ポアンカレ予想完全理解しないと出られない部屋に閉じ込められてしまいました~天才女家庭教師とハナタレ小僧の至極真面目な課外授業~

エノウエハルカ

ポアンカレ予想完全理解しないと出られない部屋に閉じ込められてしまいました~天才女家庭教師とハナタレ小僧の至極真面目な課外授業~

 ……あれ? ここはどこ?


 真っ白な部屋で、扉がひとつだけあって……


 こんな不気味な場所にいたくないから、早く帰ろうっと。


 ……ドアが開かない……


「ねえちゃーん」


 あ、家庭教先で一番頭の悪いタカシくんじゃない! どうしてここに?


「んー、わからん!」


 だよねー、私もわかんないもん。ほら、また鼻垂らしてないで。こらこら、Tシャツの裾で鼻かまないで、もうガビガビじゃないの。


「ねえちゃーん、ここどこ?」


 私にもよくわからなくて……


「うんこしたい」


 えっ!? 今ここで!? トイレは……ないよ!?


「うんこ出るー」


 ちょ、我慢して! お願いだから!


『よく来ましたね、天才女家庭教師とハナタレ小僧』


 この頭に直接響く声は……!?


『私は神です。この部屋を作ったものです』


 神様!? なんでもいいから早く出してこっちは色々限界なんだから!


「ねえちゃーん、うんこー」


 我慢して!!


『なんやら大変そうだが、お前たちには暇を持て余した神々の遊びに付き合ってもらう』


 なにその理不尽!?


『その部屋は、ある特定の条件を満たさねば出られない部屋だ』


 まっ、まさか……これがウワサの……!?


 けど、タカシくんはまだ小学5年生だし……私だって、誰でもいいってわけじゃ……!


 でも、そうしないと出られないなら……! 私がひと肌脱ぐしか……!!


『そう、その部屋は『ポアンカレ予想を完全理解しないと出られない部屋』だ』


 …………は?


 あの、セオリーだとそこは『セックスしないと出られない部屋』では……?


『神々にセオリーはない』


 偉そうに言ってるけど、ホント暇だね神々……!


『ともかく、超常のちからによってお前たちは閉じ込められている。ポアンカレ予想をそこのハナタレ小僧に理解させない限り、その部屋からは出られない』


 ちょっと待ってよ!? そんなこと、できるわけが……!


『はいあとヨロシクゥ』


 待たんかい神々!!


 ……ああー、逃げやがった……


「ねえちゃーん」


 ああ、タカシくん。うんこはもういの?


「うん、もういい。なにもかもがどうでも」


 それ漏らしたの確定な虚無感! くっっっっっっさ!!


 ……緊急事態だから、もうこの際漏らしたってことで納得しよう……


「ねえちゃーん、ボンカレーなんとかってなにー?」


 はっ! そうだ!


 この家庭教先で一番頭の悪いタカシくんに、数学界のミレニアム懸賞がかかってるような難題を理解させなきゃここから出られないんだった!


 ……無理。絶対無理。


 一年中Tシャツ短パンで鼻垂らして、足し算もままならないタカシくんがポアンカレ予想なんて理解できるはずがない……!


「ねえちゃーん、ボンカレーってなに?」


 ボンカレーはカレーだよ、タカシくん。そうじゃなくて、ポアンカレ予想ね。


「ぽあぽあってなにー?」


 だからね……!


「オレがそれべんきょうしないとここから出られないの?」


 そ、そう! タカシくんがポアンカレ予想完全理解しないとここから出られないの!


 この際無理だなんて言ってられない! 何がなんでもタカシくんに理解してもらうしかない!


 まずは現状確認から……タカシくん、12たす20は?


「んー……18くらい?」


 ダメだー!! 絶対無理だー!!


 ……いや、待てよ?


 数学界の難問なんて、もう算数レベルの話じゃない。


 概念だ。


 ふわっとした感じで理解してもらえば、あるいは……!?


「ねえちゃーん、Switchやりたいー」


 ここにはSwitchないの、ごめんね?


「ポケモンやりたいー」


 ここから出てからたくさんやろ?


「んー……わかったー」


 それでよし!


 まずね、タカシくん。ドーナツの形はわかるかな?


「オレ、ポンデリング好き!」


 うんうん、ポンデリングの形だよね。


 それでね、2次元とか3次元とかっていうのは聞いたことあるかな?


「知ってる! ドラえもんが四次元ポケット持ってる!」


 そうだね。その次元だよ。お絵描きは平らな世界だから2次元、レゴはそれに高さがついてるから1個増えて3次元ね。これはわかる?


「オレ絵うまいよ! 漫画かいてる! ドラゴンボールみたいなやつ!」


 タカシくん、それはまた今度見せてね。


 それでね、ドーナツの形は高さがあって、それでちゃんと存在してるから3次元だよね?


「うん!」


 そうそう。


 そのドーナツには穴があるよね? もしもタカシくんの目が見えなくなって、穴があるかどうかわからなくなったらどうしたらいいと思う?


「食べる!!」


 食べちゃったらなくなるよ。わからなくなっちゃう。


 そうじゃなくて、ドーナツの中に丸く糸を通して、ぎゅって引っ張って、クリームの部分があったら、それはドーナツじゃないよね?


「オレエンゼルクリームも好き!」

 

 うんうん、エンゼルクリームもおいしいよね。


 宇宙っていうのはね、ポンデリングなのかエンゼルクリームなのかわからなかったの。それで、ロケットに紐をつけて、宇宙を一周したの。その紐の両端を全部いっぺんに引っ張って、クリームがついてればエンゼルクリームでしょ? それはわかる?


