第10話 カナリア王子 (2)

狭い隙間にボールを入れて、黄色いユニフォームを着た野蛮人たちに背中と後頭部を殴られる。


ベンチをちらっと見ると、次の戦術指示の準備でアイタミを呼ぶのに混乱している。


ヘッドコーチは70分まで守備的に運営しろと指示したが、後半64分。カストロとスルニッチ、そして私まで。ミッドフィールダーの攻撃参加なしでもスコアはいつの間にか同点だ。


さらに、フエンラブラダの選手が一人退場したので、11対10の戦いだ。


ラス・パルマスの選手たちは私の後頭部を叩くのをやめてハーフラインに戻るが、カストロが近づいてきて優しい声で褒める。


「見るたびに上手いね。このままだとすぐに俺のポジションも奪われそうだ。」


「ペカルトがいるじゃないか。」


「…そうだな。もっと頑張らないとな。はは。」


カストロは私の言葉にハッとしたようだった。そう、ペカルトは先発ポジションを奪う上で最大の障害だ。いつの間にか4ゴールも決めている!


「早くもっと点を取ろう。」


「そうだな。ボールを送るよ。ライオスが声を上げているのを見るとラインを上げるつもりのようだから、チャンスはたくさん出てくるだろう。」


「うん。守備は簡単だ。今日は調子がいいからボールをもっとちょうだい。」


「守備が簡単?」


三十七歳のおじさんが目を丸くする。簡単だと言うのは少し生意気に見えただろうか?


「調子がいいんだけど、とにかく守備を破るのは簡単だ。」


「そうか…はは、それは良かったね。」


「弱いチームだから。」


「ははは、フエンラブラダは4位だ。弱いチームではないよ。」


4位だって?


「俺たちより下じゃないか。」


「そうだ、俺たちより下だね。」


すっかり守勢に回ったフエンラブラダに対して、ラス・パルマスはラインを高く上げた。中央のディフェンダーもハーフライン近くまで上がり、試合内容は一方的に進んでいた。


おかしいことに、猛攻を開始すると、逆にラス・パルマスの選手たちが正気を失っているようだった。


ビエラのパスが相手のフルバック、アントニオの足に引っかかる。これで三度目だ。フエンラブラダがよく防いでいるのも事実だが、全体的にパスや連携がうまくいっていなかった。


「ヒュウガ!中央に移動しろ!」


ベンチからライオスヘッドコーチの指示が聞こえた。試合が終わると喉が枯れて相当苦労するのではないかと思うほど何度も叫んでいる。


70分を過ぎて5分が経った頃、サイドを突破したデ・ラ・ベラのクロスがカストロの頭に当たり、ゴールの左側に飛んでいくが、飛びついたゴールキーパーの見事なセーブに阻まれる。


あれを防ぐとは。スタジアムは残念そうな声で溢れる。


デ・ラ・ベラに拍手を送ったカストロは、私と目を合わせ、次の攻撃機会に中央のポジションを譲るという合図を送ってきた。


相手ゴールキーパーのゴールキックが転がってフエンラブラダの右サイドバックに渡る。無理に攻める理由がなかったフエンラブラダは、守備陣とミッドフィールダーが連携しながらボールを回す。


「圧迫しろ!」


「カストロ!右だ!」


その間に体力も温存していたし、攻撃陣がミッドフィールダーと協力して強い前方からのプレッシャーをかけているときに、カストロの足先に触れたボールが再び相手のミッドフィールダーに戻る。


