5. リアルで会いたいって?待ち合わせするしかないでしょ!
「ドキドキする!」
大学の最寄り駅の駅前広場。
待ち合わせ場所として使われている雲丹の銅像の前で
ゴールデンウイーク明けでまだ多少肌寒く、春物の安物コートを羽織った
「あの……南城
ふと、
高校生らしくブレザーの制服を着ていて、
「違うよ?」
「え……あ、ごめんなさい!」
間違っていないのに敢えて人違いだと宣言する
それは声をかけてきたのが待ち人と違う人だったから警戒した、というわけではない。
「美少女JDの南城
「え!?」
美少女JDという冠詞をつけなかっただけで否定されたとは思わず唖然とする謎の少女。だがすぐに彼女は何かを納得したかのような表情になり自己紹介をした。
「はじめまして、私はメイガスの中の人、
「はじめまして!よろしくね!」
彼女こそが、
「それじゃあ早速行こっか。双葉ちゃん」
「ふたばちゃ……い、いえ。そうですね、南城さん」
「
「いえ流石にそれは……」
「
「は、はい、
だがそれも束の間のこと。
二人の目的地はすぐ近くにあるネットカフェ。
二人はそこでペアルームを借りて、
FMOはどういう仕組みなのか、自宅やネカフェなど、
「それじゃあさっそくログインしよ!」
「は、はい」
二人はネックレスを首に下げ、その先端に付けられている宝石をつまんだ。
「ファンタジー・ミックス・オンライン起動」
「ファンタジー・ミックス・オンライン起動」
そして二人はFMOにログインし、ネカフェの部屋から消えたのであった。
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「ログイン完了!」
「さてと、待ち合わせのお店に行こうっと」
共にログインした双葉のアバター、メイガスは別の街でログインする設定になっているため、街同士を転移するファストトラベル機能を使って今頃『ラオンテール』に向かっているだろう。落ち合う場所を決めてあるため、
もちろんその途中で配信をオンにするのも忘れない。
「こんにちは~、昨日言った通りの配信を始めるよ~」
『うわ、マジで始まった』
「私は嘘つかないもーん」
『まだ言ってるよこの人……』
相変わらず
「スズメのチュンチュン堂。ここかな?」
そこは貸し切りが可能な小さな喫茶店で、ゲームの中でプライベートな空間を求める人のために用意されている。今回はそこをメイガスが貸し切っている。
「美少女JDの南城
『相変わらず堂々と美少女JDって自称するの鋼メンタルすぎるだろ』
カランカランと扉につけられたベルが鳴る音と、威勢の良い
「お待ちしておりました。お好きな席にお座りください」
「は~い」
店内は洋風レトロな喫茶店といった様相で、古い西洋の街並みの中にあるにも関わらず現代的な雰囲気がある。
「メロンソーダ一つ!」
飲み物をチビチビと飲みながら待っていると、カランカランと喫茶店の扉が開く音がした。今日この店を使えるのは
「よう、待たせたな」
リアルで会った時のおどおどした雰囲気とは全く違い、メイガスは筋骨隆々のアマゾネスだった。
『マジで
『本物来ちゃった』
『なんでこんな大物が釣られてるんだよ……』
白明騎士団はFMOの攻略をメインに活動する超有名なクラン。全てのメンバーが最前線で精力的に活動しており、こんな初心者に構うことなど普通はありえない。しかもメイガスは単なるクランメンバーではないのだ。
『副団長が直々に来るとか、どう考えてもおかしいだろ』
有名クランの副団長。
それほどの肩書の人物が
昨日メイガスから個チャをもらい、ポーションを持ち帰ったことについて詳しい話が聞きたいと言われた
FMO界隈が尋常ではなく盛り上がっていた。
その大半が有名クランを騙そうとしている
「すごいね。リアルとは全くの別人だ」
「おい待て、リアルの話はNGだ」
「そうなの?」
「私はこのゲームではこういうキャラとしてロールをプレイングしているんだ。それ以外の姿を見せたら印象が変わってしまうだろ?」
