架空の城

藍無

第1話 架空の城

架空の城_それは、世界と世界の狭間に位置している特別な空間に作られた城。

ある世界では、想像上の城として知られ、ある世界では青い空のかなたにあるとされている城として知られている。

その城には、特別な条件にあてはまるものしか行けないのだが、だれもその条件を知らないため、意図してその城に行けた者は誰一人としていない。

今日も、その静寂に包まれた架空の城にやってきた者がいた。

「あれ_?ここは?」

混乱した様子でその少年はきょろきょろと周りを見回す。

「ようこそ、架空の城へー!私の名前はうさぎ。この城の管理人だよー!」

「え?」

一体どういうことだ?という顔をしてその少年はこちらを見ている。

それも無理はないか。

なにしろみんなここに来たものはそう驚いた顔をするのだ。

「この城はー」

私はそう言って、この城に関する説明を一通りした。

「――あ、そうなんですね。」

その少年は、大広間にある窓から外を見たりしてから、認めたくないけど認めざるを得ない現実を突きつけられているような顔でそう言った。

まあそりゃそうか。

急にここは架空の城でーす、なんていわれても信じたくないだろうし。

「で、君がここに来たということは、君、悩みがあるね?」

「悩み、ですか?」

「ふふっ。とりあえずお茶飲むかい?」

私はそう言って、どこからともなく紅茶のポットやティーカップを取り出し、大広間にある机といすに置いた。

「お茶、せっかくなのでいただきます。」

そう言ってその少年は紅茶をじっくりと眺めてから飲んだ。

どうせ、毒が入っていないかーとか考えていたんだろうな。

入っていないのにみんなそんな感じで見るんだよね。

全く、失礼しちゃうよ。

私の可愛いうさぎ顔がそんなことをする顔に見えるのか?

まあいいか。

美味しそうにお茶を飲んでるし。

「それで少年、君はどうして死にたいんだい?」

少年は、ごほっ、とせき込んだ。

どうやら、私の質問に驚いたらしい。

「なぜ_そんな質問をするんです?」

「え?だってここに君が来たってことは死にたいからでしょ?」

その条件にあてはまらないとこの城に来れないわけだし。

「___、どこまで知っているんですか?」

「君がどうしてこの世界に絶望したのかから、ひどい家庭環境まで。」

「つまり全部知っているのに僕に聞くんですね?」

「自分の言葉で教えてほしいからね。」

「――そうですか。」

少年の瞳は、黒くなった。

元々黒いのだが、もっと、闇が深くなったように見えた。

私の大好きな色だ。

「正直、言わないって言ったらどうしますか?」

「それなら、無理やり言わせるしかないよね。」

だって私の目当てはその___なんだし。

「じゃあ言いません。そうすれば僕のことを殺してくれるでしょう?」

「え?殺さないよ、絶対。まずは、火あぶりにして、皮膚の皮を薄くむいて、1年間なにも与えずに死なない程度に飢えさせて目の前で美味しいラーメン食べるけどね。」

私はそう言って、ロープをとりだした。

すると、少年はおびえた様子で、

「すみませんでした。言いますのでご容赦ください。」

と、言った。

「よろしい。」

本当なら強制して言わせるものではないのかもしれないが、私は__なので仕方がないだろう。

「じゃあ話しますよ――」

少年は話し出した。

いかに自分に味方がいなくて、逃げ場所がないのか。

親からつけられる傷の深さを。

学校にも友達はいなく、いじめられていること。

語っているうちに『傷』がカパリと裂けて大きくなっていく。

良い感じだ。

語り終わると、傷は、かなり大きくなっていた。

そして少年は、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

「ありがとう。」

そう言って、私は少年に花を渡した。

「これ、何ですか?」

少年は、不思議そうな顔でそう聞いた。

「代償。」

「何のですか?」

「君は知らなくていいことだよ。」

そう言って、私は少年の額をはじいた。

少年は次の瞬間消えた。

少年は、気が付いたら家の隅に戻ってきていた。

両親がまた暴力をふるおうと手を振り上げる。

もう、僕は違う。

何を今まで怯えていたのだろう。

怯える必要なんかない。

死ぬ必要もない。

僕は決めたんだ。

苦しくても、悲しくても、生きていく。

だって僕たちは人間で、それ以上に楽しいことがこれから先に待っていると信じなきゃいけないから。

警察を呼ぼう。

今までの日常が壊れたとしても、それでもいい。

だって今までの日常に価値なんてなかったのだから。

誰かが助けてくれるのを期待してはだめだ。

僕が僕の力で、この日常を変えるんだ。

僕は、振り下ろされる親の手をがっしりとつかんだ。

そして、片手でスマホを操作し、警察を呼ぶ。

僕の人生という物語は今、始まったんだ。

その少年を、そばに落ちていたアキレアの花が見つめていた。

「いただいていくよ、君の臆病な心。」

私は誰もいなくなった空間にそう言って、ぱくり、と紫色の球体を食べた。

「うん、美味しい。」

そう言って、私は思わず微笑んでしまった。

傷が深ければ深いほど、は美味しくなるんだよね。

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