第9話 やられ役のヒーラー、加護を貰う




 邪神との交渉に成功した。


 お陰で遺跡を自由に使っていいことになり、新たな拠点を手に入れて数日が経ち……。


 俺は新たな問題に直面していた。



「おい、お主。リザードンとか言ったかの」


「あ、リザーレです」



 邪神改めアイズベルンが話しかけてくる。


 その姿は黒い影ではなく、小学校高学年くらいの可愛らしい黒髪の少女だった。


 曰く「こっちの方が可愛いから」らしい。


 女児アニメを始め、様々な深夜アニメを見まくった結果、ただの黒い影では嫌になったようで、今やただの美少女である。


 その美少女と化したアイズベルンが、あまりにも唐突なことを言い始めた。



「お主には特別に我の加護をくれてやるのじゃ」


「え、別に要らな――」


「特別に、我の加護を、くれてやるのじゃ」



 どういう風の吹き回しか、アイズベルンが俺に加護を与えると言う。

 しかも断ろうとしても朗らかな笑みで無視される始末。



「ど、どうして急に加護なんて……」


「お主の記憶から再現したモノはどれもこれも面白くて仕方がない!! 我をここまで楽しませたのはお主が初めてじゃからな!! 有り体に言えば、お主が気に入ったのじゃ!!」


「そう、ですか」



 判断に迷う。


 もし何か強力な力を得られるなら、受け取っておいて損はないだろう。

 しかし、邪神の加護がどういうものなのか、ゲームには登場しなかったものなので少し怖い。


 知らず知らずのうちに寿命とか吸われようものなら死にたくないっていう俺の目的に反するからな。


 よし、ここは探りを入れよう。



「加護というのはどういうものなんですか?」


「そうじゃな、まず我がやってみせたように影から物質を作り出すことができるのじゃ。上手く使えばこの古ぼけた遺跡を改造することもできるぞ」



 いきなりドデカいメリットが判明した。


 その加護とやらを使えば、遺跡をより強固な砦に作り替えることもできるってことじゃないか。


 しかし、まだ油断してはならない。


 対価として何を要求されるか分からないから、ここは慎重に行こう。



「え、ええと、もし加護を受けるなら、何か対価を用意すべきでしょうか?」


「いや、要らん」


「え?」


「さっきも言ったが、これは我を楽しませた褒美なのじゃ。警戒しておるようじゃが、寿命を取ったりはせぬぞ」


「っ、い、いや、別にそんなことは気にしてないですけど」



 咄嗟に誤魔化したが、邪神には俺の考えなんてお見通しだったらしい。

 デメリットがないなら加護を断る理由がない。

 俺はすぐに了承し、その場でアイズベルンの加護を受け取った。


 その一部始終を見ていたヘルヴィアが一言。



「やはりそなた、魔王になった方がいいのではないか? 余より絶対に向いてると思うぞ。能力的にも人格的にも」


「いや、まあ、そうかもしれないですけど」


「おお、遂に認めたか!! では本格的に魔王の座を譲ることも考えておこう!!」


「あ、ちょ」



 まずい。


 このままでは魔王の座を譲る気満々なヘルヴィアに魔王にされてしまう。

 俺は死にたくないだけで魔王になりたいわけじゃないのに!!


 し、仕方ない。やっぱり加護はアイズベルンに返して――



「なんじゃこのクソゲーは!! ちっともクリアできぬではないか!!」



 アイズベルンがダークソ◯ルをプレイしながら怒鳴り散らす。

 彼女は遺跡の最奥を改造し、小さな小部屋を作って引きこもっていた。


 部屋の真ん中にコタツがあり、アイズベルンはコタツに入ったまま俺の記憶から再現したであろうゲームをプレイしている。


 いや、邪神が引きこもり化してしまったことは別にいいのだ。


 さっさと加護を返還しなきゃ。



「あ、あの、アイズベルン様。やっぱり加護をお返し――」


「おい、リザーレ!! お主このゲームを一度はクリアしておるんじゃろ!! 手本を見せるのじゃ!!」


「え、いや、あの、話を――」



 その後、俺は結局アイズベルンに加護を返す旨を伝えられなかった。


 もういっそ開き直ってやろうか。


 それからテレシアが合流し、各地に赴いて悪役たちを復活させ、戦力の拡充を図る日々が続いた。

 ついでに遺跡を加護で改造し、トラップマシマシの防衛網を構築。


 これでいつ勇者が襲来しても問題ない!!


 そう胸を張って言えるようになった矢先の出来事だった。



「魔王!! 今度こそボクが君を倒す!!」



 本当に勇者が来てしまった。


 いや、いつ勇者が来ても問題ないとは思っていたけどさ。


 言った矢先に本当に来ないでくれよ!!






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「もう少しで終わります」


リ「!?」



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やられ役のヒーラーは主人公が倒してきた悪役たちを復活させました。〜原作知識と裏技チートを駆使して真っ向から破滅エンドを叩き潰します~ ナガワ ヒイロ @igana0510

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