第3話

「そうだ」

 絵が凄すぎて忘れていた。フェルディナントは思い出す。先だってのイアンとの話である。

「お前に少し聞きたいことがあったんだ。今大丈夫か?」

「うん。平気だよ。どうしたの?」

「イアンがな、街で仲良くなった店の主人からヴェネトの前国王の話を聞いたんだ。この前本部に来て、俺にもその話をしてくれた。興味深かったぞ」

「ヴェネトの前国王……」

「在位五十年の長期政権というのは俺もさらっと聞いたことがあったんだが、その王は一年のほとんどを海に出て、海軍のような自らの私兵団を率いてヴェネトを外敵から守って戦っていたんだって?」

「うん。そうだよ」

 ネーリは普通に答えた。やはり、ヴェネトの人間なら誰でも知ってることなのだ。

「ヴェネトに海軍はないと聞いていたけれど、強い兵士たちだったと聞いた」

「王様は強い人だったよ。背も高くて身体も大きくてムキムキでカッコいいんだ~。ヴェネツィアの人だけじゃない。王様はヴェネトの周囲を見回ってくれてたから、周辺諸島の人達も顔を知ってるんだよ。王様っていうより、みんなのお父さんって感じだった。立派だけど気さくな人で」

「ネーリも会ったことあるのか?」

 彼は微笑んだ。

「見たことあるよ。だってヴェネツィアのそのへん普通に歩いてるんだもの。街のお店で食事もよくしてたし。でも、本当に海に出てることが多かったよ。街に来ても、船の補給の為って感じ。そういう時も、城まで戻って寝泊まりしなかったって」

「やっぱりそうなのか」

「不思議だった?」

「驚いた」

「神聖ローマ帝国の王様はそういうことはしないの?」

「皇帝陛下が行幸なさるのは余程のことがないとな。皇太子は政を学ぶために一定期間外遊を行ったりはするが、陛下が戦場に行き、自ら剣を取り戦うってことはまずないよ。そうしない為に俺たち竜騎兵や他の騎士がいるんだからな」

「そっか」

「その王は自分でも戦ったんだろ?」

「戦ったよ。すごく強いって誰もが言ってた。お城の兵でも、誰も王様には敵わないって」

「そうか……」

「?」

「いや。イアンも言ってたが、あいつもそれを聞いた時初耳で驚いたみたいなんだよ。今のヴェネト王は数年前から重い病気を患っているからともかく、王妃も王太子はほとんど王宮にいて、そこで夜会ばっかり開いていると聞いた。あまりに前王と違うから。前の王も城にずっといたのかと」

「いないことの方が多かったよ。でも、お城にはいなくても、王様の船はいつもヴェネトの海にいてくれるって知ってたから。街のみんなは安心してた。

 この前の【アクア・アルタ】覚えてる?

 急激な潮の流れの変化で起こる異常高潮。

 原因は分からないけど、でも沖の方では風の変化や波の変化が、顕著に出る時があるらしいんだ。もしかしたら高潮になるかもしれないって、王様の船からヴェネトに報せが入って、波に襲われる前に対処出来たこともあるんだよ。それにそういうことがあると、一度街に来て被害の状況とか確認してくれたりしたから、街のみんなは安心出来たの」

「……その王は、確か今の王妃の実父なんだよな?」

「うん……。そう聞いてる」

 ネーリの声が少しだけ気落ちしたのが分かった。

「お前は、今の王妃や、王太子がどんな人物か知ってるか?」

 彼は首を振った。

「ほとんど知らない。特に王子様の方は、本当に外に出て来たことがないから、姿も知らないんだ。フレディは……会ったことあるんだよね?」

「まあ俺もそんなに城に頻繁に行ってるわけじゃないから。よく見知っているというわけじゃないが、会ったことはあるよ」

「そう……」

 ネーリは短く頷いた。

 彼は兄のルシュアンと会ったことがない。

 双子と聞いているから、何となく自分と似ているのだろうかと思っていたが、ラファエルはあまり似ていないと言っていたし、そういえばフェルディナントも、王子と会ったことがあるはずなのにネーリに似てるとは一度も思ったことがないようだ。とすると、双子だが、姿はそんなに似ていないのかもしれない。

