じいちゃんの遺品

海猫ほたる

前編


 母からの電話でじいちゃんの訃報を知ったのは、推しのアイドルとのツーショット写メ会を終えて帰宅した時だった。


 急いで職場に電話して上司に二、三日休む事を伝えた後、慌てて家に帰ると母はもう帰る支度を終えていた。

 

 俺は喪服と仕事用のノートパソコンだけ鞄に詰め込むと、そのまま母の運転する軽乗用車に乗って、田舎の実家に帰ってきた。


 じいちゃんの事は特別に好きだった訳じゃない。

 大人になってからは全然会っていなかった。


 最後に会ったのはいつだっただろう。

 事故で死んだ父の葬儀の時以来かもしれない。


 じいちゃんの葬儀はあっけなく終わった。


 元々、俺たち以外には身内もなく、田舎のさらに山奥にある大きな家に一人で住んでいた。


 俺が知る頃にはじいちゃんは既に隠居して暮らしていたから、若い頃に何をして財を築いたのか、俺はよく知らない。

 

 だけどじいちゃんは近所の人たちには人気があったらしく、簡単な葬儀だったけど近所の人達がたくさんきてくれた。


 葬儀が終わって、俺と母は大きな屋敷にポツンと取り残される形になった。


 そしてふと、俺は有るテレビ番組を思い出していた。


 こういう大きな屋敷にある、開かずの金庫を開ける番組だ。


「なあ母さん、この家に開かずの金庫とかあったりしないかな?」


「どうかしら、もしかしたらおじいちゃんの部屋に有るかもしれないわね」


 母に、見てきていいかな、と聞くと、好きにしなさいと言われた。


 母はこの家を売り払うつもりらしい。


 祖母は俺が物心ついた時にはもういなかったし、父も他界していている。


 母は元々都心に住んでいて、父と結婚した後は父が家を出て母と一緒に都心に移り住んだ。


 だから母は、この家にはほとんど寄り付かなかったし、思い入れもない。


 必然的に俺も母と同じく、この家に思い入れは湧かない。


 じいちゃんがいなくなった今、この家に住む人はいなくなった訳で、かと言って空き家を放置しておくのも治安上よくないと言う事で、売るか取り壊す事になるのだが、田舎の山奥とはいえ、建物はそれなりに見栄えの良い物だから、案外良い値で売れるかもしれない。


 どうせ売るなら、その前にこの家の中に何が残っているのか、単なる興味本位ではあるが、見てみたいと思った。


 と言うわけで俺はじいちゃんの部屋に入ってみた。


 じいちゃんの部屋は、立派な書斎だった。


 部屋の奥にある、天井まである棚には、難しそうな本が並んでいた。


 部屋の中央には、分厚い木でできた高そうな机と、ふかふかのクッションのついた椅子。


 それと、棚の上にある盆栽。


 部屋にあるのは、それだけだった。


 ぱっと見、金庫らしきものは見当たらない。


 ……まあ、そう見える所には置かないか。


 最近は金持ちの家を狙って強盗に入る物騒な事件も多いし。


 俺は机の引き出しを開けてみる。


 鍵だ。


 引き出しの中には、何かの鍵が入っていた。


 俺は鍵を取り、書斎を後にした。


 屋敷の中を虱潰しに歩いてみる。


 この鍵は、一体どこの鍵だろう。


 答えは、すぐに分かった。


 一つだけ、鍵の掛かった部屋がある。


 この部屋のドアに鍵穴が付いていて、鍵を挿したらあっさりと開いた。


 俺は、ドアを開けて中に入った。


 部屋の中には、金庫らしきものが、置いてある。


 当たりだ。


 開かずの金庫だろうか……俺の胸が高鳴った。


  だから、に気がつくのが、遅れた。


 は、金庫ではなかった。


 それは金庫ではなくて……だった。


 ドラクエとかRPGでよくみる、あの宝箱だ。


 ……おいおい、じいちゃん、宝箱持ってるなんて、聞いてないんですけど。


- 後編に続く -

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