三話 死ねなかった帰還兵

「ちょっと、これどういうことよ!」

 そのころフユミは自警団のメンバーに拘束されていた。場所は集落の離れにある自警団のアジト。

両手を結束バンドで縛られ身動きも取れず椅子に座らせられている。

周囲には自警団のメンバーがニヤニヤしながらフユミを取り囲む。アフロやモヒカン、リーゼントの男たちは自警団というより世紀末のヒャッハーという風貌。

そして彼女から取り上げられた所持品はブルーシートの上に並べられ物色される。

「すげぇ…この女まだガキなのに各種TOKUSATU免許もってやがる!」

「ばっかそんなのどうでもいいだろ。護身用の銃もサバイバルナイフも最新モデルだぜ!」

「こりゃあのバイクも持ってくるべきだったな」

 フユミは脚をジタバタさせて暴れるが拘束はびくともしない。

「これは犯罪よ!団長を呼んで!!訴えてやるんだから!!」

「うっせぇ!!ガキは黙ってろ!」

 モヒカンの自警団員が怒鳴る。少しするとうさん臭い雰囲気を醸し出すふくよかな中年男性が現れる。

他のメンバーが彼に敬礼したことから彼が団長だということをフユミは理解する。団長は笑顔でフユミに話しかける。

「初めましてフユミさん。私この集落の自警団の頭をしているヌマワといいます」

「これはご丁寧に。早速だけどこれどういうことです?今回の探索でご協力いただけるって話をうかがっていたんですけど?」

 額に青筋を浮かべながらフユミは尋ねる。ヌマワは笑顔を崩さずに答える。

「いやいや冗談きついですねフユミさん。そんなの嘘に決まってるでしょう。第一我々に何のメリットがあるというのですか」

「説明したじゃないですか!!鋼帝でしかゲムバを倒すことができないんです!!その鋼帝を動かすためにも!」

 そこまで言ったところで自警団たちが笑いだした。あるものは腹を抱え、あるものは涙を流し、あるものは壁を叩きながらフユミを嘲笑する。

「こいつ何言ってるんだ?腹いてーー!!」

「誰かこいつを黙らせてくれ!!」

「だめだ!苦しい!」

「ゲムバを倒せるわけなんてないのにばっかじゃねぇの!!」

「これだから常識のねぇ楽園のガキは!!」

ヌマワもクックックといった感じで嗤っている。

「まぁそういうことです。ゲムバを倒すなんて絵空事、本気にすると思うのかな?」

「じゃあなんで私をだますような真似したのよ!嫌なら嫌ときっぱり断ればいいじゃない!」

「わかってないなぁフユミさんは」

 ヌマワは席を立ちフユミの頬に手をかける。そして空いている左手でブルーシートの上の所持品を指さす。

「楽園製の数々の商品!お前にとってたいしたことない物でも我々にとっては高級品だ。我々も安い給料で働いていてね、税金も高いし生活が苦しいんですよ。臨時収入が欲しいのさ。ま、副業ってところだね」

「最ッ低…」

 吐き捨てるフユミ。その顔には悔しさがにじみ出ている。

「もうひとつ付け加えますと私たちはみんな楽園の人間が大嫌いでしてね。こちらは怪獣相手に命がけの生活を送っているのにあなたたちは安全圏でぬくぬくしていると思いますとそりゃあ腹も立ちますよ」

「……」

 黙り込むフユミ。

「さてぇ…このあたりに駐在している楽園軍に感づかれると厄介ですね」

 ヌマワがフユミから離れると部下はブルーシートを片付ける。そしてアフロやリーゼントの自警団たちが凶器片手にフユミを取り囲む。

「貴方には行方不明になってもらいます。具体的には怪獣に食べられて死んだことになります」

「悪く思うなよ小娘」

 舌なめずりしナイフを舐めるアフロ。フユミには睨み返すしかなかった。アフロがナイフを振り上げる。

「じゃあなほげぇ!?」

 しかしそこでアフロの後頭部に何かが飛んできてアフロはずっこける。飛んできたのは入り口で見張りをしていたスキンヘッドの自警団。

「誰だ!?」

  ヌマワが叫ぶと自警団のメンバーが警戒態勢に入る。スキンヘッドを投げた本人はすぐに姿を現した。

「ジョウイチ!!なんのようだ!?いやそれ以前になんでシャバに!?」

 入ってきたのはジョウイチ。片手には槍を持ちヌマワを睨みつける。

「ちょっと伝えたいことがあったから来たんだが…入り口のやつが通してくれないから力ずくで通らせてもらった。どーも今それどころじゃないようだな」

 ジョウイチが近づくと槍の先が地面に当たりカリカリと音を立てる。

「貴様…こいつを助ける気か!?お前にそんな義理はないはずだろう!」

「ところがぎっちょん。嬢ちゃんは俺を樹から落としてくれた命の恩人だ」

「ジョウイチさん」

 ジョウイチを始末するために自警団のメンバーは構える。対するジョウイチも殺気を放つ。

「そういうわけだから嬢ちゃんに手出すなら遠慮なくぶちのめす」

「なーにかっこつけてんだこら」

 ジョウイチを囲む自警団の中からモヒカン一人近づきがナイフを突き刺すように振り上げる。

「宣戦布告ってことでいいか?それ」

「?」

 モヒカンがジョウイチの一言に反応するより先にジョウイチは動いた。

 手を振り上げたことでがら空きになったモヒカンの脇にチョップを叩き込む。

「あだぁ!」

 モヒカンが怯んだところで今度は右ストレートをブチコむ。モヒカンは悲鳴を上げるまもなく吹っ飛んで気絶した。

「チッお前たちやれ!!相手は一人だ!!」

 ヌマワが指令をだすと怒号と共に自警団が襲い掛かる。各各が持つナイフやバットがジョウイチに振り下ろされる。

「くたばれ!!」

「遅い!!」

 対してジョウイチは凶器が当たるより先に槍の薙ぎ払い。一振りで襲い掛かる自警団たちを吹き飛ばした。

「ぐおぉうああぁ!!?」

 叫びをあげて吹き飛ぶ自警団たち。

「てめぇ!!」

吹き飛んですぐに起き上がったアフロとリーゼントが突っ込んでくる。

「調子に乗るな!」

 アフロのメリケンサックをハメたパンチ。ジョウイチはそれを槍で受け止める。

「もらったぁ!」

 しかしそこにリーゼントの追撃。リーゼントのナイフはジョウイチの顔面に叩き込まれた。

「ジョウイチさん!!」

「へはは!!もろに食らいや…がった…」

 いい気になっていたリーゼントは驚愕する。ジョウイチを突いたナイフはピクリとも動かない。その刃をジョウイチはがっちりと顎で噛みつき止めたのだ。

「こいつ化けも…」

「ルゥウン!!」

 リーゼントが怯んだすきにナイフに噛みついたままのジョウイチはアフロの鳩尾に蹴りを入れ無力化、そのままリーゼントに力いっぱい叩きつけて二人合わせて戦闘不能。

ナイフを口から離してちょっと口を切って出た血をプッとふき捨てる。ギロリと残りの敵を睨む。

「ヒッ!」

ここまで防戦だったジョウイチは攻撃に入る。数人かたまった自警団の懐に飛び込むと真下から横に持った槍でかちあげる。

「ぐぅ!?」

「へぇん!?」

 かちあげられたメンバーはそのままノックダウン。あっという間にフロアのメンバーは全滅、ヌマワは泡を吹いて転がる自警団を見て驚愕する。

「これほどに強いか…噂通りの実力ですね」

「生憎第四次世界大戦の死に損ないでね。てめぇらじゃ俺は殺せねえよ」

 ジョウイチが睨みつけるとヌマワは動けない。そのままジョウイチはフユミの拘束を解きその足でヌマワに近寄る。ヌマワは後ずさりするも遂に壁際に追い詰められた。

「別に殺しはしねえよ。てか他のやつも殺してねえから。けじめで一発山嵐するだけだ」

「それ死ぬやつ!」

「じゃあ豚になるまで殴るか」

「先に死ぬ!」

 ジョウイチがヌマワににじりよる。

「ま、待て!そもそもあなたは何か私に伝えるために来たんでしょう!」

「…あ、そうだった。実はな」

ジョウイチが元の用事を思い出して話そうとしたときだった。

突如地面が揺れ始めた。最初は小さかったが徐々に揺れは大きくなる。

「地震?」

「いや、これは…震源が近づいているような…」

「まさか!?」

 ジョウイチが外に出るとフユミ、ヌマワも後に続く。外に出ると地鳴りはさらに強くなり遂に二〇〇メートル先の地面が盛り上がった。

「グェヴヴオォゥウオン!!」

 聞き覚えのある咆哮にフユミは身震いする。盛り上がった地面が崩れると地底怪獣が姿を現した。

「ガラパ!」

「チッ、やっぱ集落まで来やがったか…ヌマワ!避難指示早くだせ!」

「あ、あぁ!」

「俺は逃げ遅れたやついないか探してくる」

 ジョウイチが駆け出しヌマワが小屋の中のスイッチを押すとサイレンが鳴りあちこちで悲鳴が聞こえる。ガラパは集落の中を歩き回る。邪魔な建物を爪で破壊する。

ガラパの目的は食事。サイレンを鳴らしたヌマワがホイッスルを鳴らすとジョウイチと戦わず待機していた自警団たちが姿を現す。

その手には対怪獣用のロケットランチャーが装備されヌマワの指示で陣形を作る。

「撃て!!」

 ヌマワが指示を出すと砲撃が始まる。全弾がガラパに命中しガラパは苦悶の顔を浮かべる。ヌマワはすかさず無線を取り出すと本拠地へ指示を飛ばす。

「戦車隊、ガラパの左右に回り込んで攻撃、絶対に誰も死なせるな!」

 腐っても自警団の団長、その統率力にフユミは感心した。まもなくガラパの左右に戦車隊が展開する。しかしフユミはその車両を見て愕然とした。

「ちょっと…何アレ」

 その戦車というのはジープや軽トラの上にガトリングガンや捕鯨砲を乗せただけの物だった。当然そんなものがガラパには通じない。

「仕方ないでしょう、予算が足りないんですよ」

 ヌマワは爪を噛み次の策を練る。その顔を見たフユミは建物の中に駆け込む。そして押収された荷物の中から腕時計状の機械を取り出す。そしてコマンドを入力した。

「ブジンライガーR起動」

何やら操作を完了したフユミは壁に立てかけてあったマシンガンを手に取り戻ってヌマワに話かける。

「ヌマワさん、あと三十秒あいつを足止めしてください!」

「え?あぁ…」

 フユミはリモコンのボタンを押すとマシンガンを構えてガラパに突撃する。

「何をするんです!?戻ってきなさい!」

 ヌマワの静止を振り切って突撃するフユミ。マシンガンを乱射しながらガラパに突っ込む。ガラパは戦車隊に向かって素早く飛び掛かろうとしていた。

その巨体がカエルのように跳びあがると自警団たちは戦車を捨てて逃げ出した。戦車はガラパに叩き潰され爆発、炎上する。そしてガラパは自警団たちに牙をむく。

「止まれえええぇ!」

 マシンガンの弾丸がガラパの顔にヒットする。蚊に刺されたような痛みすら感じていないがガラパは食事を邪魔されたことに苛立ちフユミに狙いを変える。

「グルル…!」

 ガラパは大口を開きフユミの頭からかぶりつこうとする。フユミは恐怖に足をすくませながらもマシンガン構える。その時だった。

「伏せな!嬢ちゃん!!」

 フユミが反射的にかがむとその背後から飛んできた槍がガラパの舌に刺さった。

「ギュオルム!?」

 舌先に突然走った痛みに怯むガラパ。槍を投げたジョウイチがその隙にフユミの手を引く。

「何やってるんだ、危ないだろ!」

「ごめんなさい。でもあと少し時間を稼げれば…」

 ジョウイチが声を荒げ二人でガラパから逃げ出す。しかし槍を吐き出したガラパは一足飛びで二人の前へ回り込む。

怒りに満ちたガラパは前足を上げてその爪でジョウイチとフユミを引き裂こうとした、ガラパを睨むジョウイチとは違いフユミはガラパの背後から飛んでくる物を見て呟いた。

「クソ…」

「来た!!」

 ガラパの背後から現れたのは大型の人型兵器。ガラパと二人の前に割って入ったロボットはガラパの攻撃をガードし、逆にガラパを蹴り飛ばした。

「ギュオン!?」

 ガラパが吹っ飛んでいくのを見たロボットはフユミの方に振り返り手を差し伸べる。胸部のハッチが開くと機械音声が発せられる。

『ブジンライガーR目的地到着、自動運転モード終了』

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アンダーザ怪獣フィート 音無目電子亀 @otonasime

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