 フェルディナントはネーリの方を見る。好奇心旺盛な彼なら、王子様ってどんな人かな? とか、いつもなら尋ねて来るはずなのに、その時は押し黙った。

 フェルディナントは優しい表情で彼を見た。

 俯いているネーリはそれには気付かなかったけれど。

「ネーリ。そんな顔をしなくていい。楽しい話じゃないが、俺から振ったんだ。王妃や王太子の人柄はもう分かってる。そんなことでいちいち傷ついたりしない。先代の王が、今の王家の人間の人柄とあまりに違ったんだなと思って興味を引かれただけだ。イアンも同じことを言っていた。……先代の王はとても偉大な王だった。長く王位にあったというだけじゃない。ヴェネトを外敵から守るために自ら剣を取って、民の側で戦っていたんだからな。

 今の王家は得体の知れない古代兵器で他国を攻撃する人間がいる。

 俺も王都ヴェネツィアには、不穏だけしかないと思うわけじゃない。お前のいるミラーコリ教会や【水神祭】は穏やかだったし。その反面、暴力的な警邏隊を諫めるように殺す、あの仮面の男……。

 ヴェネツィアにも穏やかな面と不穏な面がある。

 今まで理由が分からなかったが、多分、不穏は今現在起きている不安な出来事から来るもので、民を安心させるものは、亡くなった先代の王の良い遺産なんだろう。彼のことを、今の王都の人間がまだ身近に感じてる。だから本当に壊れてはまだ行ってない」

「それって、亡くなった王様が、今でもヴェネツィアの街の人々を守ったり、勇気づけたりしてるってこと?」

「俺はそう思うよ」

 フェルディナントは優しい声と表情で言ってくれた。

 あまり心の内は話せなかったが、ネーリは嬉しかった。

 なんだか、祖父と、フェルディナントが出会ってくれたような気持ちになった。

「良い王を失ったんだな、ヴェネトは……。」

 そしてあの【シビュラの塔】が火を噴いた。

「イアンが街の人間から聞いた話だと、王は譲位する前は大きな艦隊を率いていたらしいが、譲位したあとも自分は海の上にいたらしいな。城には戻らなかったと。縮小した規模の船を数隻持って、貿易船の護衛などをしていたと聞いた。お前の祖父も貿易商だったと聞いたから、もしかしたらその王を知っていたかなと思ったんだが……」

「そっか……おじいちゃんは王様のこと知っていたと思うけど、あんまり聞いたことはないんだ。僕もまだ小さくて……一緒に船に乗っていた人たちがどういう人たちだったかもあまり分からないの。ごめんね」

「そうか。いや、いいんだよ。前の王のことを祖父から聞いていないかと思っただけなんだ」

「前の王様のことが気になるの?」

「先代の王というより、彼と共に戦った兵たちのことだ」

「?」

「お前が前、話してくれただろ。【有翼旅団】の話。イアンが聞いた話だと、街の者は先代の王の率いた艦隊のことをそう呼んでたらしい。有翼旅団と聞くと、ヴェネトの民は先代の王と戦った兵たちのことを思い浮かべるのかな?」

 ネーリにはその問いには答えられなかった。

 彼は祖父の死後、祖父のことも口に出すのを止めた。

 王妃がネーリと王家が繋がっていることが明るみに出るのを嫌っているので、聞かなくなった。彼はヴェネツィアの街やヴェネトを絶えず歩き回っているが、驚くほど教会以外の街の者と接点がない。見知っている者はいるだろう。「よく街で絵を描いてる人だ」とか「教会の使いで来る人だ」とか。しかし街で食事をしたり、仲のいい人を作ろうとしないので、ネーリの詳細を知るような者は実は一人もいないのである。