「ああ~そういうことね。分かった!そういうことなら納得だよ!」
個人情報を漏らすなと言われても理解できないが、演じているのだからリアルの話をするなど無粋なことはするなと言われれば納得してしまう
『リアルのメイガスは全然違うんだ』
『というか本当にリアルのメイガスと会ったの!?』
『この子何者?』
FMO界隈では超有名人のメイガスとリアルで知り合えたということが、誰にとっても信じがたいことだった。そもそもネットゲームをプレイしてリアルで会うなんてことまで発展するのは中々に時間がかかるものなのだ。それをたった一つの『嘘』で実現してしまったことに、
もちろん本人はそんなことは気にせずにメイガスとの話の方に興味深々だ。
「それで試したいものって何かな?」
「おうよ、ちょっと待ってな」
メイガスは
片方は
もう一つが虹色に鮮やかに輝く液体が入った小さな小瓶。
「こっちはポーションだよね。こっちは?」
「エリクサーだ」
「え?」
エリクサー。
それはゲームによって効果が異なるが、高い回復効果を持つ薬品として扱われることが多い。
FMOでのエリクサーは完全回復、ではなくあらゆる状態異常を快癒させる効果を持つアイテムだ。
「
メイガスはそう言うと更に空中ディスプレイを操作し、
「いいの?」
「ああ、構わない」
有名クランにとってもエリクサーは簡単に入手できる代物ではない。それなりに貴重な薬品であり、新人の
『そんな貴重なものを!』
『メイガス様止めて!』
『騙されないで!持ち逃げされますよ!』
『団長がいれば止めてくれるはずなのに』
『でも最近団長見かけないって噂だよね』
『メイガスが団長の代理で最前線で猛威を振るってるらしいな』
白明騎士団の団長はメイガス以上に信頼されている人物であり、このような怪しい取引等絶対にさせないと
「じゃあ頂きます」
もし
「それじゃあメイガスちゃ……さん、一緒にログアウトしよ」
「ああ、そうだな。お前の言葉が嘘でないことを祈る」
「ふふん、お任せあれ」
そうして二人はログインしたばかりだというのに、もうログアウトした。
もちろん
--------
正直なところ
まず場所が違う。
あれは自宅で無ければ成功しないかもしれないのだ。
ゆえに失敗した場合は双葉を自宅まで招待するつもりだった。
次にアイテムが違う。
試したのはポーションだけなので、エリクサーも持ち帰れるか分からない。
しかも今回は二つ持ちなので、二つとも持ち帰れるかどうかも分からない。
せめて一つずつ試すべきかと気付いたのはログアウトボタンを押してからだった。
二人はほぼ同時にネカフェに戻って来た。
風景が変わり、二人は目を合わせて戻ってきたことを確認し、揃って
「うそ!?」
声を出して驚いたのは双葉だ。
何故なら
「本当に持ち帰れるだなんて……」
「でしょでしょ!皆にも本当だったって言ってね!」
それは双葉に自分の言葉が本当であると証明し、そのことを彼女にゲーム内で喧伝して欲しかったからだ。彼女がゲーム内で超有名人だったのは偶然だが、彼女の発言力の高さを活かせるというのは
「…………」
しばらくして彼女は震える手でポーションに手を伸ばす。
双葉の右の人差し指には絆創膏が巻かれている。
昨日、部屋を片付けていたら紙で切ってしまったところだ。
もし本当にポーションを持ち帰れたとしたら、それが本当にポーションなのかも確認したい。だから渡したポーションを使わせて欲しい。それが双葉からの提案だった。
「はいどうぞ」
双葉はポーションを受け取ると、蓋を開けたがそれを飲む気にはなれなかった。何しろ得体のしれない飲み物なのだ、すぐに飲んでしまった
ポーションの使い方は飲むだけでなくかけるだけでも良い。だがもしこれがポーションで無く偽物の液体であるならばネカフェの床を濡らしてしまうかもしれない。今更ながらネカフェを選んだのは失敗だったなと双葉は思う。だがこれが本物である可能性を考えると超貴重品を外に持ち出して使うのはセキュリティ上どうにも抵抗がある。実際は誰もそんなこと気にしないのだが、そう思ってしまうくらいには今の双葉にはそれが本物に思えて仕方なかった。
