第6話
「えっ?嫌です」
「「・・・・・・・・・・・・」」
陛下の言葉に思わず即答しちゃったわよ!
だって・・・ユーリアって顔は絶世の美女な王子だけど、取り柄ってそれだけしかないのよ。
学問・言語・法律・兵法・剣術・弓術・馬術等───王子に必須な教養と武芸を何一つ身に付けていない男の嫁になんてなりたくないわ!!!
王妃として果たさなければならない義務から逃げていたヘレナーと、幼い頃からジュリアーノに甘やかされ、可愛がられて育ち、王子としての義務から逃げていたユーリア。
この二人は血が繋がっていないのに、己の義務から逃げているところだけはそっくりだわ。
あれ?
今気が付いたのだけど・・・ユーリアって王家にとって役立たずの足手纏い以外の何者でもなくね?
「恐れながら陛下、私の意見を述べさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「よかろう・・・」
「王妃・・・いえ、罪人のヘレナーが不義密通を交わし畜生をこの世に産み出した遠因は陛下にあると私は愚考いたします」
二十年前に陛下が、先王が決めたビターレーズン将軍家のご息女であるヴィーノ姫を正妃として迎えていたらこんな事にならなかったし、ヴィーノ姫に話を通しさえすればヘレナーを愛妾として後宮に入れる事が出来たのよ。
えっ?
側室ではなく愛妾として後宮に入れるのはどういう事かって?
側室は陛下、ひいては国を支える為に働かないといけないけど、愛妾は何もしなくていいからね~。
それこそヘレナーが夢見ていた、自分は働かず、それこそ着飾っているだけでいい日々を送れていたのよ。
現代風に言えば、住んでいる家はタワマンで洗濯はクリーニング、掃除は家政婦さんがやってくれて、料理はウーバーイーツ。
年収数千万の男と結婚して玉の輿に乗った専業主婦って感じ?
まぁ、愛妾は容姿が衰えたら・・・それこそ陛下の気分次第で何時後宮から追い出されるか分からないから、ヘレナーが愛妾として後宮に入っていたら戦々恐々の日々を送る破目になっていたかも知れないけどね。
ヴィーノ姫だったら間違いなく手綱を上手く握って陛下を操っただろうし、後宮を纏める事も出来たはず。
それにヴィーノ姫であれば、陛下が酔った勢いで手を出した侍女との間に出来たユーリアを王子として育て上げたかも知れないわね。
要するに
『此度の出来事は陛下の昔の行動が原因』
という私の言葉にコンフィテュール王国の国王は怒り心頭だったけど、思い当たる節があるのか黙り込んでしまったわ・・・。
これは後日談になるのだけど、自分の過去を振り返って反省したのか、陛下は次期国王に私のお父様を指名したの。
まぁ、唯一の息子であるユーリアは足手纏いのヒロインな王子だもの!
あれを国王にする事に不安があるのは誰の目から見ても明らかよね~。
王子として役に立たないユーリアの身の振り方に陛下とお父様は頭を抱えて悩んだわ。
そんな陛下とお父様を見兼ねて私は提案したの。
ミルキー王国のシェムザ王太子の元に名目は側室でも愛妾でもいいから、人質として送れば良いのでは?
ユーリアの見た目は絶世の美女だが男なので、どう転んでも子を宿す事がない。
そのような王子をシェムザ王太子殿下の後宮に入れるのも一興ではないだろうか?
ゲームのシェムザはユーリアを大切にしていたから、現実世界のシェムザも大切にしてくれると思うのよね~。
多分。
単なる勘でしかないけど。
私の提案に難色を示していた陛下とお父様だけど、一応シェムザ王太子殿下に『ユーリアを殿下の後宮に入れませんか?』って一筆を書いて送ったの。
結論だけを言うと、ユーリアが絶世の美女ならぬ絶世の美男という噂はシェムザの耳にも入っていたから大層乗り気で『一日でも早く自分の後宮に入れたい』という返事が来たわ。
これで厄介払いが出来ると喜んだ陛下とお父様はユーリアを、女神を思わせる美麗な衣装とアクセサリーで着飾らせた上で持参金を持たせてシェムザの元に輿入れさせたの。
コンフィテュール王国を発ってから約三~四週間くらい経った頃かな?
ミルキー王国に到着したユーリアをシェムザは笑顔で出迎えただけではなく、その日のうちに二人は初夜を迎えたのだとか───。
ユーリアがシェムザの愛妾として幸せに暮らしている頃
私はというと、ゲームでは名前すら出て来なかったショコラーデ王国の王太子殿下であるエリル様に嫁いだの。
エリル様とは政略結婚だったけど、互いに歩み寄っているから夫婦仲は良好だと言ってもいいわね。
あれは・・・私がエリル様と共に散歩という名の視察をしている時だったかしら?
【Beast】の焼き鏝を押された一人の男が、着けた首輪を女性に引っ張られながら市場を歩いている姿があったの。
目が窪んで頬が痩せこけていたけど、男の顔がジュリアーノに似ていたような・・・でも気のせいだわ。
「畜生の分際で人間様の言葉を話すんじゃない!!!」
男が女性に対して何て言ったのか分からないけど、きっと女性の気分を損ねるような事を言ってしまったのでしょうね。
ジュリアーノに似た畜生は女性にリールを引かれながら彼女と共に市民街へと歩いて行ったの。
「ベルフィーネ?何かあったのか?」
「いえ。ただ、どこかで見た事があるような御方が市場を歩いているような気がしたのですが・・・どうやら私の見間違いのようでしたわ」
私はエリル様の妃として、ショコラーデ王国の未来の王妃として両国を繋ぐ架け橋となる道を私の意志で歩んでいく。
主人公の恋敵として、夫に断罪される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します 白雪の雫 @fkdrm909
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