心無き機械天使たち

アルル・ファランドール

第1話 機械天使の目覚め

システムチェック、オールグリーン…

「システム再起動します。」

森の中、静かな空気が流れる所で彼女は目覚めた。白い機械の翼を動かして動作に問題がない事を確認して彼女は動き始めた。

彼女は何故目が覚めたのか、ここは何処なのか、自分自身は何者なのかそれすらも知らない。覚えているのは人を守るという使命だけ、それ以外は彼女にとって気にかける事ではない。ただ使命を果たす、そのプログラムだけに沿って行動する様にしか出来ていない。小鳥の囀りや木の揺らす葉から差し込む光も彼女にとっては気にする事もなければ何も感じない。

「動作確認完了、行動に支障はありません。行動を開始します。」

向かうべき先も何も知らない、それでも彼女は前に進む。使命を果たす為に…

歩き続けて暫く経った頃、静かな森の中叫び声が聞こえる、彼女はプログラムに従い叫び声の方に駆けつける

「誰か助けて~!」

彼女は声の聞こえる方を向いた、そこには今にも木から落ちそうな一人の少女がいた。

「保護対象を確認、救助します」

そうつぶやいた彼女は白き翼を広げてバーナーを蒸かし空を飛び少女を抱きかかえ地上に降りた。白い翼を携えた彼女の姿を見た少女は呟く

「天使さま…!?」

その言葉に反応して彼女は答える

「いいえ、私は天使ではありません」

素っ気ない回答に気を取られていたが少女は助けられたことを思い出し頭を下げつつお礼を述べた。

「ええと…おねーちゃん助けてくれてありがとう!空を飛べるなんてすごいね!そうだ!名前はなんて言うの?私はフィリアって言うの!おねーちゃんの名前は?」

「私に名前はありません」

「それじゃあ何て呼べばいいの?」

彼女は暫く判断に迷ったがシステム名を伝える事にした。

「私はAngelic.Intervene.Goddes.Instead.System」

「えんじぇ…?おねーちゃんの名前長いよ〜」

そう言いながら少女は不思議そうに彼女のまわりを歩きながら見る。すると背中についてる機械にシステムの頭文字を集めた文字列を見つけた。

「A.I.G.I.S?決めた!おねーちゃんの名前はアイギスね!」

そう言われた彼女は自身に名称がない事に不都合が出ると判断しその名前を使用する事にした。

「私はアイギス」

「うん!アイギス!良い名前だね!それにしてもアイギスは頭の上にピカピカのわっかもついてるし、白い羽もあるし、何よりもさっき私の事助けてくれたし、本当は天使さまなんでしょ?」

フィリアは目を輝かせながらアイギスに質問する。けれども彼女から返ってくる言葉先ほどと変わらない。

「いいえ、私は天使ではありません」

「アイギスってよくわかんない…さっきから私の言葉に対してもそっけなく返すし…でも!さっき助けてくれたし良い人だよね!」

不貞腐れながらもアイギスの事を目を輝かせてみるフィリア、アイギスはずっと彼女を見つめたまま動かない。

「それにしてもどうして森の中に一人でいるの?村の人じゃないし何処かに行く途中だったの?」

「私に行くべき場所はありません」

フィリアは少し悩んだところ言い出した。

「そうだ!何処に行くかわからないなら私の村に来ない?大人ならアイギスの事よくわかるかも!そうしましょう!私に着いてきて!」

フィリアはアイギスの手を掴み走り出した。アイギスは力を込めれば動かない事も容易いがプログラムに従い人を傷つけない為彼女に引っ張られながら着いていく。

この少女についていけばより多くの人間と会うことが出来ると判断しつつ歩みを進める。

森を進んでいく中、フィリアは鳥が飛んでいるのを見つけた。

「アイギス!見てみて!鳥さんが飛んでるよ!おうちが近くにあるのかな?アイギスはどう思う?」

アイギスはフィリアが指さす方向を見つめる

「鳥を認識しました。危険性はありません」

「アイギス~なんかどこか冷たい感じがするよ…もっとこう…かわいい!とかきれい!とか出てこないの?」

「私には判断する必要のない情報です」

「アイギスってつまんないの~」

そういうフィリアをアイギスはずっと見つめたままでいた。

しばらく歩き続けたのち、フィリアは急に走り出した。

「アイギス!あっちにみえるのが私の村だよ!早く行こうよ!」

走るフィリアを追いかけるようにアイギスは足を速める。

「みんな~ただいま~!帰ってきたよ!」

フィリアが村の広場にいる大人たちに声をかけた。気が付いた大人達はフィリアの方をみて手を止めた。それもそのはず、フィリアの後ろには人とは思えない翼をつけ、頭の上には光輪があり、背中には人の腕のように動く盾を持った一対の腕、少女には似つかわしくない白い髪、生気を感じられない虚ろな青い目、アイギスの姿を人間だと思えるものは誰もいなかった。

アイギスは村の大人達に向かって名前を告げる


「初めまして、私はアイギス、あなたの名前は?」


静けさが漂う中、アイギスの言葉だけがあたりに響き渡っていた。

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