強制賢者タイム!
ハマ
第1話
僕の名前はロイド・フーリー。
今年で十五歳になるナイスガイだ。
自分で言うのもなんだけど、僕はかっこいい。
顔も良いし、身長も高い。肉体も引き締まっているし、それに見合った身体能力も持っている。
そんなイケメンな僕は、これからスカーレット魔術学園に入学する。
スカーレット魔術学園は、高名な魔術師を多く輩出た実績のある魔術学園だ。
選ばれた能力、選ばれた家柄、そのどちらかがなければ、この学園には入れない。
僕はその両方を兼ね備えている。
僕の家は、グラン王国でも高い地位にいるフーリー侯爵家だ。ただ、残念ながら三男で、後継になる可能性は極めて低い。そうだとしても、僕の家が大きな事に変わりはない。
次に能力だ。
これも自分で言うのはどうかと思うが、僕は天才だ。
そして、努力家だ。
僕はこれまでの人生を、己の鍛錬に費やして来た。
三男なので、いずれ家から出ないといけないというのもあるけれど、それ以上に僕にはある目標があった。
「さあ、始めようか!」
僕はスカーレット魔術学園を指差して宣言する。
「僕のハーレム生活を!」
そう、僕はハーレムを作る為にここにいる。
魔術学園でハーレムを作る為に、これまでの努力はあったのだ!
「ちょっとなに? あの人ヤバくない」
「見ちゃ駄目だよ、絶対狙われるって」
「先生に報告した方がいいかな?」
周囲からの指摘に、ふっと笑い流し目で女子達を見る。
すると、僕の優れたルックスを見て、頬を赤らめていた。
僕は内心ガッツポーズしながら、これはイケる! と確信する。
力を入れていたのは、この容姿も例外ではない。
姿勢には気を付けており、心の持ちようも顔に出るというので、必死にかっこ付けるようにして来た。栄養も侯爵家の力をフル活用して、食材を揃えており、肌にはシミどころかニキビすら一つも無い。
僕は周囲の視線を集めつつ、スカーレット魔術学園に入る。
きっと来週には、十人くらいの女子に囲まれているだろうなと、僕の妄想は広がり続けていた。
入学式が始まった。
入試の成績は僕がトップだったようだけれど、同級生に王女様がいるというので、入学生代表を彼女に譲らなければならなかった。
せっかく目立てるチャンスだったのに、残念で仕方ない。
まっ、それでも僕の輝きを抑えられるはずもなく、周囲の女子達の視線は僕に向けられていた。
「次に新入生代表、エレノーラ・ド・グラン、前に」
呼ばれた新入生代表のエレノーラ様は、グラン王国の王女様だ。
美しい金糸の髪に、幼さはまだ残っているが、美しい顔立ちをしており、その体も制服の上からでも分かるほどに魅力的だ。
彼女を見ていると、欲望がふつふつと湧いて来る。
それは僕だけではなく、この場にいる男子が同じだろう。
エレノーラ様と近しい間柄になりたい。いや、もっと親しくなりたい。人に言えないような爛れた関係になりたい。
皆がそう思っているに違いない。
だけど僕は違う。
僕は彼女を屈服させたい。
王族という、この国のトップの出自。
優れた容姿に、教育の賜物だろう能力。
そのどれもを僕の前に跪かせて、僕の事をご主人様と呼ばせたい!
