第4話 決めろ必殺技!

 ラブリィレッドに与えられた専用武器。その名は『ラブリィステッキ』。

 女児向けアニメに出てきそうな実に可愛らしいハート型のデザインのステッキ。


「あぁ、なんて無情! なんて悲劇! せめて武器くらいカッコいいのが欲しかったよ! もっとあるじゃん、剣とかさ! なんでステッキ……しかもハート型! いや今のこの格好にはこのうえなく似合ってるんだけどさ!」


 カッコいい武器を求めていたラブリィレッドはその理想とはかけ離れた武器に思わず膝から崩れ落ちる。


「ちょっと何してるのよ。危ないわよ」

「だってこの武器。いくらなんでもこの武器はないでしょ……せっかく専用武器って言われてちょっとだよ。ちょっとだけ、ちょっとだけ期待したのにさぁ」

「馬鹿にしないで。魔法少女に与えられる専用武器は今のあなたにもっとも相応しいものなのよ。そのステッキが、今のあなたにもっとも相応しい武器なのよ!」

「なにそれすっごく複雑な気持ち!」

「な、なにさっきから一人でごちゃごちゃ言ってるんだ。ボクのことを無視するなぁ!!」


 ラブリィレッドに無視されていると感じたカメレオン怪人が飛びかかる。だが、そんなカメレオン怪人の怒りの炎はラブリィレッドの怒りの炎の前にはあまりにも弱火だった。


「うる、さーーーーいっっ!!」

「ぶべらっ!?」


 飛びかかってきたカメレオン怪人をラブリィレッドはステッキで殴り飛ばす。まるでボールのように飛ばされたカメレオン怪人は電柱にぶつかって地面へと落ちる。


「痛いぃ、痛いよぉ! いきなり殴るなんて酷いじゃないかぁ!」

「先に攻撃してきたのはそっち。飛びかかってきたのもそっち。被害者面しないで」

「こ、このぉ!」

「ふんっ!!」


 痛がっていたのは同情を誘うための演技だったのか、カメレオン怪人は再びラブリィレッドに襲いかかる。ただ体術の心得はないのか、その動きは隙だらけだった。

 ラブリィレッドはヒラヒラと踊るようにその攻撃を躱すと、カメレオン怪人の背後を取ってステッキをバットのように振って背を殴る。


「ふんっ!!」

「あぁあああああっ!!」

「思ったより頑丈で使いやすいかも。でもこれもはやただの鈍器だよね。使い方あってる?」

「あってるわけないでしょ。なによその野蛮な戦い方。あなた魔法少女なのよ? わかってる?」

「そんなこと言われたって他に何も知らないし」

「魔法があるでしょ! ステッキを出した時と同じよ。もうすでにあなたは知ってるはずよ。魔法の使い方をね」

「魔法の……使い方」

「頭じゃなく心でイメージしなさい。あなたの魔法、あなただけの魔法を!」

「私だけの魔法。わかった。やってみる! 魔法を見るのはこれが初めてってわけじゃないんだから!」


 ラブリィレッドが魔法を使おうと集中している間にステッキで殴られ、悶えていたカメレオン怪人が起き上がる。


「ぐぞぅ! なんでいつもいつもいつもボクは、ボクの人生は上手くいかないんだ! 大事なところでいつも邪魔が入るんだ!!」

「キミの言いたいことはわかったけど、それでどうしてさっきの女の子を襲ったの?」

「今までの人生で女の子と触れ合う機会なんてなかったんだ! ちょっとくらい良い思いをしたっていいじゃないか!」

「その考えがそもそも間違いなんだけど。私はキミがどんな人生を送ってきたのかなんて知らない。だけど一つはっきり言えるのは、たとえどんな理由があったって今のキミは間違ってるってこと。それだけははっきりと言える!」

「間違ってない! ボクは間違ってなんかない! ボクが間違ってるって言うなら、そんな世界の方が間違ってるんだ!」

「これ以上何を言っても無駄みたいだね。止まる気もないの?」

「止まるもんか! ボクはこれから怪人として新しい生活を送るんだ! 人生を変えて見せるんだ!」

「人生は人生でも怪人生になりそうだけど。でもいいよ。だったら私があなたを止めてあげる。この愛と魔法で!」


 ラブリィレッドの持つステッキの先端、ハートの部分が赤い光を放ち始める。それを見たカメレオン怪人は本能的に危機を悟ったのか、一歩、二歩と後ずさりする。


「じょ、冗談じゃない! こんなところでやられてたまるか!!」


 背を向けて逃げだそうとするカメレオン怪人。だがその動きはラブリィレッドにはお見通しだった。


「愛の呪縛からは逃げられないよ! 『ラブリィチェイン』!!」


 腕輪から伸びた真紅の鎖がカメレオン怪人の体を絡め取り、その動きを止める。かなり頑丈にできているのか、カメレオン怪人がどれだけ暴れてもビクともしない。

 

「は、離せっ!!」

「離さない! 私の愛をあなたに直接叩き込んであげる!」

「ひぃっ!?」


 鎖に縛られるカメレオン怪人は見た。太陽のように煌々と輝くラブリィレッドのステッキを。それはラブリィレッド放つ愛の輝きでもあった。


「私は愛で、ぶん殴る!! とりゃぁああああああああっっ!!」

「うわぁあああああああっっ!!」


 ラブリィレッドが鎖を思いっきり自分の方へと引っ張った。完全に力負けしたカメレオン怪人は飛ぶほどの勢いで引き寄せられる。


「『ラブリィインパクト』!!」


 バットのように振られたステッキの渾身の一撃がカメレオン怪人にぶち当たる。


「これが私の愛だよ!!」

「魔法っていうかただの物理攻撃ぃいいいいいいいいいっっ!!」


 そんなカメレオン怪人の叫びは、ラブリィレッドの放つ愛の輝きに呑み込まれて消えていくのだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女嫌いの少年が魔法少女に選ばれたら ジータ @raitonoberu0303

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