宇宙人の脱法

ちびまるフォイ

知らぬがホトケ

「この! 観念しろ!!」


「……!」


「全部見ていたからな!

 お前がバッグを奪ったところも!

 現行犯だ! 逃さないぞ!!」


しっかり手錠をかけた。抜かりはない。


「一つだけ言うことがあります」


「ばかか。犯罪者と交渉はしないぞ」


「私は宇宙人です」


「……えっ?」


皮膚にほどこされていたコーティングが剥がれる。

手錠をつけられた宇宙人があらわになった。


「私をどうする気ですか?」


「えーーっと……どうしよう……」


警察は本部と連絡を取った。

本部も対応に困っている様子。

とりあえずビールみたいなノリで、とりあえず護送となった。


警察署に到着したが解決策が出るわけでもない。


「で、どうする? あの宇宙人」


「どうすると言われても……」


「人間の法律的には強盗なんだよな?」


「ええ間違いなく」


「ちょっとそこの罪の意識あるのか聞いてみろ」

「はい」


取調室に警察官と宇宙人。

人類史にきわめて貴重なシーンのはずだがあまりに殺風景。


「お前は強盗という概念がわかっているか?」


「ゴウトウ……?」


「人のものを盗むのは地球じゃ犯罪なんだ」


「私の宇宙ではその星に住まうすべての生物は共有財産。

 断りなくても貸し借りできていました」


「あのな! お前の星じゃどうかしらんが、

 ここは地球だ! 地球のルールに従ってもらう!」


「そうですか……」


「だがお前は宇宙人。人間の罰として適用できるのかもわからないのが現実だ」


「はあ」


「だからって逃がすわけじゃないからな」


「それはわかっています。この星では犯罪なのでしょう?」


「そうとも。お前が知ってる知らないに限らず、な。

 知らないからといって人を殺していいわけじゃない」


「もちろんです。ですが私の処遇に困っていると?」


「そうなんだよなぁ……」


「ではこうしましょう。もし私を解放してくれれば、

 私はあなたたちにこの宇宙の情報を教えます」


「なんだと?」


「あなた達が知らない情報です」


「その情報とひきかえに解放しろって交渉してるのか?」


「私は宇宙人。人間の裁判もできませんし、刑務所に入れても

 私の食事の提供だけ特別なものになります。面倒でしょう?」


「そりゃたしかにそうだが……。ちょっと考えさせろ!」


いったん警察官は取調室を出て本部と相談。

もちろん結論など出るわけもない。

宇宙機構に聞いてみれば?とたわい回しになった。


宇宙機構MASAは話しを聞くなりテンション爆あがり。

すぐに現地へプライベートシャトルですっ飛んできた。


「宇宙人が!!! いるんですって!!!!??」


「すごい熱量!」


「おお! あれが宇宙人!! すぐに解剖を!!」


「何言ってるんですか。今あの宇宙人の処遇を決めようとしてるのに」


「処遇? 宇宙人ですよ? 人間のルールなんて意味ないです」


「それはわかってます。だから困ってるんです」


「宇宙人はなんて?」


「まだ我々が知らない宇宙の情報を渡すから

 その代わりに解放してほしい、と」


「宇宙の!!!!?? 情報!!!!!!」


「うるせえな。声でけえよ」


「迷うことなんてないでしょう!?

 宇宙の情報ですよ! それもまだ我々が知らない!

 下手すれば一生手に入らない情報が得られますよ!!」


「しかしそれで罪をチャラにするというのも……。

 金を渡されて罪を見逃すようなものでしょう」


「あの情報の価値がわからないんですか!?

 金をもらうのとでは次元が違うんですよ!!?」


「しかしここは法治国家だ。

 宇宙人にも罪をつぐなってもらって……」


「罪の概念がない宇宙人になにを償うっていうんですか。

 ライオンが狩りをするたびに祈りをするように、と強制するのですか?」


「そうは言ってないが……」


「はやく! はやく宇宙の情報を!! 聞きましょう!」


「あんたそれが知りたいだけだろうが」


警察の本部と宇宙機構による白熱した議論は続いた。

宇宙人をいったいどうするか。


人間として処分するべきか。

宇宙人として扱うべきか。


意見はまっぷたつにわかれたが、

もし宇宙の情報を聞き出さなければ地球を滅ぼす。

と、宇宙機構がおどしをかけてきたので宇宙人解放となった。


「なんて脅しをかけるんだ人類の敵め」


「いやいや。宇宙の情報を聞かないほうが

 地球を滅ぼす以上の危険な行為ですよ」


処遇が決まったので警察官は取調室へ戻った。


「おい宇宙人。お前の処遇が決まったぞ」


「人間として罰を受けるんですね」


「いいや解放だ。その代わり宇宙の情報を教えてもらう」


「いいんですか? 罪を償わなくても?」


「お前を犯罪者として罰するよりも

 圧倒的なメリットが有るということだ」


「そうですか」


「ただし、ひとつだけ誤解するな。

 お前は解放されるが犯罪をゆるしたわけじゃない

 

 知らなかっただろうが、お前は罪を犯した。

 知らなかったとしても罪を受け入れる必要がある」


「ええ、わかっています。

 なので私は宇宙の情報を提供します。

 本当は門外不出ですが、罪滅ぼしのひとつです」


「よし、それじゃ教えろ。

 まだ地球人が絶対に知らない宇宙の情報を」


全員が聞き耳を立てた。

宇宙人のつぎの言葉をひたすらに待つ。


宇宙人は初公開である宇宙の情報を話した。




「母性を温暖化させることは、宇宙法律において重罪なんです」



全員が耳を塞いだ。

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