第12話 都市攻略戦
「うろたえるな! アンデッドは全て焼き尽くせ!」
「恐れる事はありません! 神のご加護が皆さんを守ります!」
騎士団と、神官達が炎と光でアンデッド達を包み込む。
炎に包まれたアンデッド達は骨まで燃え尽き、光に包まれたアンデッド達は地面に崩れ落ちるとそのまま二度と動かなくなった。
「うわー、あれが神聖魔法ってやつかー」
ゲームとかでもよくあるアンデッドにめちゃくちゃ効く魔法だね。
「って事は私にもめっちゃ効くよねー」
うーん、あれは近づきたくないなー。
「でもあれじゃアンデッド達を差し向けても無駄かぁ、空から落とすにしても命中させられなきゃ即成仏されられちゃうだろうし……あっ、そうだ」
作戦を思いついた私はアンデッド達にあの二つの集団には近づかない様に指示を送ると、すぐさま町の外へと向かった。
◆
戻ってくると戦況はだいぶ悪くなっていた。
騎士や神官達と戦わない様に指示をしたものの、向こうの方が地の利は上。
そこら辺を活かして追い込まれて大分数を減らされちゃったみたいだ。
「でもアンデッドを増やしてるからそこまで減らない筈なんだけど……」
「皆さん、教会に逃げてください! 教会には神の守りがあります! アンデッドは入ってこれません!」
成程、アンデッドが入れない場所に逃げ込まれたら仲間を増やすどころじゃないかー。
でもそれならそれで方法はある。
私はアンデッド達に指示を送ると、まずは神官達をなんとかすることにした。
「そーれ!」
空の上から神官達目掛けてあるものを落とす。
ヒュウウゥウ。
「ん? 何の音……ゴバッ!?」
「司祭様!?」
「な、何で大木がこんな所に!?」
そう、私が落としたのは近くの森から引っこ抜いて来た大木だ。
それを空から落としたのである。
十数メートルの大木なら人間サイズのアンデッドを落とすより当たり判定が大きいからね。
「よーいしょっと!」
手にしたロープを引っ張ると神官を潰した大木が引っ張られて宙に舞い上がる。
「大木が!?」
街道沿いの人間達を襲った時に彼等の馬車に積まれていたローブを拝借して、大木に結んだのである。
これで何度でも再利用可能だよ!
「そーれ!」
という訳で私は何度も神官達目掛けて大木を投げつける。
「ぐわぁぁぁぁ!」
「ひぃぃぃ!」
「か、神よ! 邪悪を退ける太陽の輝きを! ホーリーライト! き、効かない!?」
「「「ギャアアアアアア!!」」」」
こうして厄介な神官達は私の大木アタックの前に全滅したのだった。
「さて次は騎士団だけど……大丈夫かなミイラ一号君」
騎士団の方はミイラ一号君に任せてあった。というか彼が自分にまかせてくれってジェスチャーしてきたんだよね。
たぶん自分を裏切った国の騎士だから自分の手で倒したかったんだろう。
「でもあの魔法は結構な威力だったし、ミイラ一号君は剣しかないから流石に……」
そう思って騎士団の方を見ると、さっきまでドカンドカン光っていた炎の赤はすっかり見えなくなっていた。
代わりに血の海のど真ん中に何事もなく佇むミイラ一号君の姿。
その足元には銀色の鎧と黒いローブが水に浮かぶ木の葉のように漂っていた。
「って、一人で倒したの!?」
いやいやいや、強すぎないミイラ一号君!?
ミイラ一号君のまさかの大活躍で、私は騎士団と戦わずに済んでしまった。
「うわー、ミイラ一号君思った以上に有能だったよ。でもまぁこれで残るは教会に立てこもった人間達と、あのデッカイ館だけかな」
私は人間達が救いを求めて向かう教会と、町の中で一番良い立地にデデーンと立つ豪邸を見る。
後ろから襲われたくないし、まずは教会から攻めようか。
◆
ミイラ一号君の戦いを確認した私は、小柄なウルちゃんズを一匹抱えると空から戦況を確認する。
そうすると教会に向かって町の住民が走っていくのが見える。
「ウルちゃんズ! あそこの通路を塞いで!」
「ウォォォォォン!」
私が命令するとウルちゃんズが雄たけびを上げる。
すると地上のウルちゃんズが動き出し、人間達が向かっていた場所に先回りにして立ちふさがる。
「うわぁ! まただ! 何で行く先々で見つかるんだ!」
「まるで俺達を協会に行かせないようにしているみたいだ!」
みたいじゃなくてその通りなんだよね。
私は上空から道を走る人間達の位置を確認し、彼らが教会に逃げ込まないようにウルちゃんズを配置しているのだ。
連絡はこの手に抱えたウルちゃんズの雄たけびが指示になってる訳。
分かる人にはわかると思うけど、この状況は真上から見下ろすタイプのゲーム画面みたいなものなんだよね。町もテレビの画面みたいに四角いし。
人間というターゲットをゴールに行かせないように妨害する敵視点のゲームだけど。
「そっちを封鎖して! あっちはわざと包囲に穴を開けて誘導! よし、一網打尽だ!」
そして人間達をグール達がいる場所に追い込んで仲間を増やす。
「よっし戦力増強! ふふふ、むしろ教会っていう目的地が出来たおかげで狩りがしやすくなったよ」
さて、教会に向かう人間もほとんど居なくなったし、そろそろ教会を攻めようかな。
私はアンデッド数体に命令して教会に向かわせる。
「さて、どうなるのかな?」
教会の周囲には門番の姿はない。塀はあるけど無数のアンデッドを防げる程高くも分厚くもないね。
「でもなんか嫌な感じがするなぁ」
ゾゾゾゾッと背筋にうすら寒いものが走るのは、私が邪悪なアンデッドだからだろうか?
「んー、入り口は封鎖されてるみたいだから、塀をよじ登って中に入って!」
まずは様子見と侵入を命じ、アンデッド達が塀に触れたその瞬間だった。
バジュウゥゥ! という焼ける音とともにアンデッド達がたたらを踏んで下がる。
「なに今の!?」
見ればアンデッド達の体が焼けただれたようになっているのが見える。
「あれが教会の守りって奴? 対アンデッド特攻のバリアってこと?」
あれを無理やり突破するのは難しそうだなぁ。
物理的な壁じゃないから強引に入る事は出来そうだけど、入ったら入ったで永続で毒ダメージを受けるみたいに聖なるダメージを受け続ける気がする。
「やっかいだなー」
となると直接攻め込むのはよくないね。そうなるとやっぱり。
「これの出番かなぁ」
私は路上に放置されている大木を見つめる。
◆
ドゴーン!! ドゴーン!!
協会は未曽有の攻撃にさらされていた。
具体的にはロープで結んだ大木による物理攻撃です。
うん、教会の中に入れないのなら、外から飛び道具で攻撃がベストだよね。
私はブンブンと大木を振り回し、遠心力で思いっきりスピードの乗った大木を協会に叩きつける。
岩でできた教会は頑丈ですぐには壊れないものの、シンプルな質量による加速攻撃で間違いなくダメージを受けている音が響く。
「もーいっちょー!」
何度も叩きつけると、建物がきしむ音が街中に響き渡る。
そして遂にその時が来た。
ガッシャーン! ガラガラガラッ!
教会の建物の一角が崩れ落ちる。
そこから先は早かった。一度壊れたヶ所を狙われた事で、教会の崩壊はどんどん進んでゆく。
すると教会の中から人間達が飛び出してきた。
「逃げろー! 潰されるぞー!」
「助けて! 助けて神様!」
落下するガレキに潰されたくないと、人間達が教会から出てくる。
そのまま敷地内に居ればよかったのに、パニックに陥った彼等はより安全な場所を求めて敷地の外へと出てしまう。
そこが地獄のど真ん中とも気付かずに。
「「「「グゥゥゥゥゥ!!」」」」
「ギャアァァァァァ!」
「ひぃぃぃぃ!」
グール達に襲われ犠牲者がさらに増える。
「も、戻れ! アンデッドだ!!」
慌てて教会の敷地に戻っていくけれど、こっちはこっちで私が叩きつける大木によって破壊された教会の石材が飛び散って人間達が叩きつけられる。
「駄目だ! こっちは駄目あびゃあ!!」
外も駄目、中も駄目とどちらも駄目で彼等は建物と入り口の中間あたりで立ち往生するしかなかった。
そうしてしばらくすると、教会からしていた嫌な感じがふっと掻き消えたのを感じ取る。
「あれ? バリアーがなくなった?」
もしかして教会を壊し尽くしたから、バリアーの発生装置も壊れたのかな?
「これは好都合! 皆攻め込んじゃって!」
私が命令すると、アンデッド達が教会の敷地内へと攻め込む。
「な、何で教会の中に!?」
「ここは安全じゃなかったのか!?」
「じゃ、邪悪な死者よ! 神の意向にひれ伏せ! ホ、ホーリーライうぎゃあ!」
何人か神官の生き残りがいたっぽいけど、教会を破壊されたショックが大きかったのか大した反撃も出来ずに無力化されてゆく。
そうして教会があった場所は完全な瓦礫の山となり、生きる者の気配はなくなった。
「うん、これで大半の敵は居なくなったね。それじゃあこの町の支配者の座を奪い取りに行こうか!」
教会を後にし、アンデッド達を引き連れて領主の館に向かった私はそこで信じられない光景に目を疑うのだった。
「え? 領主が居ない?」
なんと領主の館には、使用人や文官こそいたものの、館の主である領主とその一族が一人残らずいなくなっていたのだった。
転生コウモリちゃんは吸血姫になりました~領地を広げて死者(私)の楽園を作りますね!~ 十一屋翠 @zyuuitiya
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