ドールハウス(覗く目)

遠藤みりん

 ドールハウス(覗く目)

 誰かに見られている……


 いつからだろう……家の中にいると窓の外から視線を感じる。窓を開けて辺りを見渡しても誰もいない。

 もしかしたら誰かに跡をつけられ、監視されているのでは?そんな事を考える。

 職場の人間、元恋人、かつての友人、この視線の正体は一体誰なのだろう……


 私は一軒家にひとりで住んでいる。自分で言うのもおかしいがとても立派な一軒家でひとりで住むには部屋を余らせてしまう。

 かつては父と母の3人で暮らしていた。いつからかふたりは何処かに消えてしまった。

 きっと私を置いて出て行ってしまったのだろう。


 この家はどの部屋も酷く散らかっている……


 ひとりきりの不安からか、私は感情をコントロール出来ずに家具や部屋の物をあたりかまわず投げ散らかしてしまう。

 しばらくすると落ち着きを取り戻し、散らかった部屋をゆっくりと片付ける。

 片付けると言っても最低限の家具を戻し、散乱したゴミはまとめてクローゼットの中に押し込んでしまう。私の悪い癖だ。

 

 この散らかった部屋の片隅に家を模したミニチュアが置いてある。

 ウサギの人形が人間の女の子の様に小さな部屋で生活している。私が幼い頃から置いてあるお気に入りのドールハウスだ。

 この散らかった部屋とは対照的に片付いた綺麗なドールハウス。


 昔は女の子のウサギの他にお父さんウサギ、お母さんウサギと三体の人形がセットだった。

 私はお父さんウサギとお母さんウサギが気に入らずにミニチュアのクローゼットの中に入れたまま随分長い間、放置してしまっている。

 現実でも私は家族との折り合いが悪く、その心情をそのままドールハウスにぶつけてしまったのだろう。


 何度か不思議な事があった……


 私は自分の感情がコントロール出来ずに部屋を荒らしてしまった翌朝の事だ。

 ドールハウスを覗いてみると目の前の部屋同様にドールハウスのミニチュアの家具が倒れている。まるで現実の部屋と連動している

ようだ。

 そして女の子ウサギの人形が、決まってミニチュアの部屋のクローゼットを眺めるように立っている。

 

 このような事が何度かあった……


 私は大切なドールハウスには手を加えない……何故、荒らされてしまっているのだろう?


 落ち着きを取り戻し、部屋とドールハウスを片付ける。ミニチュアのクローゼットを眺める女の子ウサギを見つめる。

 お父さんウサギとお母さんウサギをクローゼットに入れてしまったから寂しがっているのだろうか?

 私はミニチュアのクローゼットを久しぶりに開けてみた。お父さんウサギとお母さんウサギが女の子ウサギを見つめるようにクローゼットの中に入っている。

 まるでクローゼットの中から女の子ウサギを見守っているようだ。

 そんな馬鹿げた事を思いながらドールハウスを片付け終えたその時、背後から視線を感じた……


 私は部屋の中を確認し、窓の開け辺りを見渡してみる……やはり誰もいない。

 私は必死に視線の正体を探す。バスルームの中、キッチン、リビング、寝室……視線は正体を現さない。


「ねぇ!誰なの!?」


「もう、出てきて頂戴!!」


 私は半狂乱になりながら広い部屋の中で叫んでいた。


 ふとクローゼットが目に入る……散らかったゴミを無造作に入れていたクローゼット。


 開けるのは躊躇われるが思い切ってクローゼットを開けてみる。


 埃まみれのクローゼットの中には腐敗した二つの遺体が目を見開き私を見つめていた。


「なんだ……お父さんとお母さんだったんだ……」


 私は視線の正体が分かると、しばらくの間クローゼットの前に立ち尽くした。

 

 誰かに見られている……


 私は見られている感覚を拭い去る事が出来ない……


 視線の正体はクローゼットの中の両親だけではない……


 振り返り、大きな窓を見てみる……私を見つめる“大きな私”と目が合った。  


 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドールハウス(覗く目) 遠藤みりん @endomirin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説