これは不可能ではない。
僕の容姿と鍛え上げた実力、そして下調べしたエレノーラ様の情報を合わせれば、十分に可能だった。
「ふふっ」
いけない、つい想像してしまって、笑いが漏れてしまった。
まあ、そんな仕草でも、女子達の注目を集めてしまうのだから、容姿が優れているというのは罪なものだ。
エレノーラ様の祝辞が始まった。
その内容はとてもつまらなくて、当たり障りのない物だった。
これから勉学に励み、魔術を鍛え、お国の為に頑張ります。要約すると、そんな内容をダラダラと話していた。
僕はその間に、周囲に目を走らせる。
同級生には、エレノーラ様の他にも、容姿が優れた者が沢山いる。でも、容姿だけの存在なんて、僕は興味が無い。
その中身も、能力も持ってもらわなくては困る。
それが、僕のハーレムに入る最低条件だ。
つつがなく入学式は終わり、これからクラス別に教室に向かう事になる。
教員に誘導されて移動しようとすると、先程まで聞いていた声に呼び止められる。
「ロイド・フーリー、少しいいだろうか?」
「エレノーラ様……」
先程まで祝辞を述べていたエレノーラ様に呼び止められると、人気の無い所に連れて行かれた。
人気が無いと言っても、完全に一人なわけではなく、周囲にはエレノーラ様の護衛が付いている。
「ロイド殿、すまないな、新入生代表を奪ってしまって」
申し訳なさそうな顔をするエレノーラ様。
その顔はとても僕を刺激する物だった。だけど、今ここで、欲望のままに動く事は許されない。
というより、僕のポリシーに反する。
彼女は、その心から屈服させるのだと決めているのだ。
「いえ、お気になさらずに。僕が皆に述べるよりも、エレノーラ様に言ってもらった方が、嬉しいのは事実ですから」
「そのような事はない。ロイド殿の話しは、私の耳にも届いている。独学で一級魔術まで習得した天才だと、いずれは賢者になれるのではないかと期待されているそうではないか。貴方に比べたら、私なんて全然だ……」
それはそうだろう。
何せ、僕は天才だからな。
天才で努力家なんだ、そこらの凡人と同じにしてもらっては困る。なんて事は口が裂けても言えない。
「エレノーラ様にそう言って頂けるとは、最上の喜びであります。ですが、エレノーラ様にはエレノーラ様の良さがあるのです。ただ、それが僕とは違うだけで、ご自身を卑下する必要はありません。エレノーラ様が僕よりも優れている所は、沢山あるはずです」
「そうか、そう言ってもらえると、私も助かる。……それで、私が優っている所はなんだ?」
ねーよそんなもん。
面倒くさい質問やめてくれません?
悪態を吐きたくなるのを堪えて、僕は頭をフル回転させて何とか捻り出す。
「その身に宿るカリスマ性、そして、膨大な魔力量にございます」
「魔力量? 私は平均値しか無かったはずだが?」
「御座います。エレノーラ様の肉体には、膨大な魔力が眠っております」
悔しいけど、これは事実だ。
というより、王族は優れた血を取り入れて行った関係で、漏れなく膨大な魔力量を保持している。
それに気付いていないのは、体に負担を掛けないように、無意識で封印しているからだ。
僕がそれに気付いた時は、嫉妬して親指の爪を噛んで、剥いでしまったくらいだった。
「俄には信じ難いが……」
エレノーラ様が困惑していると、側近の者から「お時間です」と声が掛かり、この時間は終わった。
解放されてから、僕も教室に向かう。
クラスは教えてもらっていたので、問題なく行けるのだが、教室に向かっている途中で、倒れている女子生徒を発見した。
「ええ〜」
普通に倒れているのなら、流石の僕でも心配したと思う。
でも、女子が真っ直ぐ立ったような姿勢で、うつ伏せになっていたら、怪しんでしまうのも仕方ないだろう。
これで、容姿が優れているのなら、声くらいは掛かるのだけれど、怪し過ぎて近寄りたくない。
そんな女子の隣に、生徒手帳が落ちていた。
それを拾うと、魔道映写機で撮られた顔が載っており、仕方ないなと声を掛けた。
「もし、そこで倒れている方、どうかしましたか?」
そう言いながら彼女の体に触れて、うつ伏せから仰向けに寝かせる。
すると、彼女の目はバッチリと開いており、僕をジッと見ていた。
「…………大丈夫そうですね、僕はこれで」
何故か関わってはいけない類いの人なような気がして、笑顔で誤魔化しながら教室に急いだ。
やはり、ハーレムを作るにも相性は大事だろう。
彼女と僕は、きっと合わない。
そんな予感が、鋭い視線となって背中にビンビンと突き刺さっていた。
「申し訳ありません、諸事情により遅れました」
そう言いながら教室の扉を開くと、クラスの皆から注目を集める。
僕は努めて明るい笑みを浮かべ、自然に教室に入室する。
このクラスと担当であろう教員にも笑みを向けると、女子達は皆が顔を赤らめていた。
クラスの中には知り合いもおり、「相変わらずだなぁ」と呆れた声が聞こえて来る。
「あの、僕の席はどこですか?」
「え、ええっと、席は自由だから、好きな所に座って」
教員に言われて、一番近くの空いてる席に座る。
そこは、教壇に一番近い席であり、良く先生の顔が見える場所でもあった。
僕は改めて、教員の顔を見る。
悪くない。
素朴な顔だけど、愛嬌があって真面目そうだ。プロポーションは服の上からだと分からないが、太ってはいない。メガネを掛けているというのもポイントが高いし、この学園で教壇に立つくらいだから、能力も申し分ない。
歳上ではあるが、十歳差までなら守備範囲なので問題無いはずだ。
後で、年齢を確認しておくとしよう。
「ロイド・フーリー君、来た所申し訳ないのだけれど、皆さんに自己紹介してもらえる。 もう、他のみんなは済んでいるから……」
「ええ、構いません。僕が遅れて来たのが悪いのですから」
僕は立ち上がり、クラスメイトに向かってお辞儀をする。
「僕はロイド・フーリー、気軽にロイドと呼んで欲しい。スカーレット魔術学園では、地位に関係なく接したいと思っている。卒業するその時まで、皆と絆を深められたらと願っている」
そして、もう一度お辞儀。
すると、周囲から拍手が巻き起こる。
僕の完璧な仕草を見て、さぞ感動している事だろう。
内心、男は近付いて来んなよ、と思いながら着席する。来るのは女子だけで良い、ムサイ男に来られたらストレスでしかない。
そんな僕の願いに唾を吐くように、教員が教室から出て行くタイミングで、知り合いが僕の所にやって来た。
「ロイド、君は相変わらずだね」
「やあミゲル、相変わらずと言われても、僕はいつも通りだから困るよ」
優しく苦笑を浮かべて対応する。
彼の名はミゲル・ロケランジェロ。
ロケランジェロ伯爵家の嫡男で、順当に行けば将来は伯爵様になる。
僕とは違って、明るい未来が約束されている野郎だ。
「そこが相変わらずなんだよ。なあ、学食行かないか? スカーレット魔術学園の学食は、王族も褒めるほどに美味いと聞くぞ」
「ほお、それは食べてみたいな。だけど、今から学園を見て回りたいんだ。色んな施設があるらしいから、確認しておきたい。ミゲル、君も一緒にどうだい?」
「やめとくよ、そういうのは授業の中だけで十分だ」
両手を上げて、やんわりと拒絶するミゲル。
まあ、君ならそう言うだろうと思って提案したんだけどね。
じゃあ、また。そう言って去って行くミゲルが向かう先には、二名の男子がいた。
その二名に僕は心当たりがない。
少なくとも、高位の貴族の子息ではないだろう。
どうやらミゲルは、この短時間で仲良くなったようだ。
まっ、羨ましくはないけどね。
僕は男と群れる気は無いんだよ。
そう内心で呟きながら教室を出る。
僕が動くと、多くの視線に追われるけど、それも僕だから仕方ないのだろう。
教室を出ると、学園を歩いて回る。
先程、ミゲルに言った言葉に嘘は無い。この学園にどのような設備があって、どんな事が出来るのか確認をする必要があるのだ。
僕は、己の鍛錬を怠るつもりはない。
これまで築き上げて来た物を昇華させて、更に上に行くのだ。そうしなければ、ハーレムなんて夢のまた夢である。
目指すのは最高のハーレム。
それを作るのが、どこぞの馬の骨では女性も可哀想だろう。
「おっ、ここは死角になっているな」
それから、建物の構造を把握しておかなくてはならない。
学園という限られた空間で、いろいろとヤルのだ。
それはもう、調べておかないと、いざというときに手間取ってしまう。それは女子に恥をかかせてしまい、僕の評価も下がってしまう。
そんな結果は、誰も望んでいないだろう。
「よし、大体はチェック出来たな」
僕はメモを確認しながら、そう頷いた。
これで、いざという時の対策は問題無い。
あとは、明日から行動して行くのみだ。
始まるであろう、明日からの輝かしいハーレムまでの軌跡に想いを馳せながら、僕は意気揚々と歩いていた。
だからだろうか、背後から迫る脅威に気付かなかったのは。
「そこの人、避けてー‼︎」
「え?」
可愛らしい女子の声と共に、僕に青い色の液体が降り掛かる。
パシャという音が妙に耳に残る。
冷たいとか熱いとかはなく、ただ常温の液体が掛かっただけ。顔は洗えばいいし、制服に色が付いてしまったかも知れないが、予備はあるので問題無い。
だから僕は振り返り、こんな仕打ちをしたであろう人物を見る。
そこにいたのは、青い髪につぶらな瞳の女子生徒。
顔立ちは、まあ悪くはない。普通よりもやや上といった所だろう。肝心のプロポーションは……うん、王女様に匹敵する物をお持ちのようだ。
うむ、悪くない。
この女子は、恐らくだけど上級生。
というより、この時間にここにいるという事が、それしか考えられなかった。
「あわわわー⁉︎ ごめんなさい! またやっちゃったー!!」
またやったというのは、日常的に人に何かをぶちまけているのだろうか。
この学園は、割とエリートが集まっていると思っていたが、そうではないのかも知れない。
「ああ、お気になさらずに。この程度、洗えば落ちますから」
僕は怒りなんて微塵も発さずに、先輩だろう女子に向かって、安心させるように笑みを浮かべる。だけど、女子は慌てた様子で「どうしよう、これやばいよね…」と僕の言葉なんて聞いていなかった。
すー……はー。
大丈夫、僕は至ってクールだ。
「あの、大丈夫ですか? もしかして、今のは何か貴重な物なんですか?」
「え、あっ! ご、ごめんなさい! 貴重なのは貴重なんですけど、あの、その……特殊な効果のある物だったんです……」
おいおいマジかよ!
「えっ? それって、人体に害を及ぼすような物なんですか?」
「いえ、健康に問題はありません。ただ魔力が、急激に増える効果があります」
「なんと⁉︎ それは凄いではないですか! まさか、事故とはいえ、そのような貴重な物を被ってしまうとは……申し訳ありませんでした」
寧ろ、万々歳です!
まさか、そんな凄い薬品とは思わなかった。
被っただけで効果があるのかは不明だが、顔を伝って流れた液体を少しだけ舐めてしまったので、ワンチャンあるかも知れない。
「あ、謝らないで下さい! 全部私が悪いんです! 元は、副次効果が悪過ぎて、誰も使ってくれなかった物なんです」
「副次効果? それはどのような物なんですか?」
「あの……その……怒りません?」
「ええ、魔力量が増えるかも知れないんですから、怒りませんよ」
だから、早く言え。
「……欲が無くなります」
「……は? あの、よく聞こえなかったんですけど、もう一度言ってもらっていいですか」
僕は、自分の耳が悪くなったのかと思い、よく穿ってからその副次効果を聞く。
「性欲が、性欲が無くなります!」
「…………は? 性欲が、無くなる……ぐっ⁉︎」
副次効果を聞いた瞬間、強烈な痛みに襲われる。
いや、これは痛みというよりも熱いと言った方がいいだろう。事実、先ほど掛かった液体が蒸気を上げており、僕の体を焼いているようだった。
「あっ! せ、制服を脱げばっ⁉︎ でも頭にも掛かっているし、ど、どどど、どうしよう⁉︎」
周囲であわあわしている女子が、目障りで仕方ない。
でも、それに対応する余裕なんてなくて、僕は廊下でうずくまり、この現象が治るまで耐え続けた。
やがて熱を感じなくなり、痛みも引いて来る。
かなりの時間痛みに耐えていた気がしたけど、今もあわあわしている女子を見るに、それほど経っていないのだろう。
体内に、信じられないような量の魔力を感じ取る。
その量は、王族にも引けを取らないほどに多くて、エレノーラ様に負けていた点も、これで無くなってしまった。
つまり、名実共に学年最強に僕はなった。
「でも、だけどこれじゃあ!」
僕は少し邪な事を考える。
対象はエレノーラ様で、完全に屈服させて僕の物にしている行為。
だけど、僕の心は何も反応しない。
寧ろ、無駄な思考してんじゃねーよと、至極真っ当な意見を言って来る始末だ。
両手で顔を覆って考える。
これはなんだ?
性欲が無くなるとか言っていたな。それは、これほど効果がある物なのか?
どれだけの期間、この状態が続くんだ?
一日? 一週間? 一ヶ月? 一年? いや、よく考えるんだ。魔力量が増えるなんて効果があるんだ。これが長く続くとは思えない。せいぜい、一時間程度だろう。
そう考えたら落ち着いて来たな。
目の前には、まだバカ女もいる事だし、聞いてみるか。
「あの先輩、ですよね?」
「はっはい! メリル・リリーヌと申します。あの、この度はご愁傷様でした」
「死んだみたいな言い方やめろ。 オホン、僕はロイド・フーリー。メリル先輩、ところでこの薬の効果はどれほど続くんですか?」
「…………一生です」
大きく深呼吸をする。
そして天井を眺めて、ぼんやりと考える。
メリル先輩は今、なんと言ったのだろう?
一生と言った気がする。
もう一度聞き直したいけど、同じ事を言われるのが怖い。
ジュニアに触れてみる。
もう、僕は死んでしまったのだと言っているみたいに反応しない。
さっきのご愁傷様は、もしかしてこっちの意味だったのだろうか?
「メリル先輩……元に戻す方法は?」
「…………無いです。きゃっ! え、なに⁉︎」
僕はメリル先輩を見て、手を掴んで近くの教室に入った。
そして鍵を閉めて、メリル先輩を壁に押し付ける。
さっきも言った通り、顔は悪くない。
体に触れてみると、やはり思っていた通り素晴らしい物を持っている。
「やめ……いやー……」
弱々しく溢れる声が、僕の耳を刺激する。
頬に触れて、体に触れる。首から豊満な胸に、そこから下に下に触れて行き、下半身に触れてみる。
「……くそー」
悔しくて声が漏れる。
これは、僕にとって絶対に興奮するシチュエーションのはずだ。
それなのに、ジュニアはまったく反応してくれない。
それどころか、人の体に触れるとか気色悪、なんて思っている始末だ。
僕は涙を流しながら、メリル先輩のスカートをたくし上げる。
そして、その黒いレースの下着を見た。
「……恥ずかしい、やめて」
顔を赤らめたメリル先輩だけど、僕は内心『汚ねーもん見せんなよ』と思ってしまっている。
「そんな、馬鹿な、本当に、僕は、不能になったというのか……」
余りのショックに、メリル先輩から後退り膝をつく。
メリル先輩は息を荒くしており、僕が離れると同時に腰を落としてしまった。
「……メリル先輩、もう一度お聞きします! 本当に、僕は治らないんですか⁉︎ 何か、何でもいい! 何か方法は無いのか⁉︎」
最後は荒々しくなってしまったが、それも仕方ないだろう。
もしも性欲を無くしたというのなら、僕のこれまでの努力は無意味になってしまう。ハーレムを作った所で、肝心の行為が出来ないのなら、全てが無駄だ。
そんなの認められない!