 ミラーコリ教会付近の人々は、ネーリを「親が亡く、幼いころから教会で世話になって来た青年」だと思っている。そして街の他の人間や教会の人間でさえ、ネーリを見た時、よくは知らないが、あのあたりに家や親類がいる子なのだろう、と思っているのである。

 ネーリは王宮に監視されている自覚があったため、特定の個人と親交を深めることはなかった。教会に世話になっているが、ヴェネツィア聖教会は、表面上は王宮の権力と一定の距離は保っているが、実は内部に王宮と深い繋がりを持つ人間がいる。

 だから教会を通してもネーリの情報は、王宮には入ってるはずだった。

 ミラーコリ教会の神父は信頼出来る人柄であり、何より聖教会の中でも中枢への出世を目指すというより、街の教区の教会を任されることを光栄と思う人なので、側にいられた。

 彼はネーリのことを聖教会の上層部に報告するような人物ではないし、また、上層部にネーリのことを聞かれた時に、何故あの子にそんな興味を持つのだろうか? と当然のように不思議に思うような人なので、信頼出来るのである。

 画家として馴染みの店などはあるが、画家としての話しかしない。

 ネーリはヴェネツィアの街に住み着きながら、親しい人たちを作らずに生きて来た。

 名乗る名前は偽名だから、彼の過去を知る者は誰もいなかった。

「僕は……あんまり聞いたこと無いけど」

 実は、確かに、彼らは伝承になぞらえて、そう呼ばれることがあった。

 弱きを助ける者たち。

【有翼旅団】と。

 ただネーリの祖父が自分でそう名乗っていたわけではない。彼らは自分たちを、「俺たちの船」や「俺たち」としか言わなかった。大きな艦隊となっていた時は、街の人間はそんな風に呼んで親しんでいたことがあったようだ。しかし祖父が譲位し、隠居すると、艦隊は縮小され、彼らは一つの貿易商とその護衛になった。

 彼らのことを【有翼旅団】と呼ぶ人たちはもういない。

 あれは過去の残照なのだ。

「そうか……。」 

「フレディたしか、前もそのこと聞いてたよね? ……どうかしたの?」

 フェルディナントは数秒押し黙ったが、頷いた。このことは極秘の任務なので、他言無用だが、しかしネーリは【青のスクオーラ】のことを知っていた。アルセナーレを調べてくれと言ったのも彼だった。

 彼は色んな場所で絵を描いているから、探ったわけでもなく色々な情報を知っている。

 聞いてみるのは意味のあることだった。

「ネーリ。実はこれは……極秘の任務の類いになるからここだけの話にしてほしいんだが」

「うん……」

「竜騎兵団の飛行演習が許可されただろ? 海上だけという許可が下ったのには訳がある。

これは王妃の勅命で、知らされた。ヴェネト海域に【有翼旅団】を名乗る賊がいて、貿易船を襲っているらしいんだ。王宮は長く捜索を続けてきたが、今だにその実態を掴めていないらしい。俺たちの任務は……」



「――そんなこと絶対にないよ!」



 突然、ネーリの声が響いた。

「【有翼旅団】を名乗る賊がいるなんて、そんなこと絶対にない!」

 フェルディナントは目を瞬かせた。驚いたのだ。

 ネーリという青年は、フェルディナントにとって魅力と謎に満ちていて、何か簡単に口に出せない事情を抱えていることも知っていた。

 この前、本当はもっと話したいけど今はそれが出来ないと、泣きじゃくっていた姿も、初めてではないかという感じで非常に珍しい気がしたが、今の反応も初めて見るものに思えた。

 すぐネーリ自身も自覚したらしい。やってしまったというような表情を見せて、彼は押し黙る。

「……ネーリ」

 フェルディナントは立ち上がって、ネーリにゆっくりと近づいた。そっと、手を取る。

「彼らを知ってるのか?」

 ネーリはフェルディナントの顔を見て、何かを言おうとしてやめた。

「……少しだけ、知ってる人もいるよ。王様と一緒に戦った人たち……。みんな優しい、立派な人だよ。誰かを傷つけるような人たちじゃない」

「……。今もヴェネトに彼らはいるのか?」

 ネーリは首を振った。

「王様が引退したあとは、ほとんど別の国に行ったって聞いてる。今の王様が、……嫌がったんだって。前の王様と自分は違うから、前の王様に仕えた人たちには側にいて欲しくないって。王宮からみんな出されてしまったから、みんなヴェネトを去ったって聞いた……。でも、その時も抗議する人とかはいなかったって。前の王様は自分が偉大な王だったことをちゃんと自覚していた。

