Inspiration key〜非科学的捜査室〜

@tamaki_0531

第1話

「おはようございまーす!あれ、誰も来てないのかな。」

少し大きめなプレハブ小屋に一人の若い女の声が響く。プレハブ小屋といっても一応管理者は警視庁であり、ここは刑事たちが勤務する一つの部署である。部屋中を見渡すが、話し声は疎か人の気配すら感じられない。少しだけ開けられていた窓からは暖かい風が吹き抜け、外からは鳥のさえずりが聞こえる。

「警視庁にもこんな部署があったんだなぁ〜ックション!」

外は花粉もよく飛んでいるらしい。

「ったく、誰よ。朝からうるさいわね。」

「わっ!」

突然真っ黒なカーテンが開き、中から長身の女が現れた。

「新人の子?」

「はい!自分、捜査専課から来ました。都築直桜といいm」

「それならここじゃないわ。上がうちに新人なんて寄こすはずがないもの。」

「え?でもここ非科学的捜査室の部屋ですよね?」

「...ええそうよ。本当にここに来るように言われたの?」

「へぇ〜。んじゃあ、きっと何か問題を起こしたのね。」

「うっ…。」

「図星ね。」

何なんだこの人は。ついさっき初めてあったばかりだというのに、人を小馬鹿にしてくる。得意そうに口角なんかあげちゃって。都築は目の前のミステリアスな女に少し苛立っていた。

 「おはよう芹沢。」

「あら、佐々木さん。おはよう。」

今度は少し小柄な男性が入ってきた。いや、目の前の女が長身なだけで別に小さくもないかもしれない。

「珍しいな。今日は出てきたんだ。」

「ええ。だってその子うるさいんだもの、朝から。うちの部署にカーテンの向こうまで聞こえるような大声出す人いないじゃない。」

「まあな。で、あんた新人か?」

「あ、はい!」

「...そうか。」

なんでそんなに不安そうなリアクションをするのだろう。この佐々木の一言で都築は職場に馴染めるか一気に不安になった。

「ねえ佐々木さん。もう私戻っていいかしら?」

「ああ。新人君も部長が来るまでそこで待ってろ。」

「はい。」

変な部署だ...。ここに来て都築が素直に抱いた感情だった。きっと自分は馴染めないだろう。まだ今日出勤してから10分ほどしか経っていないが、捜査専課という事件を最前線で追う部署に所属していた彼女にとって、こんなに覇気のない職場は初めてだったのでとても窮屈に感じていた。

 そもそも彼女がここの部署に移動になったのには理由がある。彼女は4年前から捜査専課という殺人事件や誘拐事件などの大きな事件の捜査を専門に行う部署に所属していた。そこで彼女は、仕事ができるからという理由で30歳という若さで主任を担当していた。実際には人手不足というのが本当の理由なのだが…。彼女が主任に昇格して半年ほど経ち、自分が主任に抜擢された本当の理由に気づき始めた頃に事件は起きた。ある一つの誘拐事件が起きたのだ。誘拐事件の報告が上がるのは捜査専課にとっては決して珍しいことではないが、今回の被害者は捜査一課長の娘であった。そしてその後…と行きたいところだが、部長が来てしまったので続きはまた別の機会に。

 「本田部長!おはようございます!自分、捜査専課から来ました、都築直桜と申します!よろしくお願いします!」

プレハブの部署の部長が本田実だということは、警視庁内では有名なので都築も彼のことは知っていた。

「ああ、君が新人君か。元気だねぇ。君ももう知っているようだが、私は本田実といってこの部屋の部長をしている、といっても肩書きだけなんだけどね。」

都築は彼と話して少しだけ安心した。この部署にもちゃんと明るい人がいるんだと思ったからだ。

「ところでみんなと挨拶はしたかい?」

「はい。でも、お名前とか役職は聞いてないですね。」

「そんなことだと思った。きっとこの部屋のことも聞いてないだろうから、教えてやろう。まず、ここの部署は非科学的操作室といってね。事件が起きたときに科捜研の手が足りない分の証拠物品が回ってくる。」

「へぇ。でも非科学的捜査室ですよね?科学的な根拠がないのに証拠として扱えるんですか?」

「いや、最終的には科捜研に回す。だけど、うちの刑事たちが大体の目星はつけるからその分、科捜研の奴らは仕事が楽になる。上手いように利用されてる部署ってことだな。それから、たまに捜査に出たりもする。」

「捜査?へぇ楽しみ。」

「いや、捜査と言っても君の思っているような捜査じゃない。うちは部署全体で捜査することはほとんどない。みんなそれぞれ得意分野があるからそれが必要なときだけ捜査に向かう。半年に一回くらい。」

「少なっ!得意分野ってなんですか?」

「例えば…あそこに座っている彼。彼は佐々木誠といってね。うちの室長を務めてる。彼は現場検証から真実を見抜くのが得意でね。特に殺人とかかなぁ。調子がいいときは、現場を一目見ただけで犯人特定!とまではいかないけど有力な情報を掴める。犯人と被害者が知り合いだったとかね。あとは科学的な知識も豊富だから科捜研から回ってきた仕事は彼を中心に行う。」

「へぇ~、すごい。」

さっき話したあの冷たい人にそんな才能があったなんて考えもしなかった。

「それからあのカーテンの奥にいる彼女は主任の芹沢織華という。あ~、あのカーテンの奥は彼女のテリトリーだから勝手に入ると怒られる。」

「ふ〜ん。」

「彼女は心理学の知識が豊富でね。被疑者の動機の考察とかが得意だね。あとは、たまにすごい空想をしてそれが事件解決につながったりする。」

「えっ!」

「彼女曰くクラッシック音楽を聞くと急にひらめいたりするんだってさ。私みたいな才能に恵まれない人間には到底理解できない。」

本田はそういうと満足そうに笑った。

「へぇ〜、皆さん色んな能力持ってるんですね。あ、自分はそんなひらめきとか推理力みたいなの持ってないけど大丈夫ですかね?」

「ああ。私も何もないからね。直桜ちゃんは私と一緒だ。」

そんなに有能な人間が揃っているのになぜあまり知られていないのだろう、という疑問を持つ都築を横目にまた本田は微笑んだ。

 「ああ、もうこんな時間だ。みんな時間だよ。」

そう本田が言うと時計は8時半を指していた。

「じゃ、直桜ちゃん。行こうか。」

「え?行くってどこに?」

「決まってるじゃないか。捜査だよ。」

「え!早速捜査できるんですか!」

「当たり前じゃないか、発生は昨日だ。ほら、早く。」

「はい!」

こうして都築直桜の非科学的捜査室での日常がスタートしたのであった。






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