甲子園優勝女投手をプロで勝たせます。

@Auroraarc

第0話 抱き合わせキャッチャー、入団


『甲子園大会初の女子胴上げ投手に輝きました!英菫はなぶさすみれ!』


地方の高校だからといって、簡単に公立高校が甲子園に行ける訳じゃない。

ただ、英は素晴らしいピッチャーだった。

中学軟式と同じように、女子でも男子と同じ大会に出れるルールが制定されても、賢明な女子は勝負にならないと思い、女子野球の頂点を目指すだろう。

ただ、英は情熱と才能を与えられていた。


ドラフト会議で3球団から競合され、北海道の球団に入団した彼女は、オープン戦でノーヒットノーランを記録した。

「しかし、それ以降は打ち込まれることが増えた。一軍でも二軍でも捕手のリードが合わない、というか研究されて狙い打ちを受け続けた……って訳でさ。」

「ほう、」

「だからアンタを指名してもらったって訳。」

「選手の一存で決められるなんて、球団側はお前のことが大事でしょうがないんだな。」

俺は社会人野球でただ野球を楽しんでいたのだが、ドラフト最下位での思ってもいない指名の後、こうして英と2人で入団交渉の席に座っている。

「こういうのって、球団職員とか、偉い人とするもんじゃないのか。」

「それは後でやるんだって、今は入団を決めてもらうために私が必死に交渉してるでしょ。だから入団して!」

「いいぞ。」

「マジ!?」

「俺はこう見えてお前のことが大好きなんだ、お前のような素晴らしいピッチャーがこのまま飼い殺されるのかって心配になって夜しか眠れなかったくらいだ、だから入団する。」

「ときめくなぁー、うれしい。」

「ちなみに、今は何キロくらい出るんだ?」

「140中盤くらい?」

「そうか、お前ならそれでもタイトルが取れる。これから頑張ろうな。」

「うん!」

球団職員と英が入れ替わるようにやって来て、俺にプロの世界でのどうたら、みたいなことを教えてくれた。

「最後に、監督は君に『扇要介はね、完全なバーターになってほしいんだ。』と言っていました。彼は全く期待をしていません。本当に頑張ってください。」

それなのに入団させるということは、

「球団の経営陣の、それも一番上の方の意向ですか、女エースなんてめちゃくちゃ話題になりますもんね。」

「そうです。どうしても英はエースにしろと口うるさく言ってくるんです。」

こうして内部の事情を話すことで俺に親近感や同情のようなものを感じさせようとしているのだろうか。いや、考えすぎか。

「でも……そこまで深いところを察しているのに、どうして入団を快諾してくれたんですか?」

「あいつにも言いましたけど、俺はアイツのことが大好きなんですよ。変化球よりストレートで取る見逃し三振が一番好きなところも俺と同じでね。」

職員さんは何を思ってか微笑んだ。


入団会見では意地悪な質問をいくつもされた。

「英選手とのバッテリーのためにバーターのようなポジションを取らされたことはどう思いますか?」

「英選手と恋愛関係のようなものはありますか?」

そうだな、こう答えておこう。

「俺は英を勝たせるためにプロになりました。それくらい英のことが好きですし、最優秀バッテリー賞は絶対獲りたいです。

タイトルを獲れるほどの打撃も守備もないが、それだけは譲らない、そんな気持ちですね。」

監督の言葉、完全なバーターの意味はきっとある。監督は俺に何かしらの期待をしている。

それならば……俺はバーターを全うするまでだ。

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