 次に玉座に座る人は自分と比べられて、本当に大変な想いをするだろうって、だから【有翼旅団】のみんなにも、自分が退位したあとは次の王に仕えるように言ったし、それをその王様が望まないなら、それに従うように言ったらしい。だから彼らはみんなヴェネトからは去ったんだ。彼らがヴェネトに残ると……街の人たちはいつまで経っても彼らや前の王様を忘れないから」

「……それは悪いことなのか?」

「フレディの考えてること、分かるよ。僕だっておかしいと思う。前の王様はヴェネトを外敵から守ってくれた。ヴェネトとそこに住まう人たちを愛してくれた大切な人だ。なんでそれを、忘れなくちゃいけないのか、僕だって分からない」

「王妃は実の父と仲が悪かったのかな」

 わからない……。ネーリは首を振る。フェルディナントは感じとった。

 この空気。

 ネーリがいつも、何か話したいけど話せないと、複雑な表情をする時の空気と一緒だ。

 今は【有翼旅団】の話をしていた。

 ネーリは何か【有翼旅団】に関わっているのだろうか?

それは、彼らの情報を知っているというような関わり方も含めて、だ。

「じゃあ……【有翼旅団】と口にしても、前の王と共に戦った者たちのことを指すとは必ずしも限らない?」

「そうだと思う……。でも【有翼旅団】はヴェネトでは本当に、優しい御伽噺なんだ。

 よく言うでしょ。こんな人たちがいてくれたら……っていう。

 ……都合のいい、願いを託された者たち。

 海の上で、たった一人で浮かんでいるヴェネトにとっては、必要な御伽噺だったんだ。

 彼らは人助けをしてくれる人たちだよ。

 その名前を名乗って、略奪行為をするなんて、有り得ないし間違ってる。

 妙なことなんだ。……王妃様がそう言ったの?」

「側近とな。そういう報告があると俺は聞いた。彼らの手口は残虐で、荷を奪ったら船ごと沈めるのだという。だから生き残りがいないから、今まで長い間、奴らは捕まらないままになっていると」

「……フレディたちに見つけてって?」

「有力貴族の助けを借りて、王宮も奴らの行方を追って来たらしいが、奴らは拠点を持たず海上で暮らしているらしい。だから捕まらないのだと」

「見つかったの?」

「いや。姿形もない。捜索範囲は広げているが。

【シビュラの塔】近海は更に南の海域は小島が多い。

 もしかしたらそこあたりに拠点があるのかもしれないが、【シビュラの塔】に近づくと王妃が嫌がるだろうから、避けている場所がある。一度、俺だけの単独飛行で近海を調べてみたいと提案してみるつもりだが……まあ無理だろうな」

「でも、海の上で暮らすならヴェネト近海じゃなくても……交易路なら他にもある。今、フレディたちもいるし、スペイン艦隊とフランス艦隊だって来てるし……」

「そうなんだよな。俺が思うに、これだけ探していないということは、両艦隊の動きを察知して、一時的にこの海域から離れたんじゃないかと。一度王宮に、一番最近の襲撃の詳細がいつなのかは聞こうと思っているが」

