君とゆらぎと重なる声と♪
まちゅ~@英雄属性
君とゆらぎと重なる声と♪
「ありがとうございました」
カウンターの向こう、僕はお客の飲んだコーヒーとケーキのセットの食べ終わった皿を片付けながらお客にお辞儀する。
「コーヒー美味くなったよ。また、来る」
三十代位だろうか、あごヒゲの男性が片手を上げてポツリと、
「良いお年を……」
そう言ってニヤリと笑って扉を開けた。
外から、冷たい風と共に冷たい空気を喫茶店に運び込む。
直接、入り込まない様にお客が座るソファーとの間に衝立てがしてあるけど、寒い事は寒い。
「あっ本当に有難うございます!!良いお年を!!」嬉しくなって深々とお辞儀をする。
カランコロンと音を立てて、多分今年最後のお客が出て行った。
「ちょっとは、頑張った成果あったかな」自然と口角が上がるのを感じる。
カウンターに食器を置いてテーブルを拭きに行こうとすると、
「良かったね~アルト」ニヤニヤと笑う愛すべき従業員がお皿を洗いながら僕を見ていた。
「ばっバカやろ、店ではマスターだろ?」ニヤけていた所を見られたらしい、僕はバツが悪そうに苦笑いをしながらテンポ早目にテーブルを吹く。
聞いていたなら、調度良いなと彼女に話し掛ける。
「最後の客も終わったみたいだから、店早いけど閉めるからな」カウンターの彼女は「は~い」皿を洗いながら返事をした。彼女、ソラが僕のいるこの街に来てからもう一年以上たった。
店の事にも慣れたみたいでコーヒー以外は任せる事が出来る様になったし、少しホームシックに掛かった事もあったけど、概ね順調に馴染んで来ている。
寒い夜に薪ストーブの前に二人寄り添いながら、温かいホットミルクのハチミツ入りを啜って笑いあって……。
暑い日に、ソラが僕に内緒でカキ氷を食べて見つかって、最初は小さな言い争いから怒鳴り合いになって、最後は大泣きして……。
何とか一年やって来た。少しは順調になって来たのかな?
ドアのプレートをOPENからCLOSEDに変えると、この店の一年が終わる。
外は真っ白な雪景色、年明けまで雪が凄いらしい。
後は二人テキパキと店の片付けをして全て終わるとソラが薪ストーブに手を当てて「今年も終わったね~」とニカッと笑う。
「あぁ、本当に……有り難うな」
「何だよ~、照れるなぁ~」隣に来た僕の肩に恥ずかしそうにパンチするソラ。
「最初はレジ打ち間違えるは、皿を一気に仕舞おうとして一気に割るわ、どうなるかと思ったよ」
「るさい、うるさい……私だって頑張ったんだよ~」不貞腐れるソラ。
「知ってる……本当に頑張ってる奴に頑張れなんて言えないよ。お前は最高のパートナーだ」
「アルト……バカそんなの急に言うな」僕の肩に可愛いパンチをするソラに、そっぽを向いて恥ずかしそうに、
「いつ言えば良いんだよと」僕は照れ笑いをする。
変な間が出来て二人黙っているとソラが、よしと立ち上がり、
「歌うよ」と僕のギターを差し出した。もう反対の手にはソラの白いドレッドノート。
「全く」と苦笑いしながら、僕は黒のフォークギターを握り締める。
観客は薪ストーブかな?
僕は立ち上がって、彼女は椅子に座って……。
何も曲を決めずにいきなりセッションする、それが僕らの最近の遊び。
今日はソラが最初にひく番だ。
少しポップな出だしに直ぐにピンと来て音を合わせる。
「エヘヘー、流石にバレたかー」笑いながら、小さく舌を出すソラ。
「この前、この曲好き〜って言ってたからな」少しソラの声真似をすると不貞腐れた様に笑う。それでも音は外さない。流石だな、僕も負ける訳にはいかないか……。
「も一度さ、声を聞かせてよ」歯切れ良く歌うと、隣でソラがピュウと口笛を吹く。
僕は歌でソラはギターで魅了する。
「心が壊れる音を聞こえて〜♪」ソラを見る。
「どれだけ君を愛していたか、知って♪」次はアルトだよと、彼女は合図する。
「もう二度とは増やせない思い出を抱いて生きて」最後は二人で
「「Day By Day」」
「どんなスピードで追い掛けたら〜」全て歌詞は君との事を歌っているみたいに、しっくり来て。
優しいけどポップなメロディーはこの曲の高音は僕の出せるギリギリだったけど、嬉しそうに聞き入ってくれるソラの顔が嬉しくて……。
「だから、君を想い続けてる〜」誰よりも大切な君の為に歌うよ。
「絶えず叫ぶよ、ありのままの二人でいようよ〜♪」ソラを見てニコリと微笑むと、アイツ涙ぐんでるんだもん。
思わず、僕も涙が出て来ちゃって、二人で照れ笑い。
「アルトの声好き」二人薪ストーブの前で入れて来たココアを飲んでいると、ソラがそそくさと何か取りに行く。
「これ……アルトが私のタイミングで良いって言ってたから……」一つの封筒を渡される。
「お前これ……」そこにはソラの名前とハンコ、保証人に僕のバンドのメンバー二人の名前が書かれた用紙……。
婚姻届……?
「お前っ、これ!!あっ、だからこの前東京へちょっと帰るね~って」慌てふためく僕を見て笑うソラ。
「落ち着いてココア飲もうか?旦那様」少し落ち着いて、一口ココアを飲む。
たまに飲むココアは心に染み渡る。
「ココア作るの上手くなったな、その嫁さん」
「耳真っ赤だよ……」「お前もな……。その……良いのか?」「答えなんて、最初から出てたじゃん」「そうだな……」「大好き」「僕もだ」「ちゃんといえよ~」「……その、大好きだよソラ」
二人で、顔を見合わせて笑い合う。
「後で、山梨さん達にお礼の電話しとくわ」
「うん、よろ」そう言って肩にもたれ掛かるソラ。
ありがとうなソラ。
心で言いながら同時に色々な人達にも感謝する。
「年越しソバどうする?」
「緑のやつで良くない?」まぁカップラーメンでも良いか、たまには……。
「そうだな、高い買い物しちゃったし」
「えっ?何?聞いて無いけど?」しかめっ面で、どういう事?と眉を潜める。
「あっこれ、どうぞ」そんな彼女に僕はエプロンのポケットから青いジュエリーケースを渡す。
「えっあっ何これっ!!」今度はソラが慌てる番だ。
「あっ!!開けて良い!?」慌てる彼女にどうぞと促す。
「キャー可愛いー!!素敵馬鹿じゃない、可愛過ぎるー!!」小さな花をモチーフにした可愛い指輪。
デザインはベースで美大の山口さん。
山口さん、婚姻届をソラに頼まれて、婚約指輪のデザインを僕から頼まれて、本当に口の固い人だな?
「ありがとう!!本当に嬉しい!!」
僕の腕に抱き着く彼女を見ながら、さて今年はのんびりと歌合戦でも見ながら二人明日に備えようかな?
おっと、早く婚姻届に書き込まなきゃ
「来年は本当にありがとう、来年も宜しくな」
「うん!!ずっとずっとよろしくね!!」
嬉しそうに指輪を眺めるソラ。
外はゆっくりと雪がふりストーブからは薪のパチパチと弾ける音。
僕は今年、お世話になった全ての人に心から感謝して皆が幸せである事を心から願った。
「ねぇ、最近急に吐いたり、酸っぱい物食べたくなるんだよね~」
……ちょっとまで。
来年も、気が休まる事は無さそうだ。
君とゆらぎと重なる声と♪ まちゅ~@英雄属性 @machu009
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