後編

 じいちゃんの家にあった宝箱には、鍵は掛かっていなかった。


 その箱は意外な程に、それなりに重量があって、作りがしっかりとしていた。


 おもちゃじゃない。職人の仕事だ。


 そして、宝箱は鍵が掛かっていなかった。

 だから意外な程に、あっさりと開いた。


「母さん、来て!」


 俺は母を呼んだ。


 俺一人では理解が追いつかない。

 

 宝箱の中には、剣が入っていた。


 両刃の、昔の西洋が舞台の映画で見るようなあれだ。


 それと本。


 分厚い本で、中には何かよく分からない言語が書かれている。


 それと指輪。


 銀色に輝く、細かな装飾のついた、綺麗な指輪だった。


「なあ母さん、聞いて良いかな」


「あら、どうしたの?」


「じいちゃんって、ロードオブザリングのファンだったのか?」


「うーん、そう言えばお義父さん、あれは嘘だからあまり好きじゃないって言ってたわ」


「いや、これどう見てもファンタジーだろ、こんなん持ってるの、そうとう好きだろロードオブザリング。て言うかどこで買ったのこれ。e-bay?じいちゃんe-bayとかやってたの?」


「なんか昔、エルフの王に貰ったって言ってたわね」


「いや、それロードオブザリングだろ。じいちゃんそういうの好きだったんだ」


「昔、どこかの世界を救った事があるって言ってたわ」


 じいちゃん、俺の知ってる限りではボケてはいなかったと思うんだけど、実際のところ、現実と空想の区別が付かなくなってたんだろうか。


 あれ、宝箱の奥に、まだ何かある。


 これは、スマホっぽいな。


 なんか見た事ないデザインだけど。


 取り出してみたけど、俺の知ってるメーカーのスマホでは無さそうだ。


 手に持つと、勝手に画面が光って文字が浮かび上がってきた。


 スマホに浮かび上がってきたのは、俺の知らない言語だった。


「じいちゃん、スマホなんか持ってたのか。て言うか何この文字……何語?」


「うーん、そういえばお義父さん、昔、銀河を渡る船に乗って、他の惑星に行った事があるって言ってたわ」


「じいちゃん、トレッキーだったのか。ロードオブザリングだけじゃなくてスタートレックも好きだったんだ」


「お義父さん、あれは嘘っぱちだから嫌いだって言ってたけど」


「いやいやいや、どう見ても好きでしょう。こんな未来デザインのスマホとか買ってるくらいだし……て言うかこんなグッズ売ってたのか」


「そういえばお義父さん、昔、どこかの惑星を救ったお礼に惑星パトロールに通信端末を貰った……って言ってたわ」


「じいちゃん、ファンタジーだけじゃなくてスペオペも嗜んでいたんだ」


「もう良いでしょ。私にはあまりよく分からないものばかりですもの」


「いや、もう少しだけ見たい」


「もう、母さんは飽きたから、外で待ってるわ」


 俺の母、興味なさすぎだろ。


 でも、じいちゃんがこんなにオタグッズ持ってるって知ってたら、もっと遊びに来れば良かったな。


 ロードオブザリングとかスタートレックの話したかったな。


 なんて事を考えながら、俺は部屋を物色した。


 そして見つけてしまった。


 光る石だった。


 その石は、淡い青色の光を放っていた。


 そして、それの横には、手紙が添えてあった。


 じいちゃんから、俺宛の手紙だ。


 ——可愛い孫へ


 これを見つけたと言う事は、お前はもう気づいているだろう。


 そうだよ、儂はあの伝説のモンランジャ族の末裔なんだ。


 そして孫よ。お主もモンランジャの血を引くのじゃ。


 だからお前にこの石を託す。


 その石は、世界の境界を超える転生石じゃ。


 良いな、この世界の運命はお主に託したぞ。


 祖父より——

 


 ……まじかじいちゃん。


 今度は何の映画だよ。

 それともドラマか?

 まさかクトゥルーか?


 俺、その原作はわからないよ。




    - 了 -

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じいちゃんの遺品 海猫ほたる @ykohyama

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