第7話

 約束の日。宮殿の門をくぐると、お嬢様が立っていた。

 普段とは違う、一段と豪華なドレスを着て。


 そうだ。今日は見合いの日なのだ。私の話次第で、お嬢様は隣国に言ってしまうんだ。

 そう思うと、喉がきゅっと詰まってしまう。


「で? 二週間も待ったのだから、流石に聞かせてくれるわよね?」


 扇子をパタパタさせながら、お嬢様は言う。その動作一つひとつが、令嬢としての気品があった。

 そのオーラに、圧倒されそうになったけど。


──落ち着いて、落ち着いて……。


 私はポケットから、答えを一粒、取り出した。


「これって……、イチゴよね?」

「はい、そうです……!」


 声、上擦ってないかな。ちゃんと伝えられるかな。

 不安をギュギュッと押さえ込んで、私はお嬢様に耳打った。


「は、花言葉は……、『尊敬と愛』です……!」


 私の言葉を聞いたお嬢様は、堪え切れないと言った様子で、大きく高笑いをする。宝石の輝きを持つ金髪が、肩の動きに合わせて揺れる。


「ユーリ!!」


 ビシッとユーリさんを指差して、お嬢様は宣言した。


「私、今日の見合いには行かないわ!! 反対しないでちょうだい!!」


 ユーリさんは、「やれやれ」と肩をすくめる。


「『駄目です』……と言いたいところですが。どうせ、言っても聞かないのでしょう?」

「ええ、そうよ! よーく分かってるわね!」


 そう言い切ったお嬢様は、私に向かって手を差し出した。


「スカーレット・オブコニカの名を持って、命ずるわ! エリカ、私の手を取りなさい!」


 言うや否や、私の返事なんか聞かずに、私の手を握って走り出す。中庭の花が風にそよいで、繊細な花びらを散らす。


「良いのですか、お嬢様……」

「ええ、勿論よ!」


 やっとのことで絞り出した言葉に、お嬢様はこう返す。


「だって私、足が冷たいんですもの! あんたがいなくちゃ、凍ってしまうわ!」


 その時のお嬢様は、とびっきりの笑顔だった。

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つま先フェチのマッサージ師と、冷え性の高飛車令嬢 中田もな @Nakata-Mona

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