「大丈夫だから一気に飲んじゃおうよ。なんなら私が怪我してから使おうか?」
「だ、大丈夫です!飲みます!」
これがポーションであると証明するために敢えて怪我をするだなど、そんなことをさせられる訳が無い。双葉は
「…………ポーションの味だ」
ゲーム内で飲んだことのあるポーションと全く同じ味がした。
そのこと自体はポーションの味を知っていれば再現が可能なので気にするところではない。同じ味と見た目の液体をこっそり用意してログアウトした直後に取り出しただけかもしれない。問題はポーションとしての効果があるかどうか。
双葉は体全体がポカポカと温まるポーション独特の感覚があることに胸を高鳴らせながら、指に巻いた絆創膏をゆっくりと剥がした。
「…………治ってる」
傷があったところをどれだけぐにぐにと動かしても全く痛みが無い。健康そのものの指だった。
「本当に……本当に……!」
彼女は本当にゲームの世界からアイテムを持って帰ることが出来る人物だった。
自分で体験してもなお信じられない。
夢でも見ているのかと思えるくらいに現実感が無い。
だが空になったポーションが入っていたフラスコがスッと消えた瞬間まで目にしてしまえば、これが現実なのだと理解せざるを得なかった。
「…………」
双葉の視線はもう一つのアイテム、エリクサーに注がれる。
その視線に気が付いた
「はいどうぞ」
「…………え?」
まさか何のためらいもなくそれを渡そうとしてくるだなど信じられず、双葉は硬直してしまった。
あらゆる状態異常を治すエリクサー。
それが現代社会においてどれだけ価値がある物か。
それを
分かっていれば一度受け取ったはずのそれを双葉に返すのは抵抗があるはずなのだ。
「双葉ちゃんはこれが必要だったから私に声をかけたんでしょ?」
双葉は
「だから遠慮なく持っていって。それにこれはそもそも双葉ちゃんのものなんだから」
「で……でも……本当に良いのですか?こんな貴重なものを簡単に返すだなんて……」
「それで双葉ちゃんの大切な人が治るなら全く問題無いよ!」
「!?」
双葉はエリクサーを必要としているが、双葉そのものは至って健康に見える。
ということは彼女は自分以外の誰かのためにエリクサーを欲しがっていたと言うことに違いない。
「その人のために、と~っても嘘っぽい私の話にも縋ってここまで来たんでしょ。それなら遠慮なく使わなきゃ」
それなのにわざわざ会いに来てまで真実かどうか確かめようとするというのは余程の事情があるに違いない。しかも試しに持ち帰させられたのはエリクサー。もっと気軽に手に入るアイテムで試せば良いのに敢えて貴重なエリクサーを選んだことで、それが彼女にとって必要な物なのだと推測するには十分だった。
「あり……がとう……ありがとうございます……」
双葉はボロボロと涙を零しながら震える手で優しく包むようにエリクサーを受け取った。
「泣いてないで、行って来て」
「…………はい!」
一刻も早くそれを使わなければならない相手がいるはずなのだ。泣いて感激してくれるのは嬉しくはあるが、それはエリクサーが効果を発揮してからやるべきだ。
飛び出るように慌ててネカフェを出た双葉の後姿を見ながら双葉は思った。
「あ、ネカフェ代貰うの忘れてた……」
せっかくの良い人ムーブが台無しである。
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あとがき
ネトゲで知り合ったばかりの人とリアルで会うのはダメ、ゼッタイ!
次の更新予定
ネットリテラシーが無さ過ぎるJDが褒められたくて人助けするお話 マノイ @aimon36
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