世、妖(あやかし)おらず ー忘風神社ー

銀満ノ錦平

忘風神社


明けましておめでとうございます!


大晦日に入り、家族が揃って挨拶をした。


初日の出を見に態々、朝起きて寝ぼけなまこの眼を擦りながら少し高揚している家族を見ながら私だけは少し冷静になりながら同じ挨拶をした。


皆は、もう初詣に行く準備をしている。


私はあまり人混みの多い所は苦手だといつも言ってるのでいつもは家で留守番をしているが今回は、受験年なので流石に来てくれと必死に説得され仕方なく行くことにした。


家族はこういう1年の催事、行事、祭典をとても大切にしている。


弟も妹も、嫌々ながらいつも出かけた時の外食を楽しみに行っている。


私は、そういうのはあまり好きではない。


人混みが嫌いなのもあるしいつも催事がある毎にいつも以上にテンションが上がっている親も好きではない。


ただもっと気に掛かってるのは、この世に置いて当たり前に起きている自然現象、陽が昇り陽が沈み夜になる。


そしてそこに時間という人が考えた概念を合わせて、特別感を出してるだけなのが気に入らない。


あと神社というものも気に入らない。


別に信仰を馬鹿にしてるわけでもないし、私も人並みに信仰心はあると思う。


神社に行けば、鳥居に一礼し水が湧いてる場所で手を洗い、でかい建物で賽銭箱に銭を入れ、お祈りをするしおみくじもする。


寺では墓にも手を合わせ、亡くなった爺ちゃんと婆ちゃんを悼んでるし寺の坊主の話を家族と聞く。


テストの時も神に祈るし、仏の像を見かけたら手を合わせるし、地蔵を見たら一礼しするし…。


なんか色々とバラバラではあるが人並みの信仰心を説明するとした私の語彙力と信仰の知識を合わせるならこういう説明しかできない。


だから信仰心を否定はしていない。


してはいないがこれらは、なんというか親や周りがやっていたことを真似したら覚えてたという程度のものであり、自分から信仰に目覚めやり始めたというものはなかった。


そもそも1月1日に年が始まるというのも人という他の生物より頭の知能が高い生き物が勝手に作り出した設定なのだし本来地球からしたらそんなの関係ない。


ただ陽が登り沈み、また登るを繰り返すだけなのだ。


そこに季節という暖かい時期と寒い時期が発生して、台風が来たり大雨降ったり大雪降ったりなどが起きるというだけである。


そこに特別感など何も無い。


ただ地球が回っているということを表してるだけである。


しかし人はその地球に人のみが理解できる記号を作り出しその記号に生きていた他の生物を入れ込み管理してしまったのだ。


これは私としては複雑な気持ちだった。


これで生物に時間という概念が出来てしまい、寿命という時間の経過を与えてしまったんだと思う。


まぁ、この辺りは私の考えすぎだからいいとしてもどうしても現実的に考えてしまうせいで周りからも頭が固いのではとかバカにされる。


そこも複雑であった。


…となんだかんだ考え込んでる間にもう家族は初詣に出かける準備を終えていた。


本来は普段着で行くのだが今回は、着物で行かせようと必死だったので仕方なく着物を着ることにした。


何故か私だけ。


今回は、貴方の願掛けもあるんだから貴方は張り切らないと!という家族の身勝手なお願いである。


で、支度も終えてようやく向かうこと。


時間は掛かったが朝早く起きたこともあり、神社についたのは9時頃だった。


私は、目の前の鳥居に一礼して神社の中に入った。


いつも思う。


神社という名前はとても神聖に感じる。


ただ、あくまでこの建物群はあくまでただ木材などで作られた物であり、それを我々が拝んで崇めて、信仰しているだけである。


私も含めた若人等は、イベントとして来ているだけであるかもしれないがそれでもちゃんと一礼もするし湧き水で手も洗うし、あの大きい建物で拝む。


これも信仰の一つと思っている。人柄が悪そうな人々もそこはちゃんとしている。


見様見真似でもちゃんとしている以上、それは信仰しているといってもいいと思っている。


だから私も同じ様に慮る。


ただ、私の悪い癖でどうしてもこれをただの建物だと思ってしまう。


その瞬間冷めてしまうのだ。


ただ飾り付けられた建物を拝んでるだけ…この地球からしてみれば意味がわからない行動と捉えても仕方ないとしか言えない。


