前に迫る――その瞬間、エレメンタルブレイサーが突然輝き始めた。
全ユニットが白い光を放ち、圧倒的な熱量を纏って再起動する。
「これは……!?」
マコトはエレメンタルブレイサーの内部で感じた。
ユニット内に宿る精霊たちが今までの限界を遥かに超えた力を引き出しているのを。
「……いける!」
かつて無い力をその剣に込めて、マコトは瘴炎球へ突進した。
「行くぞ……全力全開だ!」
剣が瘴炎球に突き刺さり、光と闇が激突する。
その激しい衝撃に周囲の大地が揺れ、村全体が震えた。
剣が瘴炎球を割り、そのままマコトはシャドウベヒーモスの足元に滑り込む。
ギアブレイサーの機体が瘴炎球を突き破り、輝く剣を天高く掲げる。
「……これで終わりだ!」
全身から溢れる精霊の力と蒸気の出力が一つに収束し、剣に流れ込む。
その剣は灼熱の輝きを放ち、まるで天空をも断つ光柱のように輝いていた。
「行くぞ……!
マコトの叫びと共に、エレメンタルブレイサーが目にも留まらぬ速さでシャドウベヒーモスの目前に瞬間移動する。剣を振りかざす動きは大地を揺るがし、空気を裂く轟音を伴っていた。
剣が振り下ろされた瞬間、シャドウベヒーモスの巨体を貫き、大地を割るほどの衝撃波が周囲に広がった。その衝撃は森の中まで達し、裂け目を刻むように大地を分断する。
「グ……ルァァァッ……!!」
シャドウベヒーモスの四つの瞳が揺らぎ、最後の咆哮を上げる。その声が消えた時、巨体は完全に二つに分断され、動かなくなっていた。
剣を収めたエレメンタルブレイサーは、勝利の余韻に浸る間もなく膝をつき、蒸気がゆっくりと漏れ出していく。
マコトは荒い息をつきながら、操縦席の窓越しに戦場を見渡した。
「……これで……終わった……!」
静けさが戻る中、村人たちの歓声が響き渡った。
エストゥールはその場に立ち尽くしながら、ただ一言呟いた。
「……サトウマコト、やはりお前は世界を救う希望……」
マコトはギアブレイサーを解除し、地面に降り膝をついた。そして、アイリスが駆け寄り彼を支えた。
「マコト……本当にお疲れ様……」
マコトは静かに頷きながら、夜明けの光を見上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます