山の声

@kizetakayuki

山の声

雪がしんしんと降り積もる静かな田舎町。都会の喧騒を離れ、彩花はおばあちゃんの家に帰省していた。


「彩花、あの山には不思議な力があるんだよ」


こたつで温まりながら、おばあちゃんは彩花に語りかけた。


昔、おばあちゃんがまだ幼かった頃、雪の降る夜に山で道に迷ったことがあった。寒さと恐怖で泣きそうになった時、どこからともなく「こっちだよ…」という声が聞こえ、小さな祠に導かれたのだという。


「まるで山が私を助けてくれたみたいだった」


おばあちゃんは懐かしそうに微笑んだ。


彩花は、おばあちゃんの話を半信半疑で聞いていた。都会育ちの彩花には、山の不思議な力なんて信じられなかったのだ。


次の日、彩花は好奇心に駆られ、一人で山へ行くことにした。


雪道を登っていくと、おばあちゃんが話していた祠を見つけた。


「ここがあの祠なんだ…」


彩花が祠に近づくと、雪の中から小さなタヌキが現れた。


「おかえり」


タヌキは、人間のように話しかけてきた。


驚いた彩花は、思わず後ずさりをした。


「おばあちゃん?」


タヌキは、彩花をおばあちゃんと間違えているようだった。


「違うよ、私は彩花。おばあちゃんの孫だよ」


彩花がそう言うと、タヌキは驚いた様子で目を丸くした。


「わ、わしはゴン。昔、おばあちゃんに助けてもらったんだ」


ゴンは、おばあちゃんが若い頃、山で怪我をした自分を助けてくれたことを話した。


ゴンは、彩花を自分の村に案内してくれた。


そこは、たくさんのタヌキたちが暮らす、小さな村だった。


村の奥には、怪我をして動けないタヌキがいた。


「フクが怪我をしてしまって…助けてほしいんだ」


ゴンは、彩花に懇願した。


彩花は、おばあちゃんがゴンを助けたように、フクを助けたいと思った。


彩花はフクを抱きかかえ、ゴンと一緒に山を下り、おばあちゃんの家に戻った。


おばあちゃんは、彩花の話に驚きながらも、すぐに薬草と包帯でフクの治療をしてくれた。


彩花は、フクの看病をしながら、おばあちゃんから山の植物や動物について教わった。


そして、自然の力強さ、そして命の尊さを知った。


数日後、フクの怪我はすっかり治った。


ゴンとフクは、山へ帰る時が来た。


彩花とおばあちゃんは、おイモやミカンを風呂敷に包んで、ゴンとフクの背中に載せてあげた。


「ありがとう、彩花。また会おうね」


ゴンとフクは、何度も振り返りながら、山へ帰っていった。


彩花はタヌキたちとの出会いから、自然を敬い、命を大切にする心を育んだ。


そして、おばあちゃんの言う「山の不思議な力」を、心から理解したのだった。


これからもきっと、この山では、親切なタヌキたちが、迷える人を助け、自然と人間の温かい交流が紡がれていくことだろう。


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