冬眠

親善グミ

生まれ変わったら、どうするか。

嫌に目を引くそいつは、私の心を酷く揺さぶった。

目の先にいるそいつは、冬眠もせずに動いている。

地球温暖化の影響を感じさせない極寒の中、なぜいるのか。


大多数の人間はクモが嫌いだろう。私も、例に漏れずクモが嫌いだ。

その、みんなの“嫌い”を具現化させたような生き物が今、私の部屋に入室している。

大きさは約1cm。クモじゃなかったら平然と殺せたが、いかんせん相手はクモだ。

そう簡単に殺せない。


とりあえず睨みを聞かせ、無意味に訴える。

「動くなよ。マジで、ガチだからね。殺すよ?いいの?」

人語を介さないのか、殺されてもいいのか、それでもヤツは動き続ける。


クモを見ながら、横目でティッシュを2枚、手に取る。

「やるしかないよね。これ。」

家族を呼ぼうにも外出中で家にいない。

そう、私がこの手でやるしかないのだ。


もう一度言うが、私はクモが嫌いだ。

物を挟んだとしても、触りたい生き物ではない。

しかし、このまま放置して他の場所へ動かれる方が精神的ダメージは大きい。


覚悟を決め、ティッシュをもう一枚手にし、ヤツの元へ向かう。

一歩、また一歩と、たいして大きくない部屋でじりじりと進む。

「…………………」

見つめあい、腹を据える。

息を吸い、手を動かす。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

クモが消えたのを視認し、ティッシュの中にクモがいることを脳みそが理解する。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


人間、本当に嫌になると情けない声は出る。

漫画でしか聞かないような、叫び声を上げ、ティッシュをゴミ箱に捨てる。


一段落ついた。クモに勝った。歴史的快挙と言えるだろう。


「ごめんね。」

生命を奪ったことは変わりない。ゴミ箱の中のクモに謝罪をする。

心からの詫びだ。

クモからしたら、叫ばれて怒鳴られて挙句の果てには殺されたのだ。申し訳ない。


私は、ゴミ箱を一分間凝視し、音沙汰がないのを確認しながら洗面台へと向かった。

その顔には少しの笑みが浮かんでいた。


人間に殺されたクモが、もし私達の”この顔”を見ていたら、

クモは人間を”嫌い”になるだろう。

相思相愛ならぬ、相思相嫌と言える。

漫画でよく耳にする、「憎しみの連鎖」に似ているものを感じた。

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冬眠 親善グミ @fresh-organi56

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