4. 私の話を誰も信じてくれない?だったら自宅配信して証明するしかないでしょ!
「えい、とう!」
シンプルな短剣を二度、三度振るうと、
「簡単簡単。もしかして私って戦闘の才能ある?」
否。
初心者向けの魔物であり誰でも簡単に倒せるようになっているのだ。
「レベルは八か。職業に就くには後二つ。がんばろ」
この世界で職業に就くには、まずは
レベル十に至るまでは普通に戦っていればそれほど時間がかからない。
「念のためポーション買ったけど、要らなかったかな?」
アイテムボックスからフラスコに入った青色のポーションを取り出し、それを使う場面が中々来ないなと思う。味が気になるので使ってみたいが、無駄に使うのは勿体ないと思ってダメージを負うのを待っていたのだ。
「もしかしてこのゲームもアイテムごり押し脳筋プレイで進められるのかな?」
回復スキルなど用意せず、大量の回復アイテムを準備してひたすら最強の攻撃を続けて驀進する。それだけで進めるゲームは案外多いものだ。このゲームでそれが通じるかどうかは分からないが、今のところはまだ敷居の高さを感じてはいない。己の身体を本当に動かして冒険するゲームというのは未知の感覚だが、ゲームのアシストが効いているのかそれともセンスがあるのか、
「あ、脳筋と言えば!」
「危ない危ない。ゲームに夢中になって忘れるところだったよ。そろそろクレメンスさんの配信の時間だ」
毎回配信を楽しみにしている中堅ゲーム配信者クレメンス。その配信の時間が迫っていたのだ。本当はレベル十になったところで一旦止めて配信を視る予定だったのだが、まもりに遭遇して時間を費やしてしまったことで予定が狂ってしまった。
「ええと、ログアウトは……これか」
空中ディスプレイを操作すると、端の方にログアウトボタンが出現した。それをタップすることでログアウトして元の世界へと戻ることが出来る。
「待っててクレメンス」
ログアウトボタンがグレーアウトされていて戻れない、なんてことはなく
「ふぅ。なんか不思議な気分だった」
まるで異世界に転移していたかのような感覚に脳が混乱しそうなところだが、このゲームはその調整もやってくれるとのこと。
しかしその途中で、自分が手に何かを持っていたことに気が付いた。
「あれ、何これ……ポーション!?」
それはつい先ほどまで自分が持っていた青い液体が入ったフラスコ。ポーションと瓜二つのものだった。
「な、なんでこれを持ってるの!?これってゲームの中のアイテムだよね!?」
動揺した
「きゃあ!」
とっさにポーションを持っていない方の手で受け身をとったが、その拍子に何かに腕をぶつけてしまったようだ。
「いったぁ~い……」
ぺろんと袖を捲ると、腕に打ち身のような小さな跡が出来ていた。その場所を中心に少しズキズキして
「あ、そうだ!ひらきのひらめき!」
痛みに顔を顰めていたのも束の間、
「これ飲めば治るかも!」
ここがゲームの中ならまだしも、ゲームの外に出たらいつの間にか手にしていた怪しい液体。それを飲もうなどと普通ならば考えないが、
「いっただっきま~す」
まったく躊躇することなくそれを一気に口に含むと、
「ほんのり甘くてスポドリみたい。美味しい!」
問題は味ではない。
もしそれが本当にポーションなら、ある変化が起きているはずなのだ。
「……痛くない。それに跡が消えてるし、なんか体がとってもスッキリした気分!」
なんと
「でもどうしてポーションを持ってるんだろう?」
ポーションをアイテムボックスから取り出し、使う機会が中々無いなと思っていたらクレメンスの配信の事を思い出した。そしてポーションを手にしたまま慌ててログアウトしたら、ログアウト先でもポーションを持ったままだった。
「もしかして向こうで何かを持ったままログアウトしたらこっちに持って帰れるの?」
そんな馬鹿なとは思うが、実際にそうだったのだ。
「よし、試してみよう!」
「あれ?街中だ?」
街の外でログアウトした場合、セーフティーゾーンや特殊なアイテムを使用しない場合は最寄りの訪れたことがある街へと戻されてしまう仕様だった。
「まぁいっか。とりあえずアイテムボックスからアイテムを取り出そう」
取り出したのは
一瞬の後、自室へと戻って来た
「……ある」
なんとその手には
つまりこれで、ログアウトしていた時に手にしていたアイテムを現実世界に持って帰れるということが分かった。
「仕様?そんな訳ないよね」
いくら
「流石にこれが普通だったらもっと話題になってるもんね」
ゲームの中のアイテムを現実に持って帰れる。
それが本当であればその話題をもっと目にして良いはずだ。ゲーム配信を色々と見ているのに、誰もそのことに触れないのはあまりにもおかしい。つまりこの現象は他にはない
