天辺からつま先まで

野林緑里

第1話

 彼女が訪れたのは雪の降る年の暮れだった。


 みすぼらしい格好をした彼女が店に入ろうか入るまいかと迷っていたところに僕から話かけたのだ


「えっと、クツを……」


 彼女は戸惑いながらいう。


「クツ? とりあえず、中へどうぞ外は冷えますよ」


 僕は、彼女をエスコートして店の中へと入れる。


 僕の店は雑貨屋で家具やら服などあらゆるものが揃えられている。もちろん靴もあらゆる人間がはけるよつなものを取り揃えている。とはいえども、小さな町の小さな町な店だ。数はさほどあるわけではない。


 それゆえに彼女に合うつくがあるのかがわからないのだ。



「どのようなクツをお求めですか?」


「なんでもいいんです。私の足に合うクツならなんでも構いません!」


「君の足に?」


 僕はそのときはじめて彼女の足元を見た。彼女の履いている靴はかんとも古びていて薄い靴だった。そのせいか彼女のつま先が靴からのぞき込んでいるではないか。しかもそのつま先の色は悪い。決して良い環境の中にいるとは思えないのだ。


 まあ見た感じからいって靴だけ新品にしたところで彼女がみすぼらしいというのは変わらない。


 これは全体的なコーディネートが必要じゃないだろうか。



「あのお」


「あっ、すみません。それよりも靴だけでよろしいですか?」


「はい。それぐらいしか買えませんから」



 そういいながら、財布を取り出す。その財布もずいぶんと年季が入っているようだ。


「所持金がこれだけなんです。これだけで買えるクツをください」


 中身をみせた。



 所持金もさほど入っているわけではない。ここにある靴で果たして買えるかどうかもあやしい。安くに積もったら買えなくもない。



「とりあえず、クツを履いてみませんか? 値段は気にせずに好きなものをどうぞ」


「でも」


「履くだけなら自由ですよ」


「はい。ありがとう御座います」


 彼女の顔がぱっと明るくなる。


 すると彼女は次々とクツを手に取ると試し履きをする。どれもこれも彼女の足のサイズにぴったりなものばかりであった。あとは金額の問題。


 いやまて。


 僕は彼女がクツを履くたびに違和感を覚えた。



 やっぱりだめだな。


 靴だけあっても仕方ない。



「あの。もしよかったら服も替えてみてはどうでしょうか」


「えっ? でも、私には服を買うお金なんてありませんよ」



「大丈夫ですよ。試着だけなら自由です。なんなら僕がコーディネートしますよ」



「そんなこと」


「気にしないでください。試着だけなら自由です。この際ですから天辺から足先まで面倒見ちゃいますよ」


 僕が満面の笑みを浮かべながらいうと、と戻ってきた彼女はお願いしますと頷いた。



 そういうわけでこのみすぼらしい姿をした彼女を全身コーディネートすることになったのだ。


 何着か試し切りをして靴を合わせて、髪型も変えたり、化粧もしたりとあらゆるコーディネートをしていくうちに僕も彼女も納得いくコーディネートができあがった。


 鏡をみた彼女の喜びようは凄まじいものだった。


 店に入った頃はつま先までも汚れまくってきた灰かぶりのような彼女は見違えるようになり、まるで蛹からできた蝶のように艶やかさをひめるようになった。


「ありがとうございます! こんなにすてきな魔法をかけてくださってありがとうござす。でも、すぐ魔法とけちゃうんですのね。やっぱり私のお金じゃあ全部買えないし」



「あっ大丈夫ですよ」


「え?」


「お客様の所持金で買える金額でコーディネートしましたので」


「えっ? 本当に?」


「はい。本当です。まあ、ギリギリでしたけどね」


 彼女は意気揚々と財布に入っていた所持金を全部出した。僕はそれを1枚ずつ数える。


「大丈夫です。足りますよ。お釣りが来るぐらいです」


「本当?」


「はい。お釣りです」


 僕はお釣りを渡す。



「ありがとうございした」


 そういって彼女は軽い足取りで店を出ていく。



「ありがとうございました。雑貨屋「つま先」へまたのお越しを」


 彼女が聞こえているかどうかわからないが、僕はとりあえずいつもの笑顔を浮かべながらいつもの送り出す言葉を言った。


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天辺からつま先まで 野林緑里 @gswolf0718

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