「ねえちゃーん、オレミスド行きたいー」


 ここから出られたらたくさんご馳走してあげるよ。


 ともかく、私たちが宇宙がポンデリングじゃないって知るためには、ロープを使う必要があるの。


 それでね、ポンデリングとエンゼルクリームは作り方が違うでしょ? 生地を伸ばしてくっつければポンデリングだし、まん丸にすればエンゼルクリーム。


 これって、全然別物だよね?


「オレ、どっちも好き!」


 おいしいからね。


 でもね、地球を考えてみて。さっきのお絵描きの話と同じで、どこまでいっても平らでしょ? だから、地球は2次元。


 その地球から宇宙がポンデリングかエンゼルクリームかどうか知るためには、ロケットに紐をつけて宇宙を一周して、紐の両端を引っ張らないといけない。紐にクリームがついてたから、この宇宙はエンゼルクリーム。


 宇宙は3次元だけど、そうやって平らな世界の住人でもエンゼルクリームだって証明できるの。


 どこまでいってもぐるぐる回って果てがないけど、とりあえずは閉じた空間であることは証明できる。


 同じように、高さのあるレゴの世界からだって、ロープがあれば四次元ポケットの中の世界だってわかるんだよ!


 それが、ポアンカレ予想だよ!


「だいたいわかった! オレすっげええええ!!」


 うん! すごいね! タカシくんって実は頭良かったんだね!


「学校のみんなにぼわぽわ自慢しよー!」


 ポアンカレ予想ね。


 ……ふう。とりあえず簡単に説明してみたけど、理解してくれたみたい!


 さあ神様! ここから出して!


『ダメです』


 なんで!? 理解したじゃない!


『完全理解じゃないといけません。グレゴリー・ペレルマン並の完全な理解が必要です』


 そんな……!


 あんなの、微分積分に多次元宇宙まで理解しなきゃいけないじゃない!


 だいたい、こんな残念な脳みその子に完全理解なんて求めてどうすんの!?


『じゃなきゃ面白くないですからね』


 面白さだけで生殺与奪の権利を握らないで!


『どうやって理解させるのか、楽しみだなー』


 あ、待ってよ! そんなの無理だって……!


 ちくしょう!! 神も仏もねえ!!


 …………あの、タカシ、さん…………?


「オレわかったよ? だからミスドでポケモンやるー」


 …………微分積分って、なにかわかりますか…………?


「んー……多分親分?」


 ダメだー!! こんなん無理やん!!


 N次元なんて概念、どうやって説明すれば……!


 そもそも単次元でのループが一点に収束するなんて、言葉にするだけでも疲れるのに……


 ええと、私までわからなくなってきたぞ……つまり、N次元でのどの点もごく近くにおいてはN次元ユークリッド図形となり……


「ねえちゃーん」


 ……ブツクサ……ブツクサ……


「ねえちゃんてば」


 はっ! どうしたのタカシくん?


「おっぱい」


 …………へ?


「おっぱい触らせてくれたら、オレがんばってべんきょうするー」


 このエロガキ……!


 しかし、このおバカがポアンカレ予想を完全理解するには、それが必要なのかもしれない……それくらいしないと理解しないのかもしれない……


 ……私のおっぱいくらい……安いもの……ッッッ!!


 ほら、タカシくん、おっぱいだよー!


「わーい! ぽよんぽよーん!」


 そうだよおっぱいだからねー。


「ぱふぱふー」


 ずいぶん懐かしい言葉知ってるねタカシくん?


 さあ、触らせてあげたんだから、今度こそ本気を出して完全理解を……


「…………」


 ……タカシくん……?


「単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S³に同相である」


 ……え?


 急にどうしたの、タカシくん!?


「n 次元ホモトピー球面は Snと同相である」


 おかしい、タカシくん!? しっかりして!?!?


「計量テンソル gij を持つリーマン多様体が与えられると、リッチテンソル Rij を計算することができる。リッチテンソルは、一種のリーマン曲率テンソルの「トレース」の断面曲率の平均値を集めたものである。計量テンソルと関連付けられたリッチテンソルを、通常は「時間」と呼ばれる(必ずしも物理的な時間と関係ないこともありうる)変数とすると、リッチフローは、幾何学的発展方程式」


 た、タカシくんが壊れたー!!


 タカシくん!! しっかりして!!


『おめでとうございます』


 こんな大変な時になに!?


『ハナタレ小僧は無事ポアンカレ予想を完全理解しました』


 は、はあ!? タカシくんが!? あのアホのタカシくんが!?!?


『おっぱいにより完全覚醒したようですね。アホの子に見えて、実はギフテッドだったということでしょうか。おっぱいのちからは偉大ですね』


 おっぱいごときでそこまで覚醒しちゃう!?


『ともかく、ポアンカレ予想は完全理解できました。あなたたちを部屋から出しましょう』


 いや、もちろん出してもらうけど! おいちょっと待て!


 ……ドア、開いてる……


「ここに、Ravg{\displaystyle R_{\mathrm {avg} }} は(トレースを取ることで得られるスカラーテンソルの平均値であり、n{\displaystyle n} は多様体の次元である。この正規化された等式は、計量としての体積形式を保存する。変数 t を 0 でない実数へ取り替えることができるため、−2 の掛け算の要素は、あまり重要性がない。しかし、マイナス符号はリッチフローが充分小さな正の時間に対して定義するできることを保証する。符号を変えると、リッチフローは通常」


 ……これ、どうすんの……?


 タカシくん! タカシくん!!


 ミスドでポケモンしようよ!


 ねえ、タカシくーん!! 戻ってきてー!!

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ポアンカレ予想完全理解しないと出られない部屋に閉じ込められてしまいました~天才女家庭教師とハナタレ小僧の至極真面目な課外授業~ エノウエハルカ @HALCALI

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