「凄い凄い!超面白い!皆に自慢しようっと!」
「そうだ。FMOの配信で教えてあげよう!」
だが街中をどれだけ探しても見つからない。
FMOは未だに新規ログインが多いため、それらの配信につきっきりなのだろう。
「じゃあレンタルだ!」
FMO内の配信機器は無償でレンタル可能だ。有償で機器を購入すると、スパチャなどの機能が解禁されるが、ただ普通に配信するだけならば無料の機器でも十分だ。
「設定は今までと同じで音声ランダムモードにして……開始!」
『お、可愛い子だ』
『美少女JDじゃん!』
『まもりちゃんはどうしたの?』
どうやら初心者配信と初回配信をチェックする層は被っているようだ。
「今日からゲーム内配信する美少女JDの
まさに天真爛漫という笑顔に心を掴まれた男性が多かった。とはいえ彼らはいずれ
『
最初の配信で個人情報をダダ漏らしにしたことから、いつ爆弾発言が出てくるのかとすでに戦々恐々としている人もいるらしい。
「怖がらなくても平気だって、楽しいことしか配信しないつもりだし」
『楽しいこと(個人情報)』
「私がどこの誰だって知ってた方が楽しいでしょ?」
『だからって自宅の住所を言おうとするとかクレイジーすぎんぜ』
「そうかな?なんなら遊びに来ても良いよ。一緒にFMOやろうよ」
『そういうこと平気で言うから心配なんだって!』
じゃあ今から行くから!というコメントをピックアップしなかったのは配信AIさんの配慮に違いない。
「心配するより楽しんでよ。ということで面白いの見つけたから皆に教えます!」
『面白いこと?』
「そうなの!それ見つけて思わず配信始めちゃった!」
『なんでだろう。凄い嫌な予感がするんだけど』
「じゃじゃーん。これ何だか分かる?」
『ポーション?』
「そう、さっきお店で買って来た普通のポーション」
ログインしてアイテムを確認したらポーションが無くなっていたので、配信機器をレンタルする前に補充して来たのだ。
『それがどうしたの?』
「実はさっき、これを左手で持っている状態でログアウトしたんだ。そうしたらどうなったと思う?」
『増えたとか』
『消えたとか?』
『違うアイテムに変わったとか?』
『バグでも起きたの?』
「正解は、リアルに持って帰れた、でした!」
果たして
単純に驚くのだろうか。
詳しいやり方を聞いて来るのだろうか。
そんなことは知っていると言われてしまうのか。
「あ、あれ、反応がなくなった。おーい!」
これまで
配信カメラが壊れたかなと思い、
『嘘松乙』
「嘘じゃないし!」
どうやら
『どうせつくならもう少しリアリティのある嘘つかなきゃ』
「だから嘘じゃないって!」
『リアルにアイテム持ち帰れるとかアニメ脳で草』
「本当なのに!」
『はいはい、つまんね』
「むー!」
誰も彼もが
それを信じてもらうにはどうすれば良いか。
簡単である。
その場面も配信すれば良いのだ。
「それなら自宅配信して、私が持ち帰るところも見せるから!」
『は?マジで言ってるの?』
「だってそうでもしなきゃ信じないでしょ!」
『止めとけって、どうせフェイク動画作って誤魔化すつもりだろ』
「だから嘘じゃないし作らないから!いいよ、だったらポーション持ったまま部屋から外に出て街に出るから。それなら信じるでしょ!」
『そこまでやれたらな』
ここまで言っても誰も信じてくれる人は居なかった。それどころか、どうせフェイク動画を作って注目を浴びたいだけだろうとネガティブな印象を抱かせてしまっている。
この状況を打破するには、確かに
だが
『そもそもリアルで配信やったことあるの?結構お金かかるよ?』
「え?そうなの?」
FMOの中では配信が無償で可能だが、リアルで配信するには機器を一式揃えなければならない。FMOを購入するためにバイト漬けだった
「ぐぬぬ……」
『お金が無いから証明できませんでしたって作戦だったのか』
「だ~か~ら~!本当なのに!こうなったら留年覚悟でまたバイトをしよっかな」
『マジでやめろって。この子なら本気でやりそうな気がする』
「単位よりも大事なことがある!」
『どう考えても単位の方が大事だろ!大学行け!』
このままでは
そんな
FMOには個別チャットと呼ばれる機能があり、個人間でメッセージのやりとりが可能なのだ。
「あれ、何だろうこの音?」
個チャが初めて来たため、自分にだけ聞こえたシステム音が何を意味するのか分からない。配信は放置でしばらく空中ディスプレイを操作して、それが個チャが来たことだと分かると、
「これは!」
そのメッセージは
--------
あとがき
顔出し自宅配信からの街への外出による住所バレはダメ、ゼッタイ!
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