「……。」

「ネーリ。心配するな。王宮の連中の言うこと全てを鵜呑みにしたりはしない。仮に見つけても、突然空から襲い掛かったりしないから」

 慰められていることに気付いて、ネーリは首を振った。

「ごめんね。【有翼旅団】の人のことは、あんまり詳しくないけど……。僕のおじいちゃんは、その人たちのことが好きだったんだ。仲がいい人もいたんだよ」

「イアンに話をしてくれた、街の者も同じことを言っていたらしいよ。先代の王も、付き従う兵士たちも、気さくで勇敢で、とてもいい人たちだったって」

「……おじいちゃんに、一つだけ聞いたことある。先代の王様は、ヴェネトをずっと守ってくれてたけど、守るのは、ヴェネトの者である必要はないって考えを持った人だったんだ。他国の人でも、自分の仲間になってくれる人は、誰でも寛容に軍に迎え入れたって聞いてる。

 だから先代の王様と戦った人達は、すごく多国籍だったんだ。

 王宮の人達が彼らを嫌ったのは、それが理由じゃないかとも言われてる。

 秘密を抱えた国だから、他国の人を信用しない……。

 でも、ヴェネトは本来、そういう国じゃなかったと思うんだ。

 他を排撃してまで守らなければならない秘密なんて、ついこの前までは存在しなかった」


「ネーリ。……お前は【シビュラの塔】をどう思ってる?」


 思い切ってフェルディナントは聞いてみた。



「……なくなってほしい」



 ネーリがスペイン艦隊の絵を振り返って、俯いた。

 ずっと、気の遠くなるような過去から。

 古代から、この地の海を見守って来てくれたものかもしれない。

 でも。

「壊れてなくなって欲しい。あんなものの為にもう誰かが傷つくのは嫌なんだ」

 それは、フェルディナントの想いと完全に一致した。

 フェルディナントは後ろから、ネーリを深く抱き寄せた。

 あの存在を他国に対して、誇る者もいるだろう。

 強い守りだと思う者も。

 だがヴェネトを愛するネーリは、壊れて欲しいと願った。


 願ってくれた。


 後ろを向いて、少しだけ、零れた涙を手の平で拭っていたネーリの手を止めるように取って、フェルディナントは代わりに、濡れた彼の頬に唇を寄せた。

(壊したい)

 ネーリが自分と同じようにそう願ってくれるなら、いつか、あの塔を破壊したいと彼は思った。

 ヴェネトの中の、何かがネーリの心を捕えて、不自由にさせている。それが何かは分からなかったが、何故かフェルディナントは【シビュラの塔】を破壊したら、ネーリをその、得体の知れない何かから解放してやることが出来るような気がした。


 ――もう誰も、罪のない人があの存在で殺されなくて済む。


 ネーリがそう願ってくれるなら、自分がその願いをいつか叶えてやりたいとフェルディナントは思った。そしてそれは、間違いなく彼自身の願いでもある。


(どんな世界なんだろうな)


 フェルディナントはその時、自分ほどあの塔の存在を憎んでいる人間はいないだろうに、破壊の二文字を考えたことが今までに実感としてなかったことに気付いた。

 不思議なくらいだ。

 過去フランスと戦争になった時、竜騎兵団を率いて敵の城塞を空からの突撃で砕いたこともある。それなのに、【シビュラの塔】を破壊してやろうと、考えたことがなかった。

 王宮を制圧し、起動を止めることが出来るだろうかくらいは考えたことはあるが、何故か壊してやろうと思ったことがなかった。受け入れていたのだ。

 あんな巨大な古代兵器を破壊できるわけがないと、自分は最初から諦めていた。

 そのことにフェルディナントは今、初めて気づいた。

 気付かせてくれた。

 ネーリの一言が。

(あいつがいなくなれば、あの塔の周囲にまとわりつく霧も晴れるのだろうか?)

 空が晴れ、光が射し込む。

 ネーリの魂は大らかで明るくいつも穏やかなのに、時々憂い、謎めき、涙を少し流す。

 あれが無くなれば、彼の悲し気な表情も少しは無くしてやることが出来るのだろうか?

 誰もが未来を脅かされず、世界を自由に行き来し、会いたい人に会えるようになる。


(どんな世界なのかな)


 フェルディナントはネーリの身体を抱きしめながら、想いを馳せた。






【終】


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海に沈むジグラート31 七海ポルカ @reeeeeen13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説