惜しかった。


ボールの所有権を取り戻した27番の選手は、プレッシャーを逃れると同時に、唯一ハーフラインを越えているプライレ・ウーゴにボールを送った。


デ・ラ・ベラとキリアン・ロドリゲスが協力して守備のために狭めた空間で、プライレ・ウーゴは両足でボールを運び、わずか2回のタッチで守備を無力化する。


デ・ラ・ベラが身を翻してプライレ・ウーゴを追うが、すでに加速した相手選手との距離が広がった。


不安な気持ちでハーフライン下に下がって守備に加わろうとしたが、ヘッドコーチの叱責を受けてカストロと位置を変える準備をした。


「ロディ!ロディ!!マルティネスをマークしろ、9番だ!9番を見ろ!」


アイタミは守備陣を調整する際にミスをし、プライレにシュートの角度を与える。


ペナルティボックスのすぐ外で、アイタミを抜けて中央に移動したプライレのシュートがレモスに当たり、偏向してラインを外れた。笛の音と共に審判がペナルティボックス内を指さす。


くそっ。プライレ・ウーゴのシュートがレモスの腕に当たったのだ。


体に手をつけていない状態で腕の先に触れたボール。遠くから見ても一目で分かるハンドボールの反則だ。抗議するアイタミも判定が覆らないことを知っているだろう。


今回もマルティネスがラス・パルマスを救うことができるだろうか?


「Eyee-! guardameta estar ocupado(ゴールキーパーが精神的に忙しいね)~」


「大丈夫、まだ勝てるよ。」


頭を垂れて自責の念に駆られるレモスを慰める選手たち。スコアは2-3。再びフエンラブラダが1点リードする。


ポジティブなことはまだ80分になっていないことだ。


カストロのパスがアイタミに向かう。アイタミはデ・ラ・ベラ、レモスとボールをやり取りしながらラインを上げ、近づいてきたキリアン・ロドリゲスにボールを渡す。


私はフエンラブラダの中央に密集した赤いユニフォームの間に入り込み、カストロは右サイドに位置を変えて移動していたが、依然としてペナルティラインの内側にいた。


高く上がった右ウィングバック、アルバロがキリアン・ロドリゲスの攻撃方向を転換するロングパスを受ける。


「アルバロ!」


手を挙げたカストロとスルニッチを見たアルバロは、対角線上のペナルティボックス内に一気にクロスをつなげた。


ポンという音と共に空中にボールが現れる。ボールの軌道はカストロに向かっていた。ただ、ボールは少し高い。このままではボールがカストロを通り過ぎ、相手ゴールキーパーに行くのが明らかだった。


考える前に体が先に反応する。


私に張り付いた守備選手を振り払うために、中央と左側に動くフェイントを織り交ぜた後、横に回って右側にいるカストロとゴールキーパーの間のスペースに入り込む。


ペナルティボックス内に曲がって入ってきたボールは、カストロとフエンラブラダの守備選手の誰の頭にも当たらず、そのまま通過した。


シュッと視界に現れたボールは落ちる位置が高く、太ももで落とした。


フエンラブラダの密集した空間が選手たちの視界を遮り、守備選手の反応を鈍らせる。そのおかげで非常に狭い場所でゴールキーパーと一対一の状況に。こんなチャンスを逃したら、悔しくてまともに眠れないだろう。


右足で低く蹴ったボールが飛び出してくる相手ゴールキーパーの脚の間を通り抜ける。主審の笛と、副審の旗を確認したら、胸を張って言える。同点ゴールだ。


一人退場したチームに、それも自分たちより順位の低いチームに負けるのは悔しすぎるじゃないか!


