もしかして
PROJECT:DATE 公式
指先を掠めて
七「…。」
からんからん。
手を合わせて、自分の住所と名前を
脳内で唱える。
それから、今年頑張ることを
浮かべようとして、
ほんの少し突っかかる。
蒼先輩に現代で生きてほしいと願って以降、
蒼先輩と出会えていない。
家に行ってももちろん出てくれないし、
…そもそももういないのだろうけど…
一叶ちゃんにだって会えないまま。
先輩の家の近くや
これまでに足を運んだ
図書館や動物園周辺も探検してみたけれど、
蒼先輩の影ひとつすらなかった。
もうどこにも
…私の手の届くような範囲には
いないのかもしれない。
電車を乗り継いだり
歩き続けたりして、
遠く、遠くに向かっているのかも。
誰かを頼って居候すればいいのに、
蒼先輩ならそうしないだろうことが
容易に想像できる。
できてしまう。
朝方、極寒の中震えて
眠っていないだろうか。
お腹が空いて蹲っていないだろうか。
七「…蒼先輩……。」
願うことはひとつ。
自分のことなんてどうでもいい。
蒼先輩が無事であれば。
元気に生きていれば。
それだけでいいから。
それだけで。
強く強く願って、
悴んだまま合わせた手を離す。
神様がいるんだったら
人1人の命を救ってくれたって
いいじゃないか。
どうか。
生きていればもちろんそれでいいけれど、
あわよくばどこかで再会できたら。
おみくじも引き終えていたので
境内から出ようとしたその時。
暖かそうな外套を羽織った
サイドテールをした女性が
何故か目についた。
初詣をしようとしているようで、
長い列に並んでいた。
真剣な目をしていて…
またはうっかり眠らないように
前を直視しているように見える。
七「…。」
意味もなく直視していると、
偶然その人がこちらへと振り向いた。
おのずと歩くスピードが落ちていく。
まさかこちらを見ると思っておらず、
思わず目を丸くしてしまう。
視線を逸らさないままでいると、
相手は何事もなかったかのように
また前へと向き直った。
髪が揺れ、マフラーに垂れる。
それを見て、私も元の方向へと
…蒼先輩を探すため、
今日も駅の方向へと向き直る。
七「…誰だったんだろう。」
見たことあるような、ないような。
でもそんな人ってたくさんいるし。
きっと偶然気になっただけ。
凍える昼、カイロを片手に
できるだけポケットに
手を突っ込まないようにしたまま
リズムよく足を踏み出した。
もしかして 終
もしかして PROJECT:DATE 公式 @PROJECTDATE2021
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