05 百年アヤカシと千年樹
煙の
コダマと名乗った男は建築現場で働いているような作業服を着ており、髪をオールバックにしてきちんと身なりを整えている。老人の姿でいる
この建物は前々から取り壊す計画になっていて2週間後に解体作業が始まる。最終チェックの際に家を守る
「クロムの説明が下手で正しく伝わらず、大変失礼しました。
そして
老人は黙ってコダマの話を聞いていた。頭を下げられたが納得がいかず口を開いた。
「取り壊しになることはわかった。
それでもこの家を離れるつもりはない。
家人が帰ってくるのをここで待つ!」
ここにとどまることができないのはわかっているはず。それでも
「家の持ち主はお亡くなりになっています。
相続する者がいないため手入れができない。だから老朽化が進んで崩壊の危険性が出てきました。それで取り壊しが決まったのです」
老人は目を見開き言葉を失って
「ヒトの一生はとても短い。
あっという間に
ヒトと
しみじみと話すコダマに視線を向けた途端に老人の表情が変わった。
「あなたは……木の精霊……いえ、御神木だった方ですね。
あなたほど長く時を過ごせばヒトの嫌な面をたくさん見てきたことでしょう。それなのに、どうしてヒトといるのですか?」
(
でもこの方と一緒にいる人間は特殊なようだ。
ヒトを好きでいられて、共にいたいと想える大切な者なのだろう……。
私にもそんな人たちがいた)
わだかまりが消えて自然と笑みがこぼれた。老人は晴れ晴れとした顔で宙を見た。
「家人が帰らぬのなら私の役目は終わりです。
ここから去りましょう」
「……私たちと共に来ますか?」
「お気遣いは大変ありがたいのですが、あちら側で家人と再会したいのです」
「そうですか」
「教えてくださり、ありがとうございました」
老人は深々とおじぎをするとゆっくりと姿を消した。
パキッと乾いた音がして老人の背後にあった大黒柱に大きな
「お疲れさまでした」
樹神は柱に触れて家を後にする。少し離れると家はゆっくり倒壊した。崩れた家の中から光る丸い玉が現れると、ふわふわと舞い上がり天へ消えていった。
見送った樹神は地上へ視線を戻すとため息をこぼした。
「宇咲さんはどうして私の邪魔をするんですか!」
「邪魔? 違うわよ。
アンタがとろいから手伝ってあげたんじゃない!」
「手伝いはいらないって、いつも言ってるじゃないですかっ」
「ワタシがいないと何もできないくせにぃ~」
「もうやめなさい。
ヒトが目を覚ましてしまいます」
注意しても白熱して耳に入っていないようだ。
「……いい加減にしないと
ぎゃいぎゃいとうるさかった声がぴたりとやみ、少女と猫又の動きが止まった。示し合わせたかのように同時に振り向くと叫んだ。
「「それだけはダメ!」」
あっさりと喧嘩をやめ、
「ちょっとふざけただけじゃない。悪かったわ」
「すみません。もう大声は出しませんっ」
樹神は黙ったまま必死に謝り続ける様子を見ている。そのうち表情を緩めて口を開いた。
「帰りましょうか。
クロムくんはヒトに
「任せてください」
「ワタシは警察へ連絡すればいいのね?」
「ここから10分ほどの場所に公園がありました。
そこへ連れて行くので20分後に電話をかけてもらえますか?」
「わかったわ。じゃあ、まったねぇ~」
手を振りながら少女は軽い足取りでビルの合間に入っていった。猫又は再び若者の姿に変わると眠っているビジネスパーソンを背負った。
樹神が先を歩いて
――― 『
凍星の街 神無月そぞろ @coinxcastle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます