二話 鋼帝という希望
ジョウイチがフユミを連れて入ったのはさびれた食堂。店の客層は正直いいとは言えずチンピラやごろつきたちが物珍しそうに二人に視線を向ける。視線も気にせずジョウイチは食券を購入しカウンターに置く。数分すれば料理が届いた。
「ほら、食えよ。うまいぞ」
「なにこれ?スープのないラーメンみたいだけど」
「マジか油そばって楽園にないのかよ。世界で一番うまい食い物だぞ」
ジョウイチがおいしそうに油そばをすするのを見てフユミも油そばを食べ始める。うまくすすることができないが醤油の味が染みこんだ麺の味をフユミは堪能する。
「おいしい…」
「そりゃ何より。それじゃあ改めて聞こうか。ゲムバを倒す手段ってのを」
ジョウイチがフユミに問いかける。フユミも味の余韻に浸るのは終わりにして真剣な目で話し出す。
「最強の対怪獣用TOKUSATU『鋼帝』。それがゲムバ討伐唯一の手段よ」
「今更鋼帝かよ。あれは結局起動しなかった。一部の権力者たちが楽園の起動のためにタキオンエンジンをパクったせいでな。製作者のラウンドは死んだし、再現は今まで成功した試し無。そんなのが何の役に立つ?」
「私だってそう思っていたわ。でも二週間前、闇サイトにラウンドの遺書がアップロードされたの。三分後には削除されたけど」
楽園の外には出ていない情報、フユミがタブレットを取り出しラウンドの遺書と思われる画像を見せる。
「遺書には二つ目のタキオンエンジンとその起動キーの所在地が記載されたわ」
「うっさんくせ…デマとしか思えないんだが」
「でもその後これが投稿されたの」
フユミが続いて見せたのは第二のタキオンエンジンが見つかったという投稿のスクリーンショット。
「これもすぐ消されたけど画像加工の痕跡もなし。写真公開されている楽園のタキオンエンジンと同型ということも判明してるわ」
ジョウイチが油そばを食べきり水を飲む。
「あとは起動キーね。キーは全部で六本。すべて集めないと鋼帝は起動できない」
フユミは再び遺書を見せる。
「そのキーの内一本がこの先…旧青木ヶ原樹海にあるって遺書に記載されているの」
「それで?さっき社員は自分だけって言ってたけど嬢ちゃんだけでキーを取りに行く気か?」
多少興味がわいたジョウイチは質問を投げる。フユミは残りの油そばに手を付けつつ返答する。
「流石にそんなわけないでしょ。事前にここの自警団に協力をしてもらうように契約していてね」
そこまで言ったところでフユミが時計を見る。自警団との約束の時間が近かったのかフユミは急に慌てだした。
「ってもうこんな時間!!ゴメン私もう行くね!油うどんご馳走様!」
「いや油うどんじゃなくて油そば…」
フユミはそのままジョウイチを置いて店を出ていった。
「自警団…なんか忘れているような…」
少し考えたのち手をポンと叩きジョウイチは思い出した。
「あ、そうだガラパのことを自警団に伝えるんだった!」
ジョウイチが店を出て外のフユミに話しかけようとする。
「おい嬢ちゃん、俺も行く…ぜ…」
しかし店の外にフユミの姿はなかった。
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