「よくやった!」


「このやんちゃな奴め!」


「叩くな!あっちへ行け!」


毎回ゴールを決めるたびに暴力にさらされるのは大きな欠点だが、ゴールを決めることほど気持ちの良いことはない。


くしゃくしゃになった相手選手の顔を見るのもいいし、エスタディオ・グラン・カナリアに音楽と歓声が満ちるのもいい。


「Está loco! この狂ったカナリアめ!最高だ!」


「歌を歌え!歌を!」


「Hay un príncipe en Canarias~ El príncipe vino de Japón!」


どこであんな奇妙な歌詞を作ってきたのか、ラス・パルマスのファンは試合が再開した後もずっと楽しそうに歌い続けた。


「カストロ、また右に行くぞ。」


「わかった。気楽にしろ。三点目も決めるんだ。」


私は後半82分に再びパスを受けた。右サイド上部で受けたボールの前には、私が入ってくるのを待っているハイエナが4匹いた。


運に任せてスペースに突っ込むのは愚かな選択だった。正確には…あの間を無事に通過する自信がない。


一瞬ためらっている間にウィングバックのアルバロが横から飛び出し、攻撃陣に駆け込みながらボールを要求する。無理な要求だった。


手を振って怒っているアルバロを無視してレモスにボールを回す。


「どうするべきか。」


スルニッチと位置を変えようかとも思ったが、そんな動きをするには試合が一方的すぎた。


ウィングバックがウィングの役割を代わりに果たしている状況では、ペナルティボックス付近で位置をどう変えても同じことだろう。


かといってボックス外に動くとフエンラブラダの選手たちが位置を取ったまま動かない。


忍耐強い猛獣になりたいが時間がない。ペナルティボックス外、ビエラのシュートが再び守備壁に当たって横に弾かれる。


デ・ラ・ベラのドローイングパスを受けてボールをドリブルしながらペナルティボックスの近くをうろうろした。どこかに突っ込める場所はないかと探しながら。


カストロは一生懸命に身体をぶつけ合ってくれているが、タッチが荒く、狭いスペースでの連携は無理だ。


スルニッチはエンジンが故障した車のようにハァハァと息を切らしていて、攻撃的ミッドフィールダーのビエラも同じだ。


「もっと動け!」


「ヒュウガ!」


パスを要求する選手たちの叫びが苛立たしかった。70分以降に攻撃するようにライオスヘッドコーチがあれほど言っていたのに。


それまでの攻撃も私とカストロが全部やっていたのに、いざ必要な瞬間に競り合いながらスペースを作ってくれる選手がいない。


「ああ、くそ。」


久々に日本語での罵りだった。長く並んだハイエナたちが私を待っている。復帰戦から全身にアザを作る運命だったんだな。


罵りをつぶやきながら、正中線を引いたかのように待っている相手のミッドフィールダー二人のうちの一人を選ぶ。交代で入った選手よりもずっと走っている8番が良さそうだった。


8番の正面に向かって速度を上げて入っていく。中途半端に相手選手の間に入ると倍の苦労をする。


8番の足が届かない微妙な範囲で素早く動き、協力守備が入る前に突破するのが最も重要だった。


「うっ!くそっ。」


微妙な距離に入るや否や、相手の手が肩のユニフォームを掴む。観客の目にはそう見えるだろう。相手8番が掴んだユニフォームの半分は私の皮膚と筋肉だ!


握力の程度とは別に、相手選手もまた反則の笛が鳴らないように適度な強さで引っ張り、バランスの争いに持ち込んでくる。


私は手を振り払うためにむしろ相手の身体の内側に入った。主力で少しずつ先行し始めると、関節の限界でユニフォームを掴んでいた相手選手の手が緩んだ。


この間にも、スライディングタックルが入らないようにボールの速度も調整しなければならない。


強弱中弱。昔、太鼓の時間に習ったことが役立つときもある。ぶつかり合う太ももと肩の筋肉で方向転換のフェイントも混ぜる。


できた。


8番の右太ももの筋肉に力が抜ける。左に肩を入れるフェイントに反応して動くのだ。右に動くために筋肉に急ブレーキをかけると、8番は自分でバランスを崩して倒れた。


マークが外れると、相手守備ラインはペナルティボックスへの侵入に対してより神経質に反応する。


集中力の戦い。ためらう瞬間に囲まれてボールを奪われるだろう。手振りと目の動きもフェイントに使う。使えるものは全部使うんだ。


手でカストロを指し、ペナルティライン左側に中途半端に立っていたスルニッチの前のスペースを見る。刹那の瞬間、キャプテンマークを巻いた中央ディフェンダーが反応した。


「Flores! derecha(右だ)!」


そうだ、右が空いてるな?そこには行かないよ。


感触が良い。

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