終末兵器美少女、花嫁のちヤンデレ模様〜浮気したら地球を破壊するんだからね!【短編】

はなびえ

プロローグ

過酷な冬が桜と始まりの洪水に流され、生まれたうららかな初春。

春風駘蕩たる東京の街を祝祭の鐘がこだまする。

「達也おめでとう!!」

2135年度、政府直轄第一大学入学式の盛り上がりは例年通りかなりのものだった。

我が子の明るい将来に感極まって涙を流す母親、そんな愛情深い妻に熱い抱擁を交わす父親。

こういった光景が至る所で繰り広げられており、それを鬱陶しく思った僕は遠くから他人の栄華眺めていた。

不出来な僕とは対照的に出来の良い双子の兄貴は現在進行形でお袋や義父、義妹、友達などに取り囲まれている。

流石は新第一学生だ。

おまけに、木陰で隠れるようにして惨めな仏頂面を浮かべている僕にも複雑そうな笑みを浮かべてくれるのだがら、非の打ちどころがない。

完全無欠とは彼の為に生まれた言葉なのだろう。

「帰ろうかな」

春の暖かな風を肌身で感じながら、劣等感を鞄に突っ込み、出口へと歩みを進めた。


第一大学が鎮座する東京市文京区の街並みは自然と歴史が調和した趣あるもので、働く犬型汎用性人工知能もどこか厳かな雰囲気を漂わせながら道路の工事をしていた。

現代における日本では、一部の意思決定層と文化的意義がある特定の何かに従事している者以外は消費と子作り、そして汎用性人工知能の責任を取ることのみが義務である。

受験競争に敗退し、かつては負の象徴であった労働にすら従事することが出来ない自分に失望しながら、いたずらに街を練り歩く。

その度、動物型の汎用性人工知能が堕落した人々に愛想を振り撒いて、勤労に勤しんでいた。

何でも人間と同程度の知能を持った汎用性人工知能を人型にすることで、人権を与えないければいけないのではないかと恐れた政府が、動物型にすることを義務付けたらしい。

哀れな家畜を自分に重ね合わせ、見下しながら散歩していると少しは自分がマシに思えた。

改めて自分が欺瞞に溺れてしまったのだと自覚させられる。

ふと気がつくと、時刻は19時を回っており、兄貴の入学式を抜け出してから数時間は経過していたようだ。

端末を確認するとメッセージが一件だけ来ていた。

淡い期待を抱き、開く。

『受験勉強よく頑張ったね。父さんは拓人を誇りに思ってるよ。君は兄さんのように生きなくて良いし、それを強制させてしまっていたら本当にすまない。今夜、男2人で酒でも飲まないか?』

送り主は母が再婚して出来た義理の父からだった。

……血が繋がっていない赤の他人にまで気を使わせるなんて、僕はとことん落ちぶれたらしい。

慈愛に満ちた美辞なる麗句に居た堪れなくなり、僕は人気がない裏路地へ走り去った。

とにかく誰にも、無様で醜い面を拝まれなくなかったのだ。

ダークで悪意に満ちた落書き通りを抜けると、そこには公園があった。

錆びついており、思わず郷愁に思いを馳せてしまうようなブランコに、最近ペンキが塗り直されたのか異様に綺麗な滑り台。

どこがパンパンに敷き詰められ、その頂にスキップが突き刺されているバケツが置かれたベンチの空いている方に腰掛ける。

何だかどうしようもない虚無感に襲われ、ボーッとしていると猛スピードで若い女性が駆け寄ってきた。

最初は酔っ払いかな?と思っていたが、異常な挙動で突っ込んでくる様を目の当たりににして、そんな生優しい物ではないと悟った。

「ひっさびさの若いオスううううううう!」

頭を守るようにして受け身の体制を取ったが、努力虚しく僕の右腕は女の手刀によって呆気なく切断された。

身体中の血液が爆発するように切断口から漏れ出ていく。

「ああああああああああああああ」

僕は声にならない痛みに倒れ込み、ただ虫ケラのように蹲っていた。

圧倒的な快感に見舞われながら意識が遠のいていく。

おそらく僕の身体は今、死ぬ準備をしている。

脳内麻薬でおかしくなりながら、僕は自分の運命を悟った。

全てを諦めようとしたその刹那、背後から凛々しい少女の声が聞こえてきた。

僕の右腕をぐちゃぐちゃにした女とは違うようだ。

「ここで狩りをするのはやめなさい」

「うるせーよ。お前は人間に肩を持つのか?」

「……話が通じないみたいね」

リズミカルで自信に満ちた足音がだんだんとこちらへ近づいてくる。

「私のマスターになって生き延びるか、このAGI《汎用性人工知能》に殺されるか、どちらか選ばせてあげる」


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終末兵器美少女、花嫁のちヤンデレ模様〜浮気したら地球を破壊するんだからね!【短編】 はなびえ @hanabie

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