トゥシューズの思い出

陽麻

トゥシューズの思い出

幼少期からバレエを習っていた。

わたしの短編作品にもバレエを題材にした小説があるが、そこで書いたのと同じように、わたしはバレエの世界に一目惚れした。


まだ五才くらいのころ、見学にいって、一目でやってみたいと思って翌週からレッスンできるようにしてもらったのだ。


何か、わたしはバレエが好きだった。

曲に合わせて体を動かすのが好きだったのかも。

だけどレッスンは激烈きびしいものだった。


そんなこんなで三、四年くらい続けたある日。

先生がトゥシューズを履きなさい、とおっしゃった。

当時の私は九歳くらいだったと思う。

初めてシューズに足を入れたときは、憧れがかなって嬉しかった。

しかし、少しでも体重をかけるとつま先に激しい痛みが走る。

それをがまんしてバーというレッスン用の棒につかまって、立つレッスンから始めた。


つま先が燃えるようにイタイ。

何回かのレッスンで、つま先の関節部分から血が出ていた時があった。

先生に血が出てしまったことを言うと、


「あたりまえでしょ。バレリーナのつま先は豆がつぶれて、治ってをくりかえして、かたくなった足で踊るのよ」


というようなことを言われた。

ちなみに私の先生は、小さなレッスン場には似合わないくらいの高名な先生だった。

あるバレエ団のプリマドンナで。いまでいう、エトワールである。


私はこのセリフに衝撃をうけてしまった。


無理でしょ。


と……。だってすごく痛い! この血の出たつま先でピルエットなどの回転などできない。できても勢いで回っている感じで、体の軸なんて取れない。

技術の上達とかの前に、つま先が痛くて踊ってなんていられない。

でも、実際に踊れる人がいるのは確かなことで。


もちろん、痛みを軽減するために、中に毛皮を入れる。

でも、毛皮を入れたって血がでる。

自分の全体重がつま先に集中しているのだから。


憧れのトゥシューズは、私にはバレエを続ける障害になってしまった。

なんだかんだで小学校六年までバレエを続けたが、私よりも小さい子がトゥシューズを履いて踊っている中、私はつま先がイタイからトゥシューズをはいて踊りたくありません、なんて死んでも言えない。


思えば、私はバレエをやるには少し太っていた。

と言っても、その当時150センチの体に48キロくらいだったが。


中学に入る前に、先生からダイエットをしなさいと言われた。その体重だと、男性がリフトできない(持ち上げられない)からと。どうしてもダイエット出来なくてバレエを辞めた。


中学生なんて成長期の食欲魔神の年頃だ。

ダイエットなんて無理。


思うに、バレエは先天的なギフトがないと、出来ないモノなのだと思う。

もちろん、厳しい練習は絶対だけれど。

絶対条件で細身じゃないと、やっぱりトゥシューズはきつい。

そして、長い手足。

高い身長。

そして、厳しい練習に耐えて技を自分のものにした人が、バレリーナになれるのではないかと思う。


その結果が、優雅につま先立ちして踊れるバレリーナで。

でも、その努力と厳しさに耐えたつま先は、どんな踊りでもおどれるように、堅くなっているのだ。



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