第3話 変身! 愛の魔法少女ラブリィレッド!
「お兄さんっ!?」
瓦礫が春輝の体の上に降り注ぐ。春輝に突き飛ばされた少女はその光景を見て顔を真っ青にして悲鳴を上げた。
あれだけの重さの瓦礫、人の上に落ちてくればどうなるかなど子供でもわかる。残酷な現実から目を逸らそうと、ギュッと強く目を瞑る少女。そして同時に自分の運命も悟っていた。
助けは間に合わない。これからカメレオン怪人に連れ去られる。連れて行かれた先で何をされるかはわかっていないが、ろくな目に遭わないことだけは理解していた。
しかしいつまでもカメレオン怪人が少女の元までやって来ることは無かった。恐る恐る目を開く少女。
「あ……」
「もう大丈夫――私があなたのことを助ける!」
少女の目の前に居たのはカメレオン怪人ではなく、ロリータ風の真紅の衣装を身に纏い、衣装と同じ真紅の髪をポニーテイルにした少女だった。
「あなたは……」
「私は愛を司る魔法少女、ラブリィレッド!! 愛の力をあなたに教えてあげる!!」
「ラブリィレッド……」
呆然と呟く少女。その視線の先ではラブリィレッドとカメレオン怪人が対峙していた。
それは春輝が瓦礫に押し潰される直前のことだった。フュンフによって嵌められた腕輪が真紅の輝きを放ち、春輝の体を包み込む。
(なんだこれ。オレの体の内側から力が溢れてくるような、そんな気がする!)
内から溢れてくる力に、これならカメレオン怪人とも戦えると確信した春輝だったが、そんな思いはカーブミラーに映る自身の姿を見て粉々に打ち砕かれる。
(な、な、な、なんだよこの姿ぁあああああああああっっ!!)
燃え盛るような真紅の髪をポニーテイルに纏め、サラサラと風にたなびいている。
そして髪と同じ紅い瞳はくりっとしていて、まるで宝石のように輝いている。
一度見れば誰もが振り返らずにはいられないほどの美貌と可愛らしさ。そして、そんな体を覆うのは魔法少女を象徴するような真紅のフリフリとしたロリータ風の服。
カーブミラーに映るそんな自分の姿を見て、別の誰かだと思いたかった春輝だがふと視線を下げれば見えるのはフリフリとしたスカート。その現実が春輝の心を打ちのめす。
(マジか……マジなのか。これマジでオレの姿なのか)
「そうよ。それが今のあなた。愛の魔法少女ラブリィレッド! さぁ、高らかに叫びなさい、これから世界に名を轟かせるその名前を!」
近くに居たフュンフが上機嫌な様子でそう叫ぶ。そして気付けば、春輝の体が、口が勝手に動き出していた。
「もう大丈夫――私があなたのことを助ける!」
「あなたは……」
「私は愛を司る魔法少女、ラブリィレッド!! 愛の力をあなたに教えてあげる!!」
「ラブリィレッド……」
後ろの少女が呆然と呟く声が春輝――ラブリィレッドの耳に届く。魔法少女へと変身したことによってラブリィレッドの聴力は通常時に比べて数段引き上げられていた。そのせいで小さな呟きもはっきりと拾ってしまったのだ。
(って何言ってんだオレはぁああああああっっ!! ラブリィレッド? 愛の力? 柄じゃなさ過ぎるだろ!)
気付けばごく自然にポーズを取り、決め台詞を言い放っていた自分自身に内心悶え苦しむラブリィレッド。
そんなラブリィレッドにとって黒歴史確定な行動をしておきながら、状況はラブリィレッドに止まることすら許さない。
「ま、魔法少女? お、お前どこから現れた! さっきの男はどこに行った!」
カメレオン怪人は春輝と相対していた時とは打って変わってオドオドした様子でラブリィレッドのことを見ていた。
しかしまさか自分がさっきの男だと言えるはずもなく。苦肉の末にラブリィレッドは言葉を絞りだした。
「さ、さっき瓦礫に押し潰されそうになっていた彼は私が助けたから。魔法でね! だからもうここにはいない!」
「なんだって! く、くぅ……こ、こうなったら……逃げるしかない!」
「いきなり逃走!? いくらなんでも魔法少女にビビりすぎでしょ! 男なら逃げずに戦いなよ! 怪人に性別があるのかどうか知らないけど!」
逃げ出したカメレオン怪人を追いかけるラブリィレッド。カメレオン怪人は屋根から屋根へと飛び移りながら逃げる。その後を追うラブリィレッドは一跳びで屋根に飛び乗れる自身の身体能力に驚きながらも、少しずつ魔法少女としての自分の体に順応していく。
(この体、こんだけ超人みたいな動きができてまだ余裕があるのかよ。この体ならあいつに追いつける!!)
足に力を込めての全力跳躍。その弾みで足場にした屋根を若干砕いてしまったことに驚きながらカメレオン怪人の前に降り立つ。
「っ!? なんで追いつけるんだよぉ! 逃がしてくれよぉ! ボクが何したって言うんだよ!」
「さっき思いっきり女の子襲ってたでしょうが!」
「未遂だから許してくれよ!」
「未遂だからってじゃあいいよ、なんて言えるわけないでしょ!」
「うっ、うっ、うぁあああああああああああっっ!!」
逃走経路を潰され、いよいよ逃げ場をなくしてしまったカメレオン怪人は半ば狂乱しながら舌で攻撃してくる。
春輝の目では捉えられなかったカメレオン怪人の舌攻撃。しかしラブリィレッドに変身した今ならば――。
「止まって見える!!」
飛んで来た舌を手で掴み取るラブリィレッド。春輝のことを一撃で沈めた舌もまるで脅威では無い。
「あ、女の子の手の感触」
「ひぃっ!? キモッ!!」
生理的嫌悪に襲われ掴んでいた舌を手放してしまうラブリィレッド。
「キ、キモい!? キミまでそんなこと言うのか! ボクに向かって! ふ、ふざけるなぁあああああっっ!!」
ラブリィレッドの一言が逆鱗に触れたのか、カメレオン怪人は体を震わせ怒りを露わにする。
「ボクはキモくない。キモくなんかないんだぁああああああっっ!!」
「えっと、キモいって言ったのはごめんだけど。いやでもキモいしなぁ……」
「またキモいって言ったなぁああああああっっ!! 許さない。もう許さないぞぉおおおおっっ!!」
カメレオン怪人の体がその怒りに呼応してか一回り大きくなる。
「なに余計なこと言って怒らせてるのよ。あなた馬鹿なの?」
「フュンフ! えっと、どうやって戦ったらいいの? 殴ればいいの? 教えろ、ください!」
「なにその変な言い方。まぁいいけど。腕輪に念じなさい。そうすればあなたに相応しい武器が出て来るわ!」
「武器!」
ラブリィレッドは魔法少女のことが嫌いだ。とはいえ、それなりに知ってはいる。魔法少女は様々な武器を使う。剣、銃、斧、など武器の種類は色々だ。
そんなイメージがあるからか、自分専用の武器と聞いてラブリィレッドは若干高揚していた。
「出てこい、私の武器!」
腕を振り上げたラブリィレッドの手に現れたのは――。
「って、なんでハート型のステッキなのぉおおおおおおおおっ!!」
真っ赤で可愛らしいハート型のステッキ。それがラブリィレッドに与えられた専用武器だった。
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