なんとも意味が深そうな鳥居というものを付け、そして隣には狐やら狛犬やらを飾り置き、そして奥にでかでかと飾り付けられた大きい建物を配置してそこに信仰を加える…。


この信仰というのは、生き物が本来頭では考えることのない感情である。


我々以外はそんなことはしない。


人のいない神社には、床には蟻が配列し、窓には羽蟲が集まり、天井には蜘蛛やコウモリが生活し、外見は鳥の糞等で汚れている。


我々以外にはただの住処なのである。


人間だけである。


神社以外にも信仰対象はなんでもありだからこそ人は人以外も慮る気持ちができるのであろう。


そうだとしてもやはり私は何かそんな気持ちはなくても良いのではと思ってしまい、神社の中でもいつもの様に冷静になってしまっていた。


親はおみくじを引いてたり、熊手買うのに並んでたりといつもの様に楽しんでいた。


弟も妹もたまたま遭遇した知り合いと話し込んでいた。


私は、退屈していたのでふと神社の裏の方を見てみることにした。


裏の方は人はあまり来ない位に静寂な雰囲気が立っており朝にも関わらず少し不気味さが漂っていた。


私は歩いていると少し草が茂っていて見えにくかったが道のような所を発見した。


誰も通った気配もないがその小道の両脇に小さく古い狛犬の像が立っていた。


私は少し気になり、着物ではあったが気にせず小道を通ることにした。


進む毎に何か神妙な空気が伝わってきており、違和感はあったものの、誰もいない道を歩くことに心が少し踊ってしまいそのまま歩き続けることにした。


少し霧のようなものが掛かり始めたがそれでも前に歩き続けていると霧が薄くなり奥が見え始めた。


そこには、立派とは言い難く、色が錆び始め、支える柱の片方が沈んでいる鳥居が立っていた。


あの神社にこんなところがあったかと疑問に思ったがそれより好奇心が勝り、その鳥居を抜け、奥に入ることにした。


横に置かれている狛犬も首が取れていたり腕が無くなってたりともうそれはぼろぼろとしか言えなかった。


何故か狛犬にも一礼し奥に向かうと奥の大きい建物が目に入った。


なんとも言えないほど劣化していて、屋根の瓦も剥げているし入口の障子は穴が空きまくり、賽銭箱も生き物に齧られた跡が沢山あり、おまけにお金を入れても外に出てくる程の穴も空いていた。


雰囲気も今日私が来ていた神社とはかけ離れている。


何か言葉では表せないが足りない…何か温かみが足りないとその時は感じていた。


嫌な予感もしてきて私は、ここから離れることにした。


この神社だったものの周りは、先の見えない霧のようなものに包まれていたのでまた鳥居の方に向かうしかなかった。


着物なため走ることも出来ず早歩きでしか移動することが出来なかった。


そして鳥居に近づき鳥居をふと見る。


鳥居の上に何かいる。


何か大きな物体に爛れた髪が大量に生えている様に見え、その間から目のようなものがこちらを覗いていた。


それは動かずただじっとしている。


私が来た時はいなかった。


私は、動こうとしたが恐怖に駆られたのか足が動かない。


多分少しの間ずっと目が合っていたと思う。


するとその物体は、髪に隠れていた大きな口を開け


「信仰亡き神の社、風化し我が住む。」


その言葉と共に私の目の前は突然、真っ白になり恐怖で目を閉じてしまった。






再び目を開けるとそこは私が先程いた神社の裏で後ろを振り返るとあの小道が森林で塞がっていて私が通れそうな小道ではなくなっていた。


何を体験したのかは分からない。


戸惑いながらも家族と合流した。


着物も別に汚れていなかったし何なら、あれからたった数分しか経っていたなかったらしい。


そして私はここの神社を見て気付いた。


人の温かみがあるんだ。


それもこの神社を活かしてる一つなんだと。


その温かみも信仰と呼べるのかもしれない。


その温かみさえ消えた神社を私は見てしまったのかもしれない。


あの崩れた鳥居の上にいた存在…。


いや、存在しないものの存在だったのだろうか。


あの異質なモノ…。


あの廃神社には…温かみがなくなってしまったあの建物には…何が住んでいたのだろうか…。


私は少し、頭が柔らかくなった気がした。



























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