最終話 天使の素顔

次の日から、また乃衣が学校に通い始めた。

乃衣はエーテルが足りなくなると俺の側へやってくるようになった。

隣に座って、俺の方に頭を乗せて目を瞑る。

時には、ベンチで俺の膝を枕にして、寝転ぶ。

乃衣のエーテルの消耗が激しい時は、人目のつかないところに移動して、身体を接触させる。

傍目から見ると恋人が抱き合っているように見えるかもしれないが、これは乃衣の霊的パワーの補充なのだ。

断じてエロいことをしているわけではない。

誤解しないで欲しい。

手を繋いで歩いたりもしているが、これも乃衣にエーテルを分けているだけで、別に付き合っているわけではない。

誤解を招きかねないことも承知している。



教室で乃衣が隣に座って俺にもたれていたら学級委員長が話しかけてきた。

「ねえ、新谷さんって相馬君にいつも寄り添っているけど、やっぱり二人は付き合っているの?」

「あ、いや……そういうわけではないんだけど……」

「でも……恋人同士じゃないとできないことを、いつも二人はしているような気がするけど……」

「まあ……そう見えるよね、あははは」

とりあえず笑ってごまかす。

「新谷さんが学級に馴染んでくれて良かったよ。相馬君とも仲良くなれたみたいだし」

委員長もにこやかに微笑む。

その時、乃衣が俺にもたれたまま呟いた。

「確かに、私たちは仲が良くなったと思う。」

「そうね、本当に良かったわ」

「私たちの身体の相性は最高だから」

「えっ⁉」

「オイッ⁉」

急に乃衣がとんでもないことを言い始めた。

「栄輝と私は部屋で秘密を分かち合った。あなたには言えない、とても気持ちの良いことをした」

「ええええっ⁉」

委員長の顔が赤くなる。教室も騒然となり、乃衣に注目が集まる。

「やめてくれ!なんだかイヤらしい!」

乃衣が言っていることは決して間違ってはいないが、非常に誤解を招きかねない。

というか、既に誤解を招いてしまっている。

「彼に抱きつくと私の体が炎の様に熱くなり、空も飛べる。視界が光で溢れ、美しい音楽が鳴り、最高に気持ち良くなる。」

「あああああ~~~~~‼ 乃衣、やめろ~~~~‼」

確かに俺たちは一緒に宙に浮いたが、この表現ではどう考えても「違法なお薬をキメてエッチなことをしている危ないカップル」である。

「ひっ、卑猥……淫猥……」

委員長は顔を真っ赤にしてブツブツ呟きながら固まっている。

陽キャギャル軍団はニヤニヤしながら期待に目を輝かせて乃衣を見つめている。

男子連中の冷たい目線が俺に集中している。


————ヤバイ。これは、本当にヤバイ。


「私たちは何度も肌を重ねているから、強く結ばれている」

「私は栄輝無しではこの世界では生きていくことができない」

「栄輝は私の命」

「栄輝以外には何もいらない」


次々と投下される爆弾発言。

騒然となるクラス。

歓声を上げ、口笛を吹き、はやし立てるギャル軍団。

完全に沸騰して真っ赤に茹で上がってしまった委員長。

殺意満点で俺を睨み、イライラした様子で机をバシバシ叩く男子連中。


「新谷さん、相馬くん、ちょっと話があるので、職員室までいいですか?」

気がつけば、引き攣った笑みを浮かべた担任の先生がいた。

乃衣は、俺を見ると、天使の笑顔で悪戯っぽく微笑んだ。



こいつ、絶対、わかってやっていたな。



堕天使じゃねえか。

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空から舞い降りた天使、スキンシップが激しすぎる 三角テトラ @tonyallenbeat

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