「…………この効果は、一種の呪いなんです」
「呪い?」
「これは、遙か東の国に伝わっていた呪術と呼ばれる技法なんです。あの液体の効果は、性欲を無くすという呪いを付与する事で、魔力という特定の能力を伸ばしました。もしも、解呪する方法があるとしたら、東の国にしか無いのかも知れません」
「東の国……そうか、方法があるんですね! ではメリル先輩、その液体を取り寄せたツテを教えて下さい」
「……滅んでます」
「は?」
「その東の国は、百年前に滅んでるんです。きゃー⁉︎」
「何を言っているんですか? じゃあ、あの液体はどこから手に入れたんだ? どうやって手に入れて、その効果をどうやって知ったのかって聞いているんだ‼︎」
ふざけた事を言い放つメリル先輩の肩を掴んで、壁に押し付ける。
大丈夫、僕は至って冷静だ。
冷静に問題を解決しようと努めている。
大きな声を出したのも、メリル先輩を追い詰める演技で、本気で怒っているわけではない。
確かに、いっそのこと切り刻んで燃やしてしまいたいくらい、頭に来ているが、そんな事を、この、僕が、するはずがない!
「やめて、殺さないで……」
僕の迫真の演技に騙されて、メリル先輩は怯えて涙目になっている。
「安心して下さい、僕はそんな事しませんよ。怒ってはいても、そこまで理性を失っていませんから」
「手に込められた魔力がやば過ぎます! お願い、殺さないで!」
大丈夫ですよ、脅しですから。
ただ、少しだけ手元が狂って、その体を八つ裂きにするかも知れませんがね!
「メリル先輩、もう一度聞きます。あの液体をどこで手に入れたんです?」
「そ、それは……」
僕の脅しが効いたのか、メリル先輩は素直に話してくれそうだった。
だけど、突然教室の扉が破壊され、吹き飛ばされた。
ガシャンと扉がひしゃげて地面に落ち、遅れてそれをやったであろう人物が教室に入って来る。
「メリルから手を離せ、そこの変質者」
そう言いながら、僕に筒状の武器を向ける女子。
この人には見覚えがある。
あの廊下で、倒れていた女子だ。
紫色の長い髪に、小柄な体型。年下かと思うほど幼く見えるが、生徒手帳には僕よりも一つ年上の年齢が記載されていた。
名前は確か……、
「ニカイ・シノノメ先輩。すみませんが、邪魔しないでもらっていいですか?」
「むっ、私の名前を知ってる?」
「廊下で寝ている人を見たら、まず忘れませんよ」
「そう。じゃあ変質者、メリルから離れろ」
「だから邪魔しないでって言っているでしょう! 僕にとって、人生を左右する一大事が起こっているんですよ!」
はっきり言って、ニカイ先輩との会話する時間も無駄に思ってしまう。寧ろ、邪魔者と捉えてしまっており、先に排除するべきかと考えてしまっている。
これまでの僕では、信じられないような考えだ。
前までなら、笑みを浮かべて適当に誤魔化していた。これが、性欲を無くした効果なのか。
まったく、恐ろしいものだ。
「お願いですメリル先輩、教えて下さい。このままだと、僕は、僕は……生きる意味を無くしてしまう……」
そして、貴女を殺してしまいそうだ。
僕の必死の言葉を聞いて、メリル先輩はチラリとニカイ先輩を見る。その視線にどんな意味があるのか分からないが、今は置いておく。
だから、早く教えてくれ……。
だけど、僕の願いは届かない。
その理由は、メリル先輩が答えなかったとか、ニカイ先輩が邪魔したからではない。
「今の音はなんだー‼︎‼︎」
教員が廊下で叫んだからだ。
不味い! と僕は一瞬で判断する。
今の状況で見付かるのは非常に分が悪い。
側から見れば、僕がか弱い女子を襲っている変質者で、それを止める女子に現行犯逮捕されているように映るだろう。
ジュニアまで失ったのに、社会的にも死ぬのか!
「そんなの、認められるかー!」
僕は窓に駆け出し、窓を開くと躊躇なく飛び降りた。
背後から悲鳴が聞こえるが、気にせずに魔術を使う。
二つの魔法陣を展開して、即座に発動。
その効果は浮遊と透明化。
浮遊魔術は難易度はそこまで高くないが、透明化は僕のオリジナルの魔術だ。
いざという時の為に用意していたが、まさかこのような形で使う事になるとは思わなかった。
「必ず聞き出してやる!」
僕はそう決心して、一時撤退を決断した。
強制賢者タイム! ハマ @Hama777
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