勇者「つま先」の冒険

めいき~

勇者つま先、必死につま先立ちで背伸びする

俺は、勇者つま先。俺は勇者だ。魔王を倒すべく仲間達と旅をしている……のだが。俺は勇者パーティで……。




「仲間のパシリをしている」←





まず、俺のパーティに居る僧侶。名を一休宗次(いきゅうそうじ)という。

そう、そこで全身から湯気を出しながら一撃正拳で暴れゴリラのアバラを複雑粉砕骨折させたあいつだ。「おい、勇者! 回復が足りねぇぞ!!」「はいっ! ただ今!!」俺は即座に一休の側に行くと直ぐに回復魔法をかける。


「いつも助かるぜ!」爽やかな笑みを浮かべる筋肉達磨。身長は二百センチを超えている巨漢で、腕だって三十センチ以上ある極太。服が常にパツパツになる程、鍛え抜かれた肉体。はっきりいって、あいつの動きが見えた事はない。



次に、黒雷のシュウ。こいつは本来情報を集めてくるレンジャーが主な職業な筈だ。「おい、勇者! 喉が渇いたぞ!!」「はいっ! ただ今!!」すぐに氷魔法でキンキンに冷やした木のコップを差し出す俺。


「勇者はいつも気がきく……」爽やかな笑顔でそれを受け取り飲み干す。


その後ろで、黒雷をあやとりみてぇに操って蜘蛛の巣に捕らえられた子羊みたいになってるのがトロルやエビルマージやスカイドラゴンでなければその爽やかな礼も素直に受け取る事が出来たのだろう。ちなみに、俺は素早く背後に回って肩や腰を入念に揉んでいる。



最期に、遊び人のトルティーヤ。俺は遊び人だし、可愛いバニーガールだと思って仲間に加えたんだ。所がどっこい「ねぇ~、勇者ぁ~夕ご飯まだ~」、俺は必死に枯れ枝をかき集め今日の夕食である焼魚や木の実で作ったパフェを用意、パンを温め必死に手を動かしていた。


「ほら、追加もってきてあげたわよ♪」そういって差し出されたのがテンタクルス六匹セットでなければ少しは感謝もできた。俺は必死でそれを捌くと、冷水でシメ刺身として全員の前に美しく盛り付けたモノを出した。



仲間達は、満足そうにそれを頬張っている。笑顔があふれ、大魔王を倒そうと考えている割には和気あいあいとした旅路。魔法を使えるのは俺だけだが、ダメージソースになった事は一度もない。カンダタ子分の鎧ごと一休の野郎が握力だけで飴細工みてぇにしやがるし、ヤマタノオロチはシュウの奴が首を焦がして再生不能にしやがるし、人間の王様に化けてたボストロールに至ってはトルティーヤさんがもうちょっとうまく化けろよ不細工がとかいいながら拳で整形始めちまうし。



仲間達は皆、勇者のおかげで素晴らしい旅だと絶賛してくれる。

俺は気がつけば、レベルと料理洗濯魔法などだけがどんどんと洗練されていく。



遊び人だというから、自分より役に立たないと思っていたのに。

最初は武道家で、レベルが上がらなくなったのでレンジャーといった具合に転職を繰り返し。賢者の手前で遊び人に転職した所、我々のパーティに加入したらしい。


この際だ、ハッキリ言おう。

「このパーティで勇者らしい事を何一つできていない」


勇者らしい事どころか、仲間らしい事すらできているか怪しい。



「勇者!」「はい!」「勇者殿!」「はいぃぃぃぃぃぃぃ!」「ゆうしゃぁ~、薬草まだすり終わらないの?」「今頑張っておりますぅぅぅぅぅぅ!」


汗だくになりながら、石臼を回す俺。良い感じに擦り終わって、瓶に詰めようとしたそばから仲間達は遠慮なく使っていく。


「流石勇者だ! 良く粘ってぬりやすいぜ!!」「勇者、洗濯物ここに置くぞ!」


どさりと音がし、山となったそれを必死に川で洗う。


「ねぇ、勇者ぁ~~」ちらりとそちら側をみればライオンヘッドの歯を、まるで花占いでもして花びらをちぎる様な感覚でヘッドロックしつつ微笑みながら、一本一本歯を引き抜いている遊び人の姿が……。




俺は勇者つま先、一生懸命つま先立ちで背伸びをして勇者をしている。

俺の悩みは、仲間が強すぎる事。


そして……、一休の性格をステータスで見た時「セクシーギャル」と表示された事だ